第102話 スカイ イズ ザ リミット
『良い知らせと、悪い知らせがある』
R・E・Dの鱗の色はまだ変色中だったが、弾丸が尽きてアイテムボックスから燃料と弾丸を補充していると、ビクトリアが話し掛けて来た。
「何で良い知らせってヤツは、悪い知らせと共に来るんだ?」
「何でだろうね……」
アークが顔を顰めて、フルートが首を傾げる。
『悪い知らせの方が重要なので先に言う。R・E・Dは現在、エデンの森から500m離れた場所に居る。この状況から、マザーAIは地対空レーザー砲の使用を禁止した』
「はぁ!?」
「えぇぇ!!」
ビクトリアの報告に2人が驚いた。
「おい、チョットそのババァAIを俺の目の前に連れてこい!!」
『ババアAIではなくマザーAIだ。それと、残念だがマザーAIは歩くことが出来ない』
「だったら、R・E・Dはどうするの?」
アークに代わって、フルートが質問する。
『マザーAIは軌道エレベーターを中心に、半径20Kmのエリアに防御シールドを張ると主張した。それで、R・E・Dは侵入不可能になり、豪雨がやめば音波砲で撤退すると結論付けた』
「それだとR・E・Dは倒せない」
彼女の話を聞いて、それだとアルフ国王の薬が手に入らず、フルートが唇を噛み締めた。
『そうだ。そして私の考えだと、今のR・E・Dは防御シールドを破壊する力を備えてる。マザーAIは判断を間違えた』
「何とか説得出来ねえのかよ!」
『先ほども言った通り、我々AIは一度失敗しないと学習出来ない』
「クソが!!」
アークが文句を言って舌打ちする。
『残念だが、これが人間と違って私達AIの限界だ』
「……それで、もう1つの良い話は?」
フルートが話を促すと、ビクトリアが頷いた。
『R・E・Dの黄色い斑点の解析が終わった。あれは分散コアだ』
「時間がねえから説明は要らねえ、5文字で頼む」
鱗が赤に戻りつつあるR・E・Dを見て、アークが結論だけを促す。
『……ヤツは死ぬ』
「無理やり5文字にした感があるが、まあ良い。つまり、全部の斑点を撃ち抜けばR・E・Dは死ぬんだな」
『正解だ』
「だったら目の前の巨大なクソをぶっ潰すだけだ、今までとやる事は変わらねえ」
『分かった。私も最後まで協力しよう』
「オーケー。フルート、斑点はあといくつ残ってる?」
「後2つ」
『2つだ』
アークの質問にフルートとビクトリアが同時に答える。そして、3人の視線がR・E・Dへと注いだ。
鱗が赤に戻ったR・E・Dは、2機の戦闘機を睨んで、次の攻撃の準備を始めていた。
豪雨の中、血塗れのR・E・Dが唸り声を上げる。
流血は雨と共に下へと滴り落ちるが、それでも絶え間なく噴き出る血が、元々赤い鱗をさらに赤く染めていた。
傷だらけのR・E・Dの閉じた口から、眩しい光が溢れる。
「ブレスか!! とうとうアイツも本気を出してきたな!」
『溢れた光の温度だけでも1000度を超えている。中心は3000度を超えると推測。アレを受けたら一瞬で灰になるぞ』
「そんな熱い視線と口で見つめんじゃねえ、キメエよ馬鹿が!」
アークがR・E・Dに向かって中指を突き立てると、ブレスの届かない背後へとワイルドスワンを移動させた。
ビクトリアも同じようにR・E・Dの背後に回り込もうとしたが、その前に、ワイルドスワンを狙った巨石をレーダーで捉えた。
『避けろ!!』
「えっ!?」
ビクトリアの忠告にアークが驚く。彼はブレスの攻撃に集中して、巨石の存在に気付いていなかった。
そして、それはR・E・Dの考えた、ブレスを囮にした罠だった。
『間に合え!!』
ビクトリアが自機の速度を上げて、ワイルドスワンと巨石の間に入る。
「ビクトリア!!」
「ビクトリアさん!!」
2人が叫ぶ中、ビクトリアの機体が巨石に潰された。
(エンジン出力低下、反重力装置破損、レーダー正常、ミサイル出力装置正常……ダメだ、墜落する)
ビクトリアは機体の状況を確認すると、機体をR・E・Dへと向けて自動操縦に切り替えた。
そして、彼女はスクリーン越しに2人を見て、感情の無い表情で一度だけ頷く。
「後は頼む」
そう一言だけ呟くと、ミサイルを発射するのと同時に、緊急脱出レバーを引っ張った。
ビクトリアの戦闘機は彼女とミサイルを放出した後、地上に向かって落ち始める。
その戦闘機に向かって、R・E・Dがブレスを放った。
ビクトリアの戦闘機はブレスに包まれて一瞬で消滅し、ブレスは勢いを落とさず、遠くの山脈まで届き、一部を消し飛ばすと空の彼方へと消え去った。
一方、戦闘機を囮にしたミサイルは、R・E・Dの翼に当たって爆破した。
