青空のしおり
「「「課外授業?」」」
「そうだ」
それは五月も中旬に入った頃。
朝のHRに社会担当兼理科担当兼クラス担任(字にするとなんか凄い)の白衣を来た教師が言ったことが始まりだった。
「今年は少し早いが二年のこの時期になると一度、二クラスずつ合同で各所に行って実際に学ぶ決まりになっているんだ。詳しい話はまた今度改めて言うだろう。今日はほんのお知らせ程度だ」
「先生、みんな一緒じゃなくて大丈夫なんですか?学習内容的に」
「ああ大丈夫だ、順番が違うだけでローテーション式に結局は全部回ることになるからな」
「先生、私たちは何処に行くんですか?」
「詳細はまだ秘密だが、各クラス中央区に行く予定だ」
この空中都市-ソラシロ-には七つのエリアがあり、一際大きな中央エリアを中心に六つのエリアに道が繋がっており、そのエリアもまた隣のエリアに繋がっていて、まるで生命の樹を簡略化したような形となっている。
そして現在私たちが暮らしているのは外側のエリアに位置する住居区の一つである事に対して、課外授業の行き先の中央区は空中都市の中心に位置し、様々な研究機関や最先端技術が集まっていることもあり最も栄えていると同時に重要な場所である。
「そんじゃぁ、課外授業のことは伝えたし次の準備もあるから俺はもう行くぞ」
お前らもちゃんと授業受けろよ、と言い残しては先生は去っていった。
その後、授業が始まるまでの空き時間、教室内は課外授業の話題で持ち切りだった。それもそうだろう。外側のエリアが田舎だとするなら中央区は様々な面で最先端を行く言わば大都会、年頃の子どもなら一度は行ってみたいと言うのも普通だろう。
「中央区かぁ」
「久しぶりね」
「二人は行ったことあるの?」
「まぁ何度かね。昔、私の家とシロナの家とでよく旅行に行ってたことがあってね」
「五年くらい前だったかしら」
思い返せば懐かしいなぁ。
おじいちゃんはウチとは別に活動拠点のように家を他にも持っているから、あの時はよくその家とかに泊まりに行ったなぁ。
最近は研究だったりで都合が合わなくて行けてないけど。
「へぇ…。じゃあ案内は2人に任せれば楽しめそうだね」
「あ、観光場所とかあんまり覚えてないからそれは無理。昔のことだし」
「それに、あくまで授業の一環よ」
「ぉわ…分かってるって」
痛いところを突かれた?のか、わざとらしく頭を押さえてイタタとオーバーなリアクションをする生徒。それ其処までショックを受けてないね。
まあ、覚えてないってのは嘘だけど、其処まで地域に詳しいって訳でも無いし、其れに、覚えていたとしても五年くらい前のことだから、色々と変わっていても不思議じゃないからね。
そして課外授業の存在が知らされてから五日後。
この日の五、六限目はクラス担任が言っていたように課外授業に関する説明の時間となった。うちのクラスは隣のクラスとの合同授業となっており、残りのクラスもそれぞれ二クラス毎に説明の時間を取っている。
「さて、皆課外授業が行われることは事前の知らせで知っているだろう。六月の初めに三か所を順番に回るんだが、このクラスはまず空都歴史館に行くこととなった」
空都歴史館、正式名称は空中都市記念歴史館。
空中都市の稼動を祝って建てられた記念館で、その内部では空中都市が稼動するまでの経緯やそこに至るまでの研究での産物が展示されているらしい。
ちなみに、
三、四組は空結晶資料館(空結晶はそのままエアクリスタルのこと)、
五、六組は中小企業レベルの開発局、
から見学に行くらしい。
「ちなみにこれは泊まりがけだ」
「「「えー!?聞いてないよー!!」」」
……なんでみんな芸人の伝統芸みたい反応なの?
