第60話 空獣アルセム03
「ヤバイ!!」
アークが叫ぶのと同時に、操縦桿を右に傾けワイルドスワンを旋回させる。その直後、今まで居た空間を光線が切り裂いた。
フルートが振り返って円卓を見れば、アルセムを中心に何百もの光線が、空に放射されていた。
「レーザーが動き出した!!」
「マジ!!」
アルセムから発せられたレーザーは消える事なく、上下に揺れながら回り出し、その光に巻き込まれた戦闘機が次々と消滅していく。
(逃げる? いや、無理だ!!)
アークはレーザー攻撃から逃げず、時計回りにワイルドスワンを飛ばして、次々と襲ってくるレーザーを躱し続けた。
アルセムのレーザーは1分近く放射されて、光が収束すると円卓に静寂が訪れた。
「……酷い」
「南は全滅か……」
アルセムと交戦中だった南の部隊は、レーザーを回避できず、跡形もなく消滅していた。
円卓の外縁で待機中の他の部隊も、その半数がレーザーの攻撃で、姿を消す。
『セッ・キ・ン・ブ・タ・イ・イ・キ・テ・イ・タ・ラ・ア・ル・セ・ム・ニ・ム・カ・エ(接近部隊、生きてたらアルセムに向かえ)』
アレックスからの無線通信に、2人が驚く。
「戦闘続行かよ!」
「倒せなかったらスタンピードが町を襲う。ここで逃げても同じって判断したんだと思う」
アークが叫び、フルートが首を横に振る。
「仕方がねえな」
アークが座席の下からウィスキーを取り出して、一気に呷る。
飲んだ直接、脳みそが殴られるようなアルコールの衝撃が襲い掛かった。
「かぁーー! 二日酔いが覚めるぜ」
「普通、逆だと思う」
フルートが眉間にシワを寄せて、頭を振って酔いを醒ましているアークを見る。
「フルート。ブリーフィングは覚えているな」
「うん」
「超高速戦だ。ゲロを吐くなよ!」
「覚悟はできてる!!」
「吐く前提かよ! それはそれで、嫌だな」
アークはワイルドスワンをアルセムに向けると、アクセルを全開にして一気に接近した。
ワイルドスワンが高速でアルセムに迫る。
フルートは正面に機銃を構えると、20mmのガトリングをアルセム目掛けて撃った。
弾丸を体に浴びたアルセムが振り向くのと同時に、ワイルドスワンが横を通り過ぎて、右に45度上昇させると180度の旋回。シャンデルで正面を向くと、再びアルセムに襲い掛かった。
「囮部隊は私達だけみたい!」
「チッ! ロイドもやられたのか!!」
自分達だけが戦っている事に気が付いたフルートの報告に、アークが舌打ちをする。
南の部隊が壊滅して、代わりに西の部隊が攻撃するが、その戦闘機の数は10機にも満たなかった。
アルセムと向かい合ったワイルドスワンが接近しながら、左へ180度ロール旋回。
アルセムが飛行進路を変えると、今度は一気に右へ1回転半の540度のロール旋回で衝突を避けた。
フェイントに引っかかったアルセムの横を通り過ぎると、180度ループの頂点で背面姿勢から180度のロール。インメルマンターンで反転する。
アルセムは高速で飛ぶワイルドスワンに対抗すべく速度を上げると、左へ45度上昇しながら、大回りに旋回してワイルドスワンへ襲い掛かった。
最初はアルセムの速度に追い付かず、攻撃をミスしていたフルートだったが、次第に集中力が高まるとゾーンに入った。
ゾーンに入ったフルートがアークの操縦で振り回される中、アルセムの顔を狙ってトリガーを押す。
ガトリングから放たれた20mmの弾丸が、アルセムの顔に命中して視界を塞いだ。
悲鳴を上げて顔を背けるアルセムの横をワイルドスワンが通り抜けて背後に回ると、アルセムは後ろを見ずに尾から光弾を連射した。
「どこ視て撃ってるんだ。バーカ、バーカ!!」
アークが嘲笑いながら、操縦桿を右へ倒す。
ワイルドスワンが右へ移動すると、その直ぐ後を何発もの光弾が通り過ぎて、彼方へと消え去った。
「あれがダヴェリールの亡霊、ワイルドスワンか……速過ぎる!!」
アレックスが高速で空を駆け巡るワイルドスワンを見て、悪態を吐き捨てる。
彼の目の前では、ワイルドスワンとアルセムが亜音速で空を飛び、激しいドックファイトを繰り広げていた。
「あれじゃ、編成を終えても攻撃出来ねえよ!!」
実際に、1匹と1羽の激しい戦闘は他を寄せ付けず、西の部隊はただ見守る事しか出来なかった。
アレックスは頭を振って気持ちを切り替えると、生き残った部隊を2つの部隊に再編成するため、全員に無線連絡を入れる。
「編成が終わるまで15分。それまで耐えてくれ……」
アレックスは通信板を叩きながら、ワイルドスワンの健闘を祈った。
ワイルドスワンとアルセムが、互いにけん制しながら螺旋状に空を駆け上がる。
雲を突き抜け、高度6000mで同時に離れると、1匹と1羽は旋回して正面を向き合った。
アルセムがワイルドスワンを睨んで、鳴き声を空に響かせる。
