青空の下へ行こう
課外授業当日。
何時もよりも早い時間なのに、不思議と目が冴えて、寝坊という心配は無かった。
「それじゃあ、行ってきまーす」
必要な物は荷物に全て詰め、朝早いので謎の気遣いで静かに自宅の扉を開いて外に出かける。家から出た直後に、向こうから来たシロナと合流して二人で学校へと向かう。
時間に余裕を持ちながら学校の敷地の前迄到着すると、そこには既に今回の移動で使うのであろうバスが数台止まっており、その隣では登校してきた生徒たちを教師陣が手に持った出席簿に印を付けながら纏めていた。朝早いからこそ学校の前で行っているのかもしれない。校門も何時もに比べると少ししか開いていないし。
「えっと……ソラノとユウキも出席っと……」
出席の確認をしている先生は定期的に歩道の方も確認しているようで、登校してくる此方を発見すると、此方が到着していないにも関わらず再び視線を出席簿に戻してペンを動かした。出席扱いになったらしい。
その先生のすぐ近くでは既に登校した生徒がクラス別に集まっており、その中にはよく連む生徒たちの姿も確認出来た。
集まりに近づくと、私たちに気付いた気付いたウタゲが手招きをしていた。
「おはよーウタゲ」
「おはようニシノさん」
「おはよーっす2人とも……っていうかアオ、それ何?」
挨拶を交わすやいなや、ウタゲの視線は下の方に向いていた。正確に言えば前日迄ウタゲの記憶には無かったエアクリスタル装着済みの例のブーツに。
「あぁ、これ?この前、物置を漁ってたら見つけたの。何かの発明品みたいなんだけど箱に入って眠ってたからいいかなぁって」
「発明品ってことはやっぱり博士のものだよね。…何か出来たりするの?」
「いやぁ、それが何も起こらないんだよね。一応起動は出来るんだけどそれだけなんだ。強いて言えば、足下が少し明るくなるぐらい?」
「何そのすっごいピンポイント…」
「填めてるのが私の石だからかなぁ」
「相変わらず謎だねそのエアクリスタル」
両足に付いたエアクリスタルを見ながら二人でうーんと唸った。
敢えて使い道を考えるとしたら、何か起こるぞと思わせぶりに起動させるならブラフとしては使えるかもしれない。どんな状況なんだと自分でもツッコミたくなるけど。
「アオ、履き慣れない靴だと靴擦れするわよ」
「それが不思議なぐらいしっくりくるんだよね。まるで昔から使ってたみたいな」
そう応えながら足を軽く動かす。
このブーツ、見つけたのがつい最近であるにも関わらず、オーダーメイドかのようにやたらとフィットしてくる。其れもブーツのサイズが丁度という訳でも無さそうなのに、ブーツの方が足に合わせてくるようなフィット感がある。
この不思議な仕様のお陰で動きになんら問題は感じなかった。
「案外アオの為に作ったものなのかもね」
「まっさかー、流石に無いって、靴のサイズも分からなければ何時このブーツを見つけるかも分からないんだよ」
「だよねー」
可能性としては遊びで造ったぐらいが妥当じゃないかな。彼処に置かれてたぐらいだし。
「おーい、そろそろこっちに集まれ!」
雑談していると先生のそんな台詞が耳に飛び込んできた。その声に振り向けば、雑談しているうちに周りに人が増えていた。どうやら気付かぬうちに時間になったようだった。
集合が掛かったから、私たちも雑談を切り上げて自分たちの合同クラスの列に並ぶ。整列には其程時間は掛からず、生徒が集まったのを確認してから先生が話し始める。
「さてと、もうそろそろ時間だ。出発迄はまだ時間はあるが、うちは全員揃ったから先にバスに乗り込んでおけ」
そんな先生の指示に従い、私たち一、二組は他よりも先にそれぞれのバスに乗り込む。私たちは揃って車内後方へと移動し、私が窓側の席に座り、その隣をシロナ、前にウタゲが座った。
