そうして蒼は失われた side 〇〇

 男がそれを見つけたのは昨日の事だった。


 男は他国から調査に来た、俗にいうスパイである。

 名も知れぬ中小企業が実験を行うとの情報を得て、外から偵察をしていた。情報の通りに実験は行われていたが、飛行実験という今では目新しいと言える実験ではなく、其れも暴走という失敗を向かえようとしていた。

 得られる物はないだろうと男が引き上げようとした時、それは現れた。


 それは、膨大な量の粒子を生成・可視化させるという珍しい現象だけでなく、その粒子を操り、落下物を止めて見せた。


 男は度肝を抜かれ、あれさえあればと思い、当初の目的の偵察からそれを手に入れることへと目的を変更した。

 調べてみるとそれを引き起こしたのは珍しい蒼い石で、それを持つ小娘は課外授業で来ていた学生であるということが判明した。

 その後、止まっている宿まで後をつけ、隙を窺っていたが中々奪う隙は見つからずその日は終わった。


 次の日、待っていても埒が明かないと思い、男は少々強引だとしても手に入れる隙を作るために、事を起こした。

 小娘たちが研究所から出て街を歩いている時に頭上に物を落とし、事故に見せかけて奪おうと考えた。図ったかのように小娘たちは工事現場の横を歩いており、男は懐から念のために持っていた拳銃(違法)を取り出し、照準補正器と消音機サイレンサーを装着させ、頭上の鉄骨を吊るすワイヤーを撃ち切るため狙いを定め、引き金を引いた。

 撃ち出された弾丸は狙い通りワイヤーを掠め、奥の鉄骨に当たり、カンッという音が鳴る。一発では駄目でも数発撃つことで、傷のついたワイヤーは支えていた鉄骨の重さに耐えきれず千切れ、鉄骨が落ちた。

 だが、それはまた力を垣間見ることとなった。

 落下する鉄骨さえ、それは風を巻き起こして吹き飛ばした。


 今一度目撃したからこそ、何としてでもそれを手に入れるために男は策を練った。そして思い浮かんだ。少々危険を冒すことになるが、自ら接近して奪うことにした。男の手元には幸い逃亡用の睡眠ガス入りの缶があった。これを使って直接奪うという策であった。

 そしてチャンスは来た。何処かで見たような男と別れた小娘たちは大通りを歩いている。その大通りは車の通りは多いが現在通行人は少ない。もし車が通っても其処までしっかりと見ている訳はなく、目撃証言は少ないと踏んで男は実行に移した。

 先回りした男は、正面から歩いてきた小娘たちに向かって歩き、出来るだけ自然にぶつかり、偶然を装って懐の缶を落とす。小娘たちが缶に気を取られて拾おうとした時、缶から睡眠ガスが噴き出し、辺りに充満する。小娘たちは狙い通りにガスを吸い込み、眠気に襲われる。男は咄嗟に付けた簡易マスクでガスを防ぐ。この睡眠ガスは効力は弱いが少しの間隙を作れれば充分だった。

 効力が無くならないうちに男は小娘の靴に付いた蒼いエアクリスタルを取り外し、急いでこの場を去る。



 これさえあれば、功績を上げるだけではなく御釣りが出る。

 男は自分の国に帰るため、自身が密入国してきた場所へと向かった。


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