青い空の下

 朝になんやかんやあったものの、何とか閉められそうだった中学校の門を潜って、自分たちの教室へと急いだから、遅刻判定にはならずに済んだのは良いんだけど…


「ハァ、ハァ、…1時間目から体育ってこと忘れてた…しかも持久走だし…」


 なんでまだ4月なのに一時間目からいきなり持久走なの?そりゃ別に初回授業じゃないけどさ、いきなり持久走にしなくても…。こちとら疲れてるのに~。まぁ、疲れてるのは私たちの問題だからそこにはあまり文句言えないんだけど……。なんで一緒に教室に滑り込んだはずのシロナがあんなにケロッとしてるの? 解せぬ。


 コースの少し先を見てみればシロナが平然と、疲れを感じさせないような表情で走っていた。あれでも私より3周も先を走ってるんですよ…信じられますかね…。


「…シロナって見かけによらず体力あるよね…」

「それに比べてアオは体力無いねー」


 独り言のように呟いた言葉だったのに、後ろから返答じみた声が聞こえてきた。まあ走ってる最中で抜かし抜かされだから、何時の間にか後ろに人が来てても驚きはないけど。


 声をかけてきたのは同じクラスで友達のニシノ・ウタゲ。

 感覚としては彼女は前を走っていたような気がするのだけど、追い抜いた覚えがないので、どうやら周回して追いつかれたようだった。


「ウタゲには言われたくないよ。ウタゲも持久力ないじゃん!」

「だからもう限界!この辺でゆっくり走ろうかなって」


 確かにさっきよりも速度は落としてるように見えるけど、言葉の割になんか元気そうにも見えるんだよね…


「それはそうとアオってそんなに体力無かったっけ?まだ最終じゃないでしょ?」

「いや、これは、色々ありまして」

「色々って、遅刻ギリギリに来たやつ?アオはともかくユウキさんもギリギリに来るって珍しいから気になってたんだよねー」


 ちょっと君?私はともかくって何さ?

 此れでも一応はまだ無遅刻無欠席を貫いてるんですが?……といってもまだ新学期が始まって一月も経ってないし、幾らかシロナのお陰の所が多いんだけどね?

 まあ私と違って、シロナは容姿・成績・態度の3要素で優等生的印象を与えてるから遅刻間際で来たら何かあったのかと気になるのは当然なのかもね。


「まあ簡単に言えば、人助けして説教受けた」

「…は?」


 説明を欲していたから説明したのに、ウタゲに呆れられた。結構簡潔に纏めたと思うんだけど。端折ったところもあるけどしょうがないよ、大体その通りだもん。


「…一体何したの?」

「何って…子どもが木にボール乗せて困ってたから取ってあげたぐらい」

「なんでそれで説教に繋がるわけ?人助けでしょ?」

「実はあの時、木に登ってたんだけど誤って木から落ちてね、割と高さあったから何かしら覚悟したよアレは」

「あー、其れで怒られたと。よく無事だったねアンタ」


 正直あの時の事は自分でもよく分かってないんだよね。木の高さが其程じゃなかったとはいえアレは確実に後に引きずるレベルでやっちまったと思ったんだけど、気付くと特に怪我もなく地面についてたんだよね。……頭は打ったけど。

 落ちてる時に変な風を感じたと言えば感じたけれど、あの程度で衝撃が和らぐとはどう考えても思えない。

 軽減についても分からないけど他にも…、なんというか、何故かあの時の風に、優しいというか、懐かしさすら感じた。あの感覚は何だったんだろうか?


「…我ながらよく生きてたよ」

「なんか他人事みたいに言ってるけど、本当に大丈夫なのソレ?一応医者に見せた方がいいんじゃない?」

「割と平気なんだけど、後でちゃんと保健室に行くようにとは言われてるからねー。時間に余裕があったら行くことにするよ」

「その方が良いよ。後から効いてくるとかはよく聞くからね。油断は出来ないって」


『コラ!そこ!いつまでも喋ってないでちゃんと走りなさい!』


 流石に此処まで話しながら走ってたら先生にも注意されるか。ちゃんと走ってますよー。速度はまあまあ落ちてるんだけど。


「さて、注意されたしちゃんと走るとしますか。下手に此処で周回増やされたくないからね」

「ウタゲはあと何周?」

「うーん、さっきので残り1周ってとこかな?よく数えてなかったかもだけど」


 1周差がついてると思われるウタゲが残り1周なら私は2周ってところかな?

 そこ、覚えてろよとか思った奴、話しながら走ってたら覚えてたものが飛ぶんですよ。…なんて冗談は置いて、気が紛れていたお陰なのか先程の分の疲れは感じない。これなら残りの分の体力は持ちそうかな。


「けどまぁ、時間はまだあるから別に急がなくてもいいよな」

「あ、シロナだ。やっぱりもう終わってるみたい」


 ゴールして休んでいたらしいシロナと目が合った。数周先を進んでいたから既に終わっていても不思議でも無いか。其れとは別に、よく見てみれば既に半分くらいがもう終わって休んでいるようだった。


「別にユウキさんが先頭って訳でも無かったし、もう数人が終わっててもおかしくないでしょ。というか、私らがゆっくりしてるわけだし」

「まぁそうだよね」

「にしても、やっぱり喋りながらだと疲れを忘れて楽だなぁ」

「その分注意されるけどね」

「でもあの人そこまで厳しくないから言われても怖くないけどね…んじゃ、私はもう終わりだから」


 言うだけ言って、ウタゲは持久走を終わらせようとコースを変えて離れていく。それじゃあ私ももう1周頑張ろうかな。

 そう意気込んで、計測用にコースの傍らに置かれている時計で、ふと残り時間を確認してみると―――



【02:56】



 もう残り3分切ってるじゃん!さっき確認した時はまだ時間があったのに!

 残り時間に焦りを覚えたと同時に、まさかと思って周りを再び確認してみると、あとコースを走っているのは自分を含めても残り3人程しか居なかった。


 そういえば、さっきウタゲと話している時に結構人とすれ違ったような気がしたけども!(当然全て追い抜き)


「やばっ…!」


 なんとなくビリにはなりたくないから、ペース配分等お構いなしにラストスパートとばかりに、残りのコースを全力で駆けた。



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