青空の下で学びましょう

 長い走行を終えたバスを降りると、一同の前方に大きな建物が見えた。その建物こそ一、二組が始めに訪れる場所である空中都市記念歴史館、通称、空都歴史館である。


 バスを降りた生徒たちは一度クラスごとに列に並んでから、先生に先導されて早速、空都歴史館に入っていく。

 建物の入口までの道は整理されている。植物は少ない代わりに石造りの置物が置かれており、歩道がはっきりと分かれている。ただ、景観意識であろう置物の一つ一つが人型をしていて何やら見られているようだった。……アレな神殿の間違いではなかろうか。


 建物の中に入り、入口にある受付で先生が軽く話を済ませると、受付の人があっさりとゲートを開けてくれた。本来なら入場料が必要なところだけど、先に話を通しているからなのか、支払うことなく二クラスが館の中に入っていく。その際には当然の如く「館の中ではお静かに」と釘をさされた。

 歴史館の1階は、空中都市の歴史についての資料などが展示されているらしく、壁には稼動までの経緯を簡単にまとめた図表が見やすいように掛けられていたり、机には時期ごとの研究内容が機密事項を明かさない程度に記された書物が置かれていた。


「えー、これから時間を取るから自由に見て回ってこい。ただし他の客も居るから迷惑にならないようにな。あと、今度テストに組み込むかもしれないからしっかり見ておけよ」

「「「えー」」」

「静かに。さっき言われたばっかだろ。俺も見て回るから何かあれば言えよ。それじゃあ一度解散」


 その声を合図に、生徒たちは館内を散り散りに広がっていく。ある者はガラスケースの中の空中都市の模型に目が釘付けになったり、ある者はテストを意識して図表をメモしたり、またある者は人混みを避けて生徒の少ない二階から見ていく。

 そんな中で私は身近な展示物から見ていくことにした。


 まず始めに目にしたのは、最初期の研究内容を纏められた書類だった。此れは実際に触ることが許可されており、ページを捲ると最初期なだけあって簡単な研究が記されていて、子どもにも分かり易いように字には振り仮名が付けられ、実験の項目には文字の横に図が描かれていた。

 実はいうと、この辺りの簡単な実験などは小さい頃にも実際に見たことがあるのであまり驚きなどはない。とはいえ詳しい訳でも無いし、見ていて飽きない。やはりこの辺は研究者の血統なのだろうか。


「あ、これ懐かしい……」

「アオ…後ろ閊えてるわよ」

「え、あ、ごめん、どうぞどうぞ」


 振り向くと後ろに流れで来たであろう二、三人が並んでいたので書類を閉じて場所を譲ることにした。譲るとその二、三人は一緒に書類を閲覧し、時に気になったページを書き写していた。


「…何をそんなに見入っていたのかしら?」

「そんなに珍しいことは書いてなかったよ?それよりシロナは何か見たの?」

「一階を一通りね」

「早くない!?」


 さっき一緒に居た筈なのに、此方が書類を見ている間にシロナは一階を一通り見て回ってきたという。そんな莫迦な、と思ったけれど、シロナが言うには私が書類を読んでからもう三十分ほど経っているらしい。そりゃ後ろが閊えるよ。


「あれ?まだここだったのアオ?」


 隣の展示部屋から戻って来たであろうウタゲとよもぎんが集まってきた。


「二人も一階を全部回ってきたくちですかい?」

「まぁ、一応」

「…メモも写真もばっちり……」


 皆なんでそんな短い時間で一階全体を回ってこれるの?よもぎんに至ってはどこからかパンフレットまで貰ってきてるし…。私はまだ書類一つしか見てないんですが。一つ目で止まってたのは私だけども…。


「これから二階行くんだけど、一緒に回る?」

「うーん、私まだこれしか見てないから、後でメモとか見せてくれるのなら……」

「…いいよ…」

「それじゃあ、行こうかな。シロナも行くよね?」

「えぇ」


 四人揃って二階に行くと、そこはガラスケースの多いフロアだった

 二階には、窪みのある鋼鉄の塊や絡繰り装置等、空中都市完成までの研究で生み出された機械などが展示されているようである。レプリカも混じっているだろうけれど重要な物が多いから一階よりもガラスケースが多いのかな。

