青い結晶

 朝から想定外で怒濤の消耗があったけれど、午前の授業が全て終わって時間はすっかり昼食時。此れで少しは休める。


「ぁ~お腹すいた」

「そうね、そう思うなら場所空けてくれない?」


 此方が力尽きてる前でシロナが前の席の椅子に腰を掛ける。前の席の子は他の場所へと行ったから問題はない。シロナの手には昼食が用意されている。


「のぅのぅシロナさんや、私のお弁当取ってくれませぬか?」

「それくらい自分で取りなさいよ、もぅ」


 なんて文句を言いつつも、シロナは私の鞄からお弁当を取り出して机の上に置いてくれる。うん、いい人ですわ。


「おやおやお二人さん、私たちも混ぜてくれませんかねぇ?」


 先程の私みたいな口調の声が聞こえ、顔を上げるとそこには両手にいくつかのお菓子を持ったウタゲと隣のクラスのモチノキ・ヨモギ(通称よもぎん)が居た。

 そんな事よりも何故その口調?自分で言うのも何だけど、その口調流行ってるのかな?……いや、流行ってないね。ウタゲの事だから絶対にさっきの流れを見てたな。


「ウタゲ、今日はお弁当じゃないの?…というかその手のお菓子は何?」

「いやぁ~、お弁当忘れてしまいましてね~、みんなに恵んでもらってたらお菓子が集まりまして」

「お昼ごはんがお菓子…」


 皆がお菓子を持っている事は別に不思議ではないとして、逆によくお菓子ばっかり集まったね。変にノったね皆も。


「いやいや何その哀れむ目は、よもぎんにもお団子恵んでもらうから」

「…うん…」


 それを証拠付けるように、ウタゲと一緒に来たよもぎんの手には自身のお弁当箱とは別に団子串の入った透明なケースが抱えられていた。流石、実家が老舗のお団子屋さんなだけはある。

 よもぎんの実家のお団子屋は数代続いているお店で、この街でも其れなりに有名なお店であり、別のエリアからも買いに来る人が居る程。

 どうせなら私にもくれないかな?


「はいはい繋げますよっと」


 流石に4人集まると机が1つじゃ狭いから、ウタゲがささっと隣の机を借りてはくっつけて場所を広げる。


「ぁー、午前だけで凄い疲れた……あと何だっけ?」

「午後は確か……家庭科と応用技術だったかしら?」

「応用技術かぁ、めんどくさそうだなぁ」


 自分の弁当を食べ始め、ミートボールを口に運びながら脱力した。


 応用技術とは一般的に普及されている技術について学ぶ科目であり、科学技術はもちろん、エアクリスタルの性質や飛行技術の理論なども含まれており、この辺りは理科学分野でもあったりするのだけど、応用技術はいろんな分野を実技を交えて学ぶのである。

 中学校で学ぶ規模ではないので、あくまで常識レベルとして、専門分野みたいに深く学ぶのではなく、浅い代わりに幅広くである。でないとキツい。


「そういえば応用技術で思い出したんだけど、アオ、社会の時間に博士の話になった時、エアクリスタルを持ってるか聞かれて“立派な物は持ってない”って言ってたじゃん?じゃあ、屑結晶とかは持ってたりするの?」


 突然ウタゲが思い出した事を言った。

 あの言い方だったら立派な物はなくとも、クリスタル自体は持っているとも持っていないともどちらとも解釈出来るよね。まあ正解としては持っているんだけど。けど、アレはどういう扱いをすればいいのか分からないから、他に言い方思い付かなかったんだよね。


 正面ではシロナがこの展開を予想していたように「まぁ当然ね…」と呟き、その横では、クラスが違って唯一話を知らないよもぎんが「何の話?」とでも言いたげな顔でシロナの方を見ていた。


「一応持ってるよ」

「今持ってたりは…?」

「持ってるよ、お守りとして」

「見せてと言ったら…見せてくれたりはしませい?」

「いいよ、友達ではシロナぐらいにしか見せてないんだけどね」


 そう言ってから、私は自分の鞄から一つのガラスの小瓶を取り出して机の上に置いた。其れは小瓶と言ってもそこそこ大きさがある。そして、その中で光を反射している物を見てウタゲとよもぎんが初めは興味本位で喰いついたのだがすぐに反応に困ったようだった。何故なら…


