第101話 暴君R・E・D 04

「フルート、今は冗談を言える余裕がねえ。お前がアイツの無茶振りを聞いてくれ」


 森の中を飛ばすのに集中しているアークが、前を睨んでフルートに指示を出す。


「ビクトリアさん。詳しく話して」


 フルートはアークに頷くと、スクリーンの中のビクトリアに話し掛けた。


『私の乗る戦闘機の主力兵器が雷で使用不能になった。代わりに攻撃して欲しい』

「でもワイルドスワンの武器は効果がなかったよ」

『問題ない。R・E・Dの防御力を低下させる補助ミサイルがまだ7発残ってる。ミサイルが命中してから3分間だけ、そちらの機銃でもダメージを与えられる』

「…………」

『残り40分。R・E・Dを今の場所に縛り続ければ、先ほどの地対空レーザー攻撃が可能になって倒すことが出来る。その間だけ協力を頼む』

「だけど餌がなくなったのに、何でR・E・Dはエデンの森に来ようとしてるんですか?」


 ふと疑問に思ったフルートが質問する。


『あの大きさだ。生命の維持に必要とするシードの量は他の空獣に比べて多い。お前達も見ただろうが、R・E・Dが眠る場所の大地は、数年で吸収されて枯渇する。元々アイツはこのマナの多いエデンの森を住処にしようと狙っていた。豪雨で塔からの音が聞こえなくなった今がチャンスと、侵略しているのだろう』