 ウタゲがガラスの向こうの大道具を見ながら言った。


「昔ってかなり大掛かりな機械とか使ってたんだなぁ」

「…エアクリスタルの扱いに慣れてない証拠?…」

「そういうこと?…どちらにしろ、今の小型装置とかはこれらの原型があったからあるんだよねぇ」

「…基盤に感謝…」

「感謝感謝」


 ウタゲとよもぎんが展示物に対してお辞儀をしている。

 なんだろこの光景…。


「それにしても、ここに展示されてるのって外装だけなんだね。まぁ、石が填められてたら作動するかもしれないから当然と言えば当然かぁ」

「そもそもエアクリスタルは高価だからね。ずっと装填しておくというのも無理なのよ。血縁とはいえ、アオみたいに一般人が持ってることも珍しいのよ」

「まぁそうなんだけど…」

「ていうか、エアクリスタルさえあれば動くのかな?これらって」

「さぁ、どうでしょうね?アオはどう思う?」

「ん?動かないんじゃない?エアクリスタルを填める場所は一応あるけど、安定装置とかは無さそうだし。旧式とはいえエネルギー変換や誤作動を防ぐ加工が成されてるはずだけど、これにはそれがないから」

「お、おう、そうなんだ……」

「…アオが科学者みたい……」


 何故、聞かれたことを言ったら軽く引かれるのだろうか。


「これはなに?」


 ウタゲが展示品の隣のコーナーで機材の一部を手に取って見ている。

 このコーナーでは机の上に置かれている複数の展示物に実際に触っていいらしく、今ウタゲが持っているのもその一つのようだ。その機材は小銃というよりは掃除機のような形をしていた。


「なんか筒みたいになってるんだけど」

「こっちに説明書いてるみたいだよ…エアクリスタルの力を風に変換する送風機…いや、何作ってるの…」

「変に使われるよりは安全的利用法なんじゃないの?」

「そう言われたらそうか」


 まあ、この階でガラスケースに入っていない時点で、其処まで危険な物な訳はないか。


「まだあるよ、軽く感じるピッケルに擬似魔法の絨毯、これなんて何に使うのか分かんないよ、浮遊人形だって」

「え、何?お遊びシリーズなの!?だんだん迷走してきたよ!」

「アオのその靴もこっち系だと思うけどなぁ」


 それを言われちゃあ…ねえ…。

 けど、浮遊人形だけは流石に何を目的としたのか分からないわ。


「…平和だなぁ…」

「そうね…」


 それから数十分、展示を見て回っていると突然館内に付けられている器具にノイズが奔り、館内放送が響いた。


『えー、課外授業中の一、二組の生徒に告ぐ。

そろそろ時間なので一階受付に集合せよ』


 それは先程も聞いた担任教師の声だった。

 他の客の迷惑にならないように、と言ってた割には遠慮無く放送を使うのね。朝だからまだ他の客は少ないけど。


「せよ、って何かの任務ですかい?」

「さぁ…?」


 放送に従って受付付近に戻ると、先生は受付の人と話をしていたので、生徒たちは自然と列を作っていた。これぞ訓練の賜物だ、知らないけど。

 私たちもその列に加わって待っていると、先生は話を終えて列を見る。


「それじゃあ、ここを出るが、全員集まったか?一応確認したが誰かいなかったら言ってくれ………よし、それではお世話になりました」

「「「お世話になりました」」」


 先生が受付の人にお礼を言うと生徒たちも揃ってお礼を言って、空都歴史館の見学は此れで終了となった。


 そして外にて。


「ああ、これからの話だが、

予定より少し早くなるだろうが昼食を取ることにする。そんで、昼食は近所の店を借りることになっているから此れから向かう。

それと、次の空結晶資料館まではバスを使わずそのまま徒歩で移動するからな」


 先生、食後に徒歩はきついものがあると思うんですが…。

 生徒たちは揃ってそんなことを思っただろうが、クレームは諦め、皆はその近所の店に向かって歩いていくだけだった。


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