あと先生も、そりゃ今言ったからなってなんでドヤ顔で言ってるのさ。
「移動の事もあって一日で回るのはキツイってこともあって二日取ったらしい。
ほら、これがしおりだ。今から配るから後ろまで回せよ」
そう言い終えると列の先頭に先生はしおりの束を渡し、生徒は順番に自分の分を取っては後ろに渡す。私の所にも束が回ってきたから、自分の分のしおりを取っては後ろに渡す。
まだ皆に行き届いてはいないけれど、皆回ってきた傍からしおりを開いているから、私も同じようにしおりを確認する。肝心のしおりは数ページしかないのかとても薄い(下手に多くても困るけど)。表紙はしおりと書かれた下に謎の六角形が小さく描かれた飾り気がなくシンプルなデザインとなっている。まず、しおりを開くとご丁寧に目次が記されていた。その隣のページには課外授業の目的という項目があり、それによるとこの課外授業は現在の生活についての理解と知識を養うこととクラス交流という目的があるらしい。
さらにページを捲るとスケジュールが書かれていた……のだけど、それがまた極端な時間配分だった。
「集合時間早っ!」
同じページを見ていたであろう生徒の一人が叫んだ。きっとその生徒だけでなく他にも思った人は居るだろう。
一日目その一、まず早朝の六時に校門に集合することから始まる。
「それは仕方がないだろう。エリア間の移動は結構時間がかかるんだからな」
複数のエリアから成る空中都市はエリア間の移動には通称トンネルと呼ばれる橋を用いる事が主となっている。広大なエリアを繋ぐ道橋を渡る場合、交通手段や何処から何処までにもよるけれど早くとも二時間程度はかかる。渋滞に引っかかった時などは……お察し下さい。
「先生、これ移動は三時間かかるんですか?それと歴史館でも二時間ほど使うんですか?」
一日目その二、二時間に及ぶ空都歴史館観光。
「時間は余裕を持って決めてるが、もしかしたらずれるかも知れないし、延びるかもしれない。先方にもそのことは伝えてある。というか、歴史館の時間はがっつり学ぶならこれでも少ない方じゃないか?」
「昼食はどうするんですか?」
「昼食に関してだがそれは学校側の奢りってことになってる」
「マジっすか!」
「太っ腹~」
「メニューは決まってるがな」
「「「えー」」」
「別にいいだろ!人数が多いんだから!」
昼食を用意する手間は特に無いらしい。朝が早い事に対する配慮かと思ったけど、ただ単に単独行動を防いだだけみたい。まあ、メニューが決まっているし給食みたいなものだと思おう。
一連の流れを見てからしおりに視線を戻す。
一日目その三、空結晶資料館。その名の通りエアクリスタルに関する資料館。
「此処ではエアクリスタルの性質とかの復習だな」
「あとは何があるんですかー」
「あとはランクごとの使用用途とかだな?」
「実際に使えたりするんですか?」
「資料館だって言ってるだろ、本物が展示されてることはされてるが全部厳重に保管されている」
「えー、残念」
「盗むなよ」
「………盗みませんって」
「なんだ今の間は!」
それから授業中、その生徒には疑いの眼差しだったとか。
そんなことより一日目その四、開発局の見学。
…個人的にはこの辺はもう見た事があると言えばあるんだけどね。
「…実際に開発してるところを見れるの?」
「ああ、重要な部分は流石に見れないが、簡単な組み立てとかなら見学させて貰えることになっている。一応少々の体験も予定してる」
「自分で作れるんすか!?」
「其処はあちら次第だ。まあ出来ても簡単な組み立てだがな」
「それ貰えたりしないんですか?」
「どうだろうな、高い素材を使っていたりしたら貰えないだろうな。
ま、そんな素材を素人に使わせたりしないだろうがな」
「ケチだなぁ」
「そういうもんだろ」
まあ向こうも開発費用とか資材とか決まってるし、余裕がある範囲でしか貰えたりしないだろうね。クリスタルを使ったら尚更。
それにしても、なんか話が脱線していってる気が……。
そんな事を考えてると後ろから背中をつつかれた。
「アオ、アオはやっぱり開発とか興味あるの?」
「そのやっぱりって何?」
「いやぁ、だってその手の関係者でしょ?」
「関係者って……」
かなり広く捉えるなら関係者と言えなくもないけど、私自身エアクリスタルは持ってはいるけど開発とか研究は一つもしてないから直接は関係ないよね。研究者の孫ってだけだし。
小声での会話も軽く済ませて次を確認する。
一日目その五、宿泊先に移動して予定が詰め詰めの一日目は終わる。
バラバラに回っていた各クラスがこの時に再集合するらしい。二クラスだけなら兎も角、学年が揃うとなるとかなりの人数だけど、宿泊先は其程大きな所なんだろうか。
ちなみに夜には何かしらの催しをする予定はあるらしい。予定なので進行の状況によっては変更の可能性もあるらしいけどね。詰め詰めの予定の後だからなあ。
そして二日目なんだけど……
「喜べ、一日目に殆ど詰めてあるから、二日目は完全フリーだ!」
内容は無いようです。
スケジュールが極端というのはこういうことである。
一日目が早起きしてまで予定を殆ど詰め込んでいた事に対して、二日目は帰りの時間以外殆ど予定が入っていない。完全に自由行動。なんなら遅くから行動しても良い。まあ折角の中央を見て回れる機会だから、睡眠を優先する人はあまり居ないかもだけど。それにしても、泊まりの学習である理由が自由時間を確保する為だとは。
とはいえ、先生の二日目フリー宣言には教室中が沸いていた。流石に行動範囲が制限されて、昼食も各自ということが知らされれば、少しは落ち着いたのだけど。
「今度は奢りじゃないのかよ」
「皆が思い思いに動くのに面倒見きれるか。これも社会学習だと思え」
なにその社会学習……。
なんて思ったけど、他の生徒は自費とはいえ自由に出来ると自分に言い聞かせていた。
「そんでだ、今から班行動のために四、五人程度の班を決めてもらう。課外授業中は常に班で行動し、何かあったときは助け合うように。
ちなみにこの班は部屋割りも兼ねてるからな」
班かぁ、まあ悩まなくともシロナたちと組めばいいか。などと思っては思考を放棄して、外から入ってきた微風に当たりながらぼお~っとしていた。
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