空は今日も蒼かった

「行ってきまーす」


 色々あった課外授業から数日。

 空は相変わらず晴れていて、今日も今日とて平和な朝である。


 あの後知ったことだけど、警察に連行されていった男は密入国した他国からの企業スパイだったと判明したらしく、色々とした後(事が事なので何か難しい事をするとのこと)に祖国に送還される予定らしい。相手の国でもその企業は最近目に余るものが有ったとかで気を配っていたらしいので、帰ったら色々と罰則が与えられる事だろう。他国でも自国でも色々されるって大変だね。

 色々と言えば、その事は先日報道されたけれど、私たちの事は未成年だからなのか被害者ということ以外伏せられていた。盗まれたエアクリスタルの事も近くの企業に協力していたとされていて、蒼いエアクリスタルが関わっている事は伏せられていた。その近くの企業が聞き覚えのあるような名前だったから、きっとおじいちゃん辺りが何かしら手を回してくれたのかもしれない。協力も強ち間違いではないかもだし。

 あの時、起こしたことが尋常ではないから、何かしら聞かれたり言われたりする事は覚悟していたのだけど、あれ以降なにもなく拍子抜けしたのは当然だったかもしれない。


「おはようシロナ」


 前方に見知った後ろ姿を見つけて声をかける。


「おはようアオ。…その様子だとちゃんと勉強はしたの?」

「へ?」


 突然何の事だろうか、と思っているとため息を吐きながらシロナが言った。


「はぁ…今日からテストよ」

「……ゾンジテオリマセン」

「この間の課外学習を振り返るテストよ。予告されていたでしょう?そんなことで大丈夫なの?」

「まぁ……なんとかなるって」

「赤点取っても知らないわよ…それより、あれからそれの調子はどう?」


 その視線で分かるように、それというのはブーツに装填されたエアクリスタルのことである。ブーツは今起動せずに待機状態になっているけれど、エアクリスタルは鮮やかな輝きを放っている。


「あれ以来、自分の意思で発揮できるようになってね。あの時みたいな出力は出せないけど飛べたりして結構便利なんだぁ」


 以前のような竜巻を起こすことは出来ないけど、そんな必要は無いし、移動補助が出来るだけでもかなり便利。


「そう…」

「どうしたの?」

「アオ…これからは気を付けなさいよ。この前みたいなことがまたあったら…」

「…きっと大丈夫だよ」


 その答えはどこか自信に満ちていて、シロナもそれ以上言うのはやめた。

 それからは二人で学校に向けて歩いていると木を見上げる子どもたちに出会った。


「前にもこんなことなかった?」

「四月の終わり辺りだったかしら」


 聞くところによると、案の定、木にボールが乗って困っていたらしい。

 すごいデジャヴ。


「私が取ってくるよ」

「ほんと、すごいデジャヴね」

「けど微妙に違うよ。今はこれがあるからね」


 そう答えてブーツの側面にあるスイッチを押した。以前は普通に木を登って取ってたけど、今はよじ登らなくても此れがある。

 スイッチを押したことで起動状態になったブーツから小さな機械音が鳴り、エアクリスタルの装填部辺りから水色の光の粒子が溢れ出す。放出された光粒子は小さな翼を形成し、翼の構築完了と共に安定した浮遊感を得る。

 ふわりと浮かび上がった後は徐々に昇っていき、ボールを掴むとゆっくりと地面に着地した。翼は着地と共に消失。


「はい」


 ボールを子どもたちに手渡すと、受け取った子どもたちは盛り上がった。


「お姉ちゃん、凄い!」

「飛べるの!?」

「僕も飛んでみたい!」


 子どもたちが群がってくるのを、通れないからと軽くいなす。


「はいはい、落ち着け落ち着け。私たちこれから学校だから道開けて~。もう木に乗せるなよ~」


 子どもたちに別れを告げてから再び学校に向かった。






 もう大丈夫。


 エアクリスタルの心に触れてからは自由に風に乗ることが出来る。


 そして決意した。


 いつかこのエアクリスタルと一緒に、あの蒼い空の向こうまで。



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アオイソラノカナタ 永遠の中級者 @R0425-B1201

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