「なるほどな。俺も相手の物を奪う考えは好きだぜ。逆の立場だったらぶっ殺すけど」


 アークが大木を避けながら会話に混ざる。


『縄張り意識を持つ生物の本能と考えれば、その思考は正常だ。それでどうする?』

「アーク!」

「元はと言えば俺達が頼んだ話だ。それに、ずっと攻撃されっぱなしで俺も鬱憤が溜まってる。もちろん、お前もだろ?」


 アークの冗談にフルートが頷く。


「もちろん!!」

「それじゃ行くぜ!!」


 アークがワイルドスワンの機首を上空へ向ける。

 ワイルドスワンは一気に森を抜けて、R・E・Dとビクトリアが戦う場所へと向かった。




 ワイルドスワンが戦地に到着すると、ビクトリアの戦闘機は主砲が撃てず防戦一方だったが、それでも効果が減少している音波砲を放って、エデンの森への侵攻を防いでいた。


「着いたぞ。どうすればいい?」

『今からミサイルを放つ。命中したらすぐに鱗が変色するから、そのタイミングで攻撃開始だ』

「オーケー、カモン!!」

「了解!!」


 2人がスクリーンの中のビクトリアに返答する。

 そして、豪雨の中、1匹の巨獣と2機の戦闘機の戦いが始まった。




『FOX2』


 防戦一方だったビクトリアの戦闘機からミサイルが発射される。

 油断していたR・E・Dは避ける事が出来ず、ミサイルが体に命中した。


『グガァァァァァァ!!』


 R・E・Dが天を仰いで、叫び声で空が震える。

 ミサイルが当たった場所から鱗が黒に変色して、黄色の斑が浮かび上がった。


「酒乱モードだ。全開で行くぞ!!」

「了解!!」


 アークが胸ポケットからウィスキーの入った鉄瓶を取り出して、一気に呷る。同時にフルートが酒乱システムを機動。

 ワイルドスワンの可変翼が角度を変えて速度を上げると、酒乱モードへと突入した。


 豪雨で前が見えない中を、酒乱モードのワイルドスワンが上空から襲い掛かった。

 上空からの急降下中に、フルートがガトリングを放つ。

 放たれた弾丸が背中を引き裂く様に命中すると、R・E・Dが体をくねらせて悲鳴を上げた。


 R・E・Dが弾丸が飛来した方へ視線を向ける。

 その顔の横をワイルドスワンが亜音速で通り過ぎて、背後へ回り込んだ。


 R・E・Dが全長50mを超える尻尾を振りかざし、アークの目の前でR・E・Dの尻尾が巨大な鞭の様に迫った。

 ワイルドスワンは2回転のエルロンロールで左へスライドして、攻撃を躱すと、そのまま斜めに上方宙返りして180度の急旋回、シャンテルを決める。

 その間に、R・E・Dも体の向きを変えて、ワイルドスワンと向き合った。


 R・E・Dの肺が膨らむ。衝撃波の咆哮を放とうと口を開くと、今度は逆方向からビクトリアの戦闘機が音波砲を発射した。

 神の詩を鳴らす音波砲が放たれると、R・E・Dの動きが僅かの間だけ止まった。

 その隙にワイルドスワンからガトリングが放たれる。被弾を喰らってR・E・Dの首が暴れ、咆哮が絶叫へと変わった。


「フルート、どうだ?」

「効いてる! それに攻撃している間は、向こうも大きな攻撃は出来ないみたい」


 アークの質問にフルートが嬉しそうに答える。


「オーケー。このままガンガンぶっ掛けるぞ!!」

「スケベ、変態、エロ、痴漢!!」

「サンキュー・ベリー・マッチ!!」


 冗談を言い終えた2人が、再び攻撃を開始。

 弾丸が当たった箇所の鱗が剥がれて、皮膚から血が噴き出す。

 3分が経過して、R・E・Dの鱗が赤鱗へ戻ったのを見た2機は、一旦離れた。




 フルートは、R・E・Dが変色中、所々にある黄色の斑点に弾丸が当たると斑点が消えて、相手もそれを嫌がっている様子に気付いた。


「アーク、R・E・Dの黄色い斑点を狙えるようにして」

「分かった!!」

「理由を聞かないの?」

「今更、何を言ってる。お前を信じてるだけだ、相棒!!」

「ありがとう!!」


 アークの絶対的な信頼にフルートが笑って、機銃のグリップを握り直した。


 一方、ビクトリアは自機の高機動を有効的に活用しており、R・E・Dに接近して、噛みつき、体当たり、引っ掻きの攻撃を全て躱して、その場に縛り付けていた。

 R・E・Dを邪魔をしながら、先ほどのワイルドスワンの戦闘データを脳内で再生させる。


(あれがアークの覚醒か……予測の範囲だが、彼の中にある3つのシードがアルコールで融合して、潜在能力を限界まで引き出している。だが、あれは精神の負担が大き過ぎて自殺行為と同じだ。頻繁に繰り返していたら、精神が崩壊する)


 ビクトリアはスクリーンの中のアークに忠告しようと口を開くが、人間は体内のアルコールをすぐに抜くことが出来ない事を思い出して、戦闘後に忠告する事にした。




 ビクトリアの邪魔に、痺れを切らしたR・E・Dが反撃を開始する。

 体の周りにファイアーボールを作り出すと、地中から幾つもの岩石を浮かばせる。そして、岩石にファイアーボールをまとわせて強力な実弾兵器を作りだした。


「何か嫌な予感がするな! 全身がムズ痒くて玉がヒュンとしてきたぜ!!」

「ビクトリアさん。アークの下品な勘が警鐘を鳴らしてる」

『例の直感という奴か……にわかには信じがたいが、警戒しよう』


 ワイルドスワンとビクトリアの戦闘機が回避行動を取る。

 ファイアーボールは空中で飛散すると、破片が2機に向かって襲い掛かった。

 既に180度向きを変えて逃げる準備をしていたワイルドスワンが、上空に向かって大きくループを開始。


「操縦は全部俺に任せろ、全て避けてやる!!」


 ワイルドスワンが上昇しながらバレルロールとシザースを繰り返す。ヴァーティカルローリングシザースでファイアーボールの欠片を全て躱すと、そのまま背面姿勢からロールし水平飛行に戻して、インメルマンターンを決めた。

