青の歴史 side シロナ
「西暦2100年、惑星の生態系が激変したのと同じこの年に第一の空中都市が正式稼働したんだ。それが今、君たちの居るこのソラシロだ」
「先生、それは知ってまーす」
「お、じゃあここの範囲は全員満点取れるってことで良いんだな?取れなかったら罰ゲームでもするか?」
「「「「それはやめろ!」」」」
2限目の授業は社会。とはいえ内容は現代の事柄ではなく歴史が主。
教室の前方では白衣を着た教師と何人かの生徒との会話が繰り広げられている。態度がフランクで生徒ともこのように軽口を叩けるのは打ち解けているようで良いのだけど、授業の脱線が多いのは教師としてどうなのかと偶に思う。
私の席は教室の後ろ側である為、自分から口を挟まなければ然程話題が飛んでくることは少ない。そう分かっているから、手元にある板状の薄いデータ端末の画面を次のページを開くために指でスライドさせる。
この端末は私だけが使う物ではなく一般に普及されている教材の一種である。
昔は授業といえば紙製の教科書やペンが基本であったと訊くが、今の時代では飛行技術の向上に伴って他の技術も著しく発展している事に加え、自然資源の事も考えて、このようなデータ端末が授業などに使われるのが一般的となっている。
とはいえ紙がこの世から無くなったという訳ではなく、人によっては状況に応じて紙とペンを使う場合もある。授業でも端末が使えない場合は紙とペンを使用している。
補足として、今私が使っているのは旧型であり、最新型のモニター展開型の小型端末も幾らか普及されている。このクラスでも何人かの生徒が使用している。
最新型は展開の関係でモニターさえも省略しての小型化と其れによる軽さや持ち運びの良さが優れているけれど、展開にもエネルギーを使う性質上バッテリーが長く持たない。それに比べて、旧型は少々の重さや場所をとるが、ハードが既にモニターの形をしている為に長持ちし、最新型よりも多くのデータを記録して置くことができる。どちらが優れているかは、その人や状況次第である。
今、授業でしているのは歴史の中でも今の時代に繋がる最も重要な空中都市の始まりに関する事である。この辺りの分野は重要であるが為に学年関係なく繰り返し行われており、殆どの生徒が程度は違えど覚えているだろう。それ故復習という意味合いが強い。
私としてもこの辺りは大体覚えているため、授業を受けながらも頭の中では半分ほど聞き流していた。其れでも問われれば答えられる。
ずっと液晶を眺めているのも疲れるので、息抜き代わりに窓側の席に座っている幼馴染の様子を確認する。朝から走っているから流石にそろそろ……
――アオがしんでいた……。(比喩的な意味であって実際には生きている)
その幼馴染、ソラノ・アオは机に伏して止まっていた。
授業の初めに見たときはまだ平然としていたのだけど、流石に限界か……。
朝からあれだけ走った上に、先程の授業では持久走を、その最後で時間に追われて疲れていたにも関わらず全力疾走をしていたのだから、アオの体力なら無理もない。加えて、朝のあの件もあった。
とはいえ、疲れているのは仕方が無いとしても、流石にこの授業だけは起きていた方がいいんじゃないかしら…?
何故なら――
「―――でだ、新時代の立役者、ソラノ・ウミオ博士がクリスタルエンジンを開発してくれたおかげで俺たちは今こうして生活出来ているんだ。エンジンだけでなく、クリスタル関係には色々と関わっておられる。これらの功績を称えられて博士にはノーベル賞が送られている」
「博士は今どうしてるんですかー?」
「さっきも言った通り、博士は今でも最前線で活躍していらっしゃるんだ。エアクリスタル絡みの新たな研究などには大方関わっていると聞く」
「へぇ~」
授業は大まかな歴史の振り返りから、空中都市の説明には欠かせない重要人物の話へと移っている。確かにこの話においては無くてはならない程の重要人物であるけれど、その話を聞いておくべきであろう人間が只今聞く耳を持っておりません。
「先生、ソラノさんってソラノ博士と関係があるんですか?」
生徒の一人が気付いたようにそんな事を言った。
その台詞が出た途端、小さくではあるけれどビクッとアオの身体が一瞬だけ揺れたように見えた。参加する気はなくとも一応は聞き耳を立ててはいたらしい。
「ん?あぁ、確かソラノはソラノ博士のお孫さんだったか?」
教員が其処までの個人情報が載っている訳でも無いのに出席簿を確認しながらそう答えると、案の定、其れを知らなかったクラスメイトたちが沸いた。
「え!?」
「マジか!」
「凄い、有名人の血縁じゃん!」
自分に矛先が向いていると認識して流石に寝ていられないと悟ったのか、眠たそうな顔ながらアオが起きた。
こら、しゃんとしなさい。
「博士ってどんな人?」
「ふわぁ…割と普通だよ…」
「博士の研究見たことある?」
「…昔はよく見てたけど、最近は見てない」
「研究どんなのだった?」
「…なんかこう、ふわぁっと…?」
「ソラノさんの家に博士居るの?」
「今は居ないよ…基本中央に住んでるから偶にしか帰ってこないし」
クラスからの質問攻めを面倒くさがりながらも応えるアオ。
この感じ、前にも見たことある気がするわ。小学校の頃もこんな感じで質問攻めに遭ってたなぁ。ソラノ博士の名前が出ると名前繋がりでアオに少なからず話が振られるのよね。アオ自身別に隠している事でも無い事実だからあっさり認めると後は今のように。以前はもっと激しくて助け舟を出したりもしたけど、今回は大丈夫そうね。というより、距離的に出せない。
「ソラノさんもエアクリスタルを持ってたりするの?」
「そんな立派な物は持ってないよ」
立派な物は……ねぇ。
「ほらほら、質問はそれくらいにして授業に戻すぞ」
流石に脱線が過ぎると判断したようで、パンパンと手を叩きながら授業に戻す教員。其のお陰で席を立ちかけているような者も居たけれど、一人残らず座り直した。根は真面目なクラスである。
それにしても、ソラノ博士かぁ…。私もおじいさんには久しく会ってないなぁ。
私たちの親同士が友達だったから昔から家族ぐるみでの交流が多かったからこそ、ウミオおじいさんにも会ったことがあるだけでなく、孫のように可愛がられた事もある。
今でも現役ではあるようだけれど、お元気かしら?
「さて、ここでおさらいを兼ねての抜き打ち問題だ」
「「「えー!」」」
「えー、じゃない!…正解したら俺が今持ってる菓子をやろう」
ブーイングすら上がっていたのに、菓子と聞くやブーイングが歓声に変わって目の色の変わる生徒たち。これはまた現金な…。まあ殆どは本気で反感していた訳ではなく、その場の雰囲気で騒いでいたのだろうけれど。このクラスなら有り得る。
「空暦の始まりは西暦何年だほらそこ!」
そして始まる無差別出題。
「私!?えっと西暦2100年です!」
「はい正解、では第一の空中都市が稼動したのが2100年・・・ではソラノ博士がエアクリスタルを解明し証明したのは何年頃のことだった、はいそこ!」
「今度は俺か!?えっと・・・やりましたっけそこ?」
「そこはさらっとやった!」
「さらっとかよ!」
「はい不正解。では斜め後ろのユウキ!」
「はい、2092年頃です」
そう答えると、通り過ぎ様に小さなクッキーを貰った。そして教員は直ぐに次の人へ問題を出題していた。
さて、食べるのは後にして、また授業に集中しないとね。
……ほらそこ、矛先が外れたからと隙を見て寝ようとするなアオ。
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