ブレスを吐き終えたR・E・Dが悲鳴を上げ、鱗が黒へと変色した。
「……脱出出来たのか」
「良かった……」
パラシュートで脱出したビクトリアを見て、2人が安堵の溜息を吐く。
「あんなのがあるって最初から言えよ。死んだと思って心配したじゃねえか……」
初めて見た脱出パラシュートに、アークが文句を言う。
「だけど、もうミサイルを撃てないから、チャンスはこれで最後……」
「ビクトリアの犠牲を無駄にするわけにはいかないな。弁償はしねえけど。それじゃ行くぜ!」
「うん!」
2人はR・E・Dの方へと視線を向ける。
そして、ワイルドスワンとR・E・Dの長い戦いは、最終を迎えた。
「まずはお腹!」
フルートが斑点のある場所を指示する。
「あいよ!」
ワイルドスワンが高度を下げて、R・E・Dの下に潜り込もうとする。
R・E・Dもワイルドスワンの狙いが自分の斑点だと知り、逃げようと体を捻らせ、爪を立ててきた。
ワイルドスワンが低空で機体を捻らし、バレルロールで襲い掛かる爪を躱して、背面のままR・E・Dの真下をくくり抜ける。
アークが操縦している最中、フルートは後部座席と機銃を後ろへ向けていた。
そして、ワイルドスワンが斑点を狙える箇所まで移動するのと同時に、20mmガトリングを放った。
その放たれた弾丸が、R・E・Dの斑点に命中。黄色の斑点が消えると、鱗が裂けて血が噴き出し、R・E・Dが雄叫びを上げた。
「最後、額!!」
「了解!!」
ワイルドスワンが高度を上げてR・E・Dの真上へ飛び出し、高度3000mまで上昇をする。
そして、アークが急降下をしようと反転したタイミングで、突然ワイルドスワンに異変が起こった。
「……何!」
驚く2人だが、原因に気付いたフルートが記憶装置を確認した。
「アーク、酒乱モードが終わってる!!」
「このタイミングでかよ!?」
ワイルドスワンの酒乱モードが終了し、エンジンの性能が低下する。
それでもアークは、ワイルドスワンの機首をR・E・Dに向けた。
一方、R・E・Dもワイルドスワンが自分の額を狙っていると気付き、一撃を加えようと待ち構えていた。
そして、一瞬だけ動きを止めたワイルドスワンに向かって、最後の一撃を放った。
それは、天空から落ちる一撃の雷だった。
「ぐああぁぁぁぁ!!」
「キャーーー!!」
暗雲から一筋の落雷が落ち、その落雷がワイルドスワンを撃ち抜く。
中の2人はショックで悲鳴を上げ、ワイルドスワンは延焼すると錐揉みして地上に向かって落ちていた。
フルートは落雷のショックで心肺が停止。顔は生気を失い、目から焦点が消える。
彼女の体はシートベルトに支えられていたが、手足はブラブラと宙に揺れていた。
アークも全身の火傷で意識が失いかけ、それでも体を動かそうとするが動けず、最後にワイルドスワンを見上げて笑うR・E・Dを茫然と見ていた。
「フルート……すまねえな……マリー……愛してるぜ……」
最後にそう呟くと、アークは意識を失った。
”オギャァァァァァァァァァ!!”
突然、アークの脳裏に赤子の鳴き声が聞こえた。そして、アークの瞳に活力が蘇る。
彼を起こした奇跡の声。それは遥か遠くの地で、たった今生まれたマリーベルとアークの子供の泣き声だった。
アークが体を無理やり動かし、落下中のワイルドスワンの機首をR・E・Dへと向けた。
R・E・Dとアークの視線が交差する。
突然進路を変えたワイルドスワンに驚くR・E・Dに向かって、アークがニヤリと笑った。
「クソ野郎、生まれ育ったババアのケツへ帰れ!!」
アークの絶叫と共に、ワイルドスワンがR・E・Dの額へと突撃する。
ワイルドスワンの一撃は、R・E・Dの最後の斑点を打砕いた。
暗い雲に覆われていた空は、嘘のように雲一つなく太陽の光が大地へと降り注いでいた。
ビクトリアが雨露に濡れる草原を歩いて、ワイルドスワンを探す。
そして、彼女は破壊されたワイルドスワンを見つけると、駆け足で近寄った。
女性とは思えない怪力で鉄板を持ち上げると、2人の死体を見つける。
手にした鉄板を放り捨てると、大事そうにフルートを抱きかかえて、開いたままの瞼をそっと閉じた。
ビクトリアがフルートを抱きかかえながら立ち上がる。
「人類には無限の可能性がある……か……」
且つて、この星に来た人類が、自らの文明を捨てると宣言した時に言った言葉を呟くと、彼女は顔を上げた。
そこには、死体となったR・E・Dが、太陽の光を浴びて赤く光り輝いていた。
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