 一方、ビクトリアもレーダーで接近するファイアーボールの位置を確認すると、瞬時に安全ルートを計算して全ての攻撃を避けた。


 ファイアーボールの欠片が、エデンの森の周辺に衝突する。

 欠片は草木をなぎ倒して爆発すると、至る所から火災が発生。しかし、豪雨ですぐに消火して煙が立ち上がっていた。


「やるねえ!」

『反撃に転じる。攻撃用意』


 アークの称賛を無視して、ビクトリアが攻撃を伝える。


「「了解!」」

『FOX2』


 2人の応答と同時に、ビクトリアの戦闘機からミサイルが発射された。




 ビクトリアのミサイルが命中して、R・E・Dの鱗が変色する。

 同時にワイルドスワンが攻撃を開始した。


 アークはフルートの言葉に従い、左側から接近して斑に向かう。

 フルートは豪雨で視界が悪い中、黄色の斑が見えるとガトリングを放った。

 弾丸は斑に命中すると次々と黒色へ変わり、R・E・Dが首と体を身悶えて叫び声を上げる。

 首を伸ばして叫ぶR・E・Dの後ろをワイルドスワンが横切って旋回すると、次の斑点を探すと攻撃を開始していた。

 R・E・Dも反撃に、巨体ながらも素早い動きで、ワイルドスワンに襲い掛かるが、アークはそれを全て回避していた。


「ところで斑点は幾つあるんだ?」

「雨で良く見えないけど、後8つ? ……今ので7つ?」


 アークの質問に、フルートが攻撃しながら答える。


『いや、残り6つだ』


 2人の話を聞いていたビクトリアが、スクリーンの中から訂正を入れた。


「なあ、ビクトリア。アイツが嫌がるから、フルートが嘲笑いながら攻撃してるけど、あの斑点は何だ?」

「別に嘲笑ってないし……」


 アークの冗談にフルートが訂正を入れる。 

 一方、R・E・Dは3分経って、鱗が赤鱗に戻っていた。


『現在解析中だ。だが、斑点を消す度にR・E・Dの体内からマナが放出されているのは確認している』

「了解。このままヤツの恥部を刺激する」

『アレが恥部かは不明だが、斑点を集中して攻撃する行動は推奨しよう。それよりも雷雲から電磁波が大量に発生している。ヤツの次の攻撃は雷だ』


 ビクトリアからの報告に、アークが顔を顰める。


「マジかよ……森に突っ込んで隠れるぞ!!」

『分かった』


 ワイルドスワンとビクトリアの戦闘機はR・E・Dから離れると、同時にエデンの森の中へと身を隠した。




 森の中に突入したワイルドスワンが、木々の間を400Km/hを超えて駆け抜ける。

 そのワイルドスワンの後ろでは、ビクトリアの戦闘機が斜め後ろを飛んでいた。


「何も来ないけど、本当に雷が来るのか?」

『軌道エレベータからの撮影に切り替える』


 次々と迫って来る大木を避けながらアークが質問すると、スクリーンの映像が遠距離から撮影するR・E・Dの様子に切り替わった。

 操縦しているアークの代わりにフルートがスクリーンを見れば、R・E・Dが上空の雲に向かって首を高々と上げていた。


 黄金の目が眼下の森を見る。

 その視線の先には、自分の邪魔をする2機の戦闘機を捕らえていた。


『ギヤァァァァァァァァ!!』


 咆哮を上げたその直後。




 R・E・Dを中心とした半径10Kmの全域に、暗雲から雷の雨が降り注いだ。




 空が白く光ったと思ったら、後方から激しい雷鳴が鳴り響く。

 森の中を飛ぶ2機の周辺の木々にも雷は落ち、行く手の進路を破壊された木が倒れて塞ごうとしていた。

 アークとビクトリアは瞬時に進路を変えて、倒木の上をワイルドスワンがエルロンロールしながら下を潜り抜け、その直ぐ後からビクトリアの戦闘機が大木の上を通り過ぎる。


 フルートが後方を見れば、空は落雷の余波でオーロラが発生していた。


「俺がキレさせた連中の中で、二番目にブチ切れてやがるぜ!」

「アレより切れたのって誰!?」

「もちろん、昼はバイク、夜はロイドに跨る横乳様だ!! アイツも暴君の名に値するドS女だからな」


 フルートは誰だと分かると、アークの後頭部をハイライトが消えた目で見ていた。


『雷雲の電磁波減少。反撃する』

「了解」


 ワイルドスワンとビクトリアの戦闘機の機首が上を向く。

 2機は垂直に飛んでジャックナイフを決めると、森を抜けR・E・Dに向かった。




『FOX2』


 ビクトリアがR・E・Dに向かって4発目のミサイルを放つが、すぐさまR・E・Dが咆哮を放つ。

 咆哮の衝撃波で、ミサイルが空中で爆発した。


「トカゲの分際で知恵付けてんじゃねえよ!」


 様子を見ていたアークがR・E・Dに向かって文句を言う。


『さすがに4発目だ。相手も学習する』

「そう思うなら、少しは手段を変えろ!」

『私は人間と違って、一度失敗しないと学習できない』


 ビクトリアの返答にアークが顔を顰めた。


「仕方ねえな。俺が戦い方について教育してやる。ついて来い」

『分かった』


 アークとビクトリアは会話を終えると、同時に上昇を始める。

 互いに踊るように旋回を繰り返し、高度2000mで二手に分かれた。

 そして、再び接近して、互いの距離が10mまで近づくと、R・E・Dに向かって一気に急降下を開始した。

 ダンスの様に空を舞う2機の姿にR・E・Dが混乱して、攻撃判断が鈍った。


 降下中にワイルドスワンが速度を上げて前へ進み、ビクトリアの戦闘機を自機で隠す。

 そして、ワイルドスワンがエルロンでぐるぐると回転してR・E・Dの目を回した。

 その隙に、ビクトリアがワイルドスワンの横へ躍り出た。


「今だ!!」

『FOX2』


 アークとビクトリアが同時に叫ぶ。


 ビクトリアの戦闘機からミサイルが発射する。

 不意を突かれたR・E・Dは撃ち落とせず、ミサイルが体に命中して絶叫を上げた。


「行くぞ!!」


 鱗が黒色にすると同時に、ワイルドスワンが襲い掛かる。

 R・E・Dは再び弾丸の嵐に見舞われた。

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