青に至るための産物
天気の良いある日、自宅の物置を整理していた。
物置には使わなくなった物や置き場所の無い物などの他に、古くなって動かなくなった機械や埃を被り山のように積まれた本などが散乱していた。前者は兎も角、後者は主に祖父の物である。研究時期が過ぎて其処まで必要とはしていないようだけど内容が内容だとかで盗まれるのは困るものばかりなようで、手元に置いておくよりは此処に置いていた方が逆に安全だとか何とか。
ちなみに自宅には二つの物置が存在し、今居るのは祖父のソラノ・ウミオ博士が昔使っていた部屋のひとつであり、軽い研究部屋兼発明品の残骸や資料の置き場所として使っていた部屋である。
何故今頃この部屋を物色しているのかというと、事は数分前に遡る。
――――Purururu!
「ん~」
そよ風からして心地よい晴れた昼前。時間帯のこともあって静かな家の中に一本の電話が響く。それによって二度寝の誘惑に微睡んでいた私は現実に引き戻された。睡眠を邪魔されたからいっそ無視しようと思った。それか、放っておけば誰かが取るだろうとも思った。だけど、一向に取られることはなく電話は鳴り続ける。
そこでひとつのことを思い出した。今日は自分以外誰も居ない日なのだと。自分以外誰も居ないのだから誰かが電話を取る訳は無い。
電話の音に嫌気がさしてきて少々面倒くさがりながら身体を起こした時、二度目の着信が切れた。大抵の人はその辺で諦めて留守電に切り替えるだろうけど、次に電話が鳴った時は取ろうとは思った。その場合の相手は大体見当が付くから。
――――Purururu!
そして、予想通り三度目の着信。
念の為に自分の部屋を出ていたから、着信が切れる前に間に合った。
「……はい、ソラノです」
「その声はアオか?」
ソラノ家にかかってくる電話で留守電を使わず三回連続でかけてくる相手は一人しか思い当たらなかった。電話の相手は予想していた通り、祖父のソラノ・ウミオだった。
ちなみに三回連続で無視すると流石に留守電を入れてくる。この方式は自分ルールのようなものらしい。
「他はどうしたんじゃ」
「出払ってる。で、どうしたの?」
「いや、ちと用事ができてな」
「用事って?」
「急ぎじゃないんじゃが、昔の資料を出しておいてくれぬかのう。
必要になるかも知れないんでな、出しておいてくれたら時間が空いた時に取りに行くんからの」
「急ぎじゃないんだったら今度課外授業で中央に行くから持って行こうか?」
「おぅ、そうか、それは助かる。」
「で、何の資料が必要なの?」
「儂の部屋にある昔書いた結晶付与についての研究書類をちとのぅ」
「なんで今さら」
「言っても分からん助手が居てな……では頼んだぞ」
忙しいのか、用件を訊いたらさっさと電話を切られた。
―――そして現在に至る。
探すと言ってもこの山からどう探せばいいんだろ……。今では物置としているだけあって、関係ない機材とかは除外したとしても書類だけでも結構な量はある。いっそのこと全部持って行くという手も無いわけでは無いけどそれは負担が大きい。主に物理的に。
悩んでいても進まないし、取り敢えず目の前の山を上から確認することにした。開始さえしてしまえばいつかは見つかると願いながら、一冊ずつ手に取っては埃を払う。
「浮力と反発の関係とエントロピー……こっちは非物質の結晶化現象と検証記録……」
……さっぱりわからん。
エアクリスタルの性質についての資料ってことは分かるけれど、其処に出てくる用語が専門的過ぎて分からない。此れでも実験とかを間近で見た事はあるのだけど、文章に変換されると途端に分からなくなる。
特に結晶化って何?人工クリスタルのこと?それとももっとやばい感じのこと?
全てを知っている訳ではないけど、言葉に出来ない妙な感情が過ぎった。
悩みながら捜索を再開すると、次に出て来た資料集が目に留まった。その資料集には“結晶の共鳴現象”というタイトルが書かれていた。先程のも現象だけどこれはまた別の現象の資料。
其れは別に探していた物ではないのにそのタイトルが異様に気になった。内容は当然理解している訳ではない。其れなのに関心が湧く。
関心のままに資料集を開く。開いたページにはこう書かれていた。
『――度重なる検証によりエアクリスタルは共鳴することが判明した。
この共鳴現象はただ反応するというだけではない。
同性能の結晶を複数並べれば互いに響き合いその効力は想定を遥かに超えるほどに高まっていく。
この理論を基に性能の異なる結晶Aと結晶Bを用いてみたところ、稀に性能の高い結晶Aが低い結晶Bの性能を引き上げるという結果が出た。
だがこの結果が起きた場合、引き上げられた結晶Bは過剰な負荷により自壊する。
我らはこの共鳴の仕方を
さらに、影響力が極端に高い結晶は周囲の結晶を巻き込み、起動、共鳴する。
この現象は頻繁に起こるものではなく、最高ランクのものでも狙って起こすことは出来ない――』
思いの外エアクリスタルの効力の扱いにも色々あるようである。
そう思いながらさらにページを捲る。
『――共鳴は結晶だけのことではない。人や物もその影響下の可能性がある』
…どういうこと?
『これは仮説だが、稀に強力な結晶の傍に居ることでその影響を受け結晶と同質の存在という扱いになり共鳴を引き起こす可能性がある。此れはある意味では可能性であるが、言い換えれば毒性とも言えよう。
私はこの可能性を危険と判断し、強力な結晶を用いるものには安全装置を取り付けることにした。この仮説の真相は謎のままである。願わくばこの仮説が杞憂であるよう――』
ガタタッ!!
其処まで読んだところで耳に何かの音が届き、反射的に振り返る。見てみれば後ろの山が崩れたようだった。資料にのめり込んでいるうちに身体でも当たったらしい。だけど、幸運なことに崩れた中に目当ての資料と思しき物を見つけた。
目当ての資料を拾おうと近付くと、その近くに蓋が微かに空いた箱がある事に気付いた。
「なんだろコレ?靴?」
その箱に入っていたのは変わったブーツだった。
一見すると普通の革のブーツに見えないことも無いけれど、明らかに材質の異なるものが取り付けられている。足首の周辺を輪状に鋼鉄製の加工が成されていて、その鋼鉄がブーツの側面で大きな窪みを作って、出っ張っていた。
「この窪みの大きさ……もしかして…?」
その出っ張った窪みを見て一つ可能性を思い付いた。
「どうせ此処に置いてあるんだから持って行っても大丈夫だよね」
思い付いた其れを確かめる為に目当ての書類とブーツの入った箱を一旦自室に持って行くことにした。
自室の戻ってきた後、勉強机の上からエアクリスタルの入った小瓶を取り、その中身を取り出しては試しにブーツの側面に填め込んでみた。すると思った通りぴったりと結晶は填まった。
結晶を填めると先程まで動かなかった出っ張りはスイッチのように動くようになり、試しに押し込むとカチッという小気味良いと共に機械部分に光が奔り起動した。
「……やっぱり無理か」
起動はした。だけどそれだけだった。
確かに作動はしたが、填めたのが例の蒼い結晶な為、まともには動く筈はなかった。スイッチをもう一度押すとスイッチはまた出っ張り、光が消えて停止した。
使えるというレベルでは無いけれど、折角見つけたし、エアクリスタルの使用法としては丁度良いからこのまま貰っておくことにしよう。もしかしたら何かの偶然で動き出すかもしれないし。
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