全員が席に着いても確かにまだ出発迄の時間は残っており、その間、窓の外で先生たちが何やら話してから別れるまでを眺めていた。
先生達がバスに乗り込んだ頃には出席した生徒は全員バスに乗り込んでおり、先生が乗り込んでから三分もしないうちにバスは中学校を出発した。
バスが出発してから十分程が経過。
バスの中では到着までの長い待ち時間に早速雑談をしていたりトランプをしていたりと生徒たちは自由に過ごしている。特にすることのない私も暇を持て余してブーツを弄ってみたり、隣のシロナは持ってきた小さな書籍を読んでいる。
そんな時、座席の上に頭を出してウタゲがこちらを覗き込んできた。
「……何してんの?」
「ん?いや、暇だったからつい」
メンテナンスと迄はいかないけど、何か発見があるかも知れないし。…特に真新しい要素は見つからなかったけど。
「それで変に効力発揮されたら大変じゃない」
「それもそうか……で、危ないよそれ」
「座席が回らないんだからしょうがないじゃん」
「そういう問題なの……」
「にしても、アオのリュックなんでそんなにわしゃわしゃしてるの?」
足元に置いてあるリュックの中身に視線を落としながらウタゲがそんなことを言った。そんなことよりその姿勢危ないよ。其れはさておき、確かに私のリュックの中身の見える部分には課外授業のしおりやファイルに閉じられた紙束などが殆どだった。一応言っておくと見える部分が其れなだけで、底の方にはきちんと他の物も入ってるから。
「これは向こうで用事が出来たから」
「用事?」
「急ぎじゃないから明日の自由時間の時でいいんだけどね」
「ふーん」
「あ、心配しなくても必要なものも入れてあるから」
「なんだ、オチはないのか……しょぼん」
「何を期待してたのさ!」
顔文字ばりの表情を決めるウタゲにツッコミを入れたところで、外から入る光の加減が強くなった。どうやら住宅街を抜けてバスはガラス張りのトンネルの中へと進入したようだ。
このトンネルは道路以外がガラス張りという構築となっている為、慣れない者がその中を進むと、空の中を走っているような錯覚を受ける。人によっては恐怖を受けることもあるかも知れないけど、肝心の軸部分はガラスじゃなくしっかりと組まれているので結構丈夫らしい。
「皆、外を見てみろ。今このバスは都市と都市を繋ぐトンネルを走っている。例えて言うなら……ハンマー投げ選手のハンマーと選手の間のワイヤーにあたる部分だ!」
「せんせー、例えが微妙でーす」
「そこまでして例えなくてもいいと思いまーす」
「お前ら……もう少しさぁ……」
返しに弱い教師である。
それにしてもすっかりこの掛け合いがいつもの光景となっている。始めはもっとこう…あれ、どうだったっけ?
ま、どうでもいいか。
「どうしたのアオ?」
掛け合いから意識を外して、窓の外に向き直っていたところ、読んでいた書籍を閉じたシロナから声を掛けられた。
だけど、その声をどうしてか気付かなかった。
いや、どうしてなんて不確かなものではない。
「アオ?」
「え、な、なに?」
「どうしたのアオ?どこか悪いの?」
「いや、そうじゃないんだけど…さっきから変な感じがするというかなんというか…」
「…本当に大丈夫なの?」
「多分大丈夫、そんなに悪い感じじゃないから……なんかこう、不思議な感じ?」
「意味が分からないから」
始めは気のせいと思うくらいだったけど、バスが中央区に向かうにつれて、微弱ながらもこの感覚が感じ取り易くなっている気がする。まるで何かの存在によって感覚が喚起されるかのように。
その正体は分かる筈も無く、一行を乗せたバスは、トンネルを抜けて中央区にある第一目的地に向かって進み続ける。
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