「……蒼?」


 そう、小瓶の中には丸く加工された握り拳ほどの大きさの二つの結晶体が入っており、その色は二つとも透き通った蒼色をしていた。


「エアクリスタルにこんな色あったっけ?」

「ないだろうね、多分」

「これ結構レア物なんじゃ……っ」

「色だけだとそうかもね」


 エアクリスタルには大きく分けて、赤色、黄色、緑色、三色の物が存在する。赤色が最も質が低く、緑色に近付くにつれて質や安定感が上がっていく。色だけでなく、純度の高いもの程透き通ったものとなっており、ランクが高いもの程鮮やかな緑色に近づくと世間でも知られている。だけど、小瓶の中に入っている二つのクリスタルは他に類を見ない綺麗な蒼色である。

 これだけを聞くとマニアなどには高価で取引されそうな代物なのだけど、エアクリスタルとしての性能は謎である。何せ此れまで一度もエアクリスタルと運用出来たことは無い。試す機会が無かったと言う訳ではなく、本当に使えない。

 純度だけなら相当なものだと判断できるけれど、ランクとなるとよく分からない。

というより規格外である。


「…これって本当にエアクリスタル…?」

「一応ね」

「何その言い方」

「エアクリスタルなのは確かなんだけど……少しも反応しないんだよね。

あ、よもぎんお団子一つ頂戴」


 エアクリスタルは専用の機械に組み込んで使うのが安定性も高くて基本的とされるけれど、操作性が必要でないなら組み込まなくても微量の効力を発揮することが出来る事を知っている。

 だけど、この二つのクリスタルは浮力を生むことは疎か、発光することもない。光ったと思っても日光が反射しただったりな事も多い。


「で、結局これどうしたのさ?やっぱり博士にもらったの?」

「うん、小さい頃におじいちゃんに貰った私の宝物」

「…けど反応しない…」

「まあ、おじいちゃんも欠陥品って言ってたからね」

「おいおい」


 けど、その時おじいちゃんはこれを“欠陥品”であると同時に“種”とも言っていた。あっさりとくれたけど、生かすも殺すもどうなるかはこれから次第と、意味深な事を言っていた。流石のおじいちゃんも此ればっかりは予測出来ないみたいだった。


「だからこそアオの手元にあるのかもしれないわよ。

……私もお団子貰っていい?」

「うん」


 まぁ、そうかもね。

 いくら純度が高かろうと反応しなければ組み込んで使うこともできないから、だからこそ欠陥品として私の下に来たのかもしれない。欠陥品じゃなかったら今頃何処かしらで使われてるだろうし。


「けどさ、どうしたら反応するんだろう」

「全く反応しないってことでもないんだけどね」

「え、嘘!?」

「最近になって光ってることもあるんだよ。極稀だけど」

「…え、それだけ!?」

「うん、それだけ」


 それだけと言うが、反射でなく光るようになっただけでも結構な前進なんだよ?…なんで光るようになったのかは分からないけど。


「御馳走様」


 そうこう言っている内に、シロナとよもぎんが食べ終わったお弁当を片付け始めた。それを見て私も片付けねばとお弁当箱と宝物を鞄に仕舞う。昼休みはまだ時間があるけど、少し休みた―――


「アオ、まだ時間があるのだから、今のうちに保健室に行ってきなさい。何なら一緒に行ってあげるから」


――――い、と思ったけど、そういえばまだ行ってなかった。

 どうせ他の休憩時間だと時間が足りないような気がするし、確かに今の内に行っておいた方が良いかもね。


 解散とばかりにウタゲとよもぎんと別れて、シロナと保健室に行こうとしたら、何故か二人もついてきた。こんなに大勢で行く必要ないと思うんだけど。看て貰うのは私一人だし。


 ちなみに看て貰った結果は、症状などは無く、健康体そのものだった。

 軽く説明をした先生からもよく無事だったなどと褒めているのかよく分からない事を言われた。



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