「ハッ! 上等だ、覚悟しな!!」
アルセムからの挑戦状に、アークの闘争心が燃える。
アークとは逆に、フルートは冷静にアルセムを睨んで集中していた。
先にワイルドスワンが動き、正面からアルセムに特攻する。
迎え撃つアルセムが大きく口を開けると、口の中が光り始めた。
「テメエのフェ〇なんかお断りだ、クソ野郎!!」
アークが叫び、ワイルドスワンを左へ2回転のロール旋回。
その直後、アルセムの口からレーザーが放たれて、ワイルドスワンの脇を掠めた。
速度を維持したままワイルドスワンがアルセムへ接近する。
交差する直前、フルートがガトリングで反撃すると、放たれた弾丸の1発が、アルセムの右目に命中して視界を奪った。
アルセムが怯み悲鳴を上げるその横を、ワイルドスワンが通り抜ける。
ワイルドスワンが機体を上昇させると同時に、アルセムが逆宙返りをして上を向く。
上空を見たアルセムが、太陽の反射で光り輝くワイルドスワンに目を細める。
ワイルドスワンは上昇を続け、高度8000mまで飛ぶと、アルセムの真上で180度旋回して下を向いた。
「行くぜ!」
アークが叫ぶのと同時に、ワイルドスワンがアルセムに向かって急降下攻撃を開始。
アルセムの口からビームが放たれ、ワイルドスワンからは弾丸が降り注ぐ。
アルセムのビームがワイルドスワンの僅か30cm横を掠めて、放熱で一部が溶ける。
ワイルドスワンから放たれた鉄の雨が、アルセムの額に命中して角をへし折った。
ワイルドスワンがエルロンロールで機体を旋回。角を折られて顔を逸らしているアルセムの横を掠めてすり抜ける。
怒りに満ちたアルセムは体を反転させると、降下中のワイルドスワンを追い駆け始めた。
最大速度で地上に落下している間、フルートは機銃と座席を後ろへ向けて、アルセムに威嚇射撃を続ける。
アルセムはフルートの攻撃に怯む事なく、ワイルドスワンを追い続けて、少しづつ距離を縮めていた。
フルートと片目を潰されたアルセムの視線が合う。
アルセムは赤い瞳でフルートを睨みつけ、フルートも負けじと睨み返した。
レーザーを放とうとアルセムが口を開く。
「させない!!」
限界速度を超えて機体が震える中、フルートが叫び、開いた口を狙ってガトリングを放った。
弾丸がレーザーが放たれる寸前に、アルセムの口の中に命中。
顔を仰け反りながら放たれたレーザーが逸れて、離れた空を一閃した。
「ヒューー! フルート、愛してるぜ!!」
アークが口笛を吹いて冗談を言う。
「パパ! そのセリフは、生まれてくる子供に言って!!」
「オーケー、ベイビー。パパ、頑張っちゃうぞーー!!」
雲を突き抜けワイルドスワンとアルセムが落下する。
地上まで残り2000m。1匹と1羽は降下しながら戦いを続けていた。
高度1000m……。
アルセムの爪から細いレーザーが放たれる。
ワイルドスワンが機体を捻じり、バレルロールで攻撃を回避。
回避した分だけ、アルセムとワイルドスワンの距離が大きく縮まった。
高度500m……。
ワイルドスワンの直ぐ後ろをアルセムが追い駆ける。その距離は僅か10mまで縮まっていた。
アルセムがワイルドスワンに腕を伸ばして爪を向ける。
その爪が光り出す前に、フルートがアルセムの顔に向けて集中砲火すると、爪から光が消えてアルセムが一瞬だけ顔を反らした。
そして、高度300m。
「うおりゃーー!」
アークが操縦桿を引き上げ、ワイルドスワンは地上を掠めて高度を上げ、墜落を免れる。
逆に顔を背けていたアルセムは目標を誤り、そのまま地上に激突。
上昇を続けるワイルドスワンの背後で、激しい激突音が鳴り響いた。
『ゼ・ン・キ・コ・ウ・ゲ・キ・カ・イ・シ(全機攻撃開始)』
ワイルドスワンが離れるのと同時に、アレックスから全戦闘機に無線が入る。
それと同時に、再編成を終わらせた全ての戦闘機が、地上で倒れているアルセムに向かって機銃を斉射。
一仕事終わらせたアークとフルートは、その様子を遠くから眺めていた。
「今度はどうだ?」
2人は、アイテムボックスに格納されている、燃料と弾丸を補充すると、アルセムが墜落した場所をジッと見ていた。
味方の攻撃で上がった土煙が晴れると……アルセムは全身を血まみれにしながら、空を飛ぶ戦闘機を睨んでいた。
そして、その中から白い白鳥を見つけると、怒りに満ちた雄叫びを上げた。
「……しつこいトカゲだな」
「もう皆、弾がないって……」
通信機から流れる文字に、フルートが頭を振る。
「だけど、アイツは倒さねえと、回復するぞ……」
「弾もエネルギーも残っているのは、私達だけみたい……アーク。私は既に覚悟は出来ている」
「……女は本当のピンチになると、度胸が据わるよな。よし、アレックスには俺達が凌ぐから、急いで補給しに行けと伝えろ……あ、その前に、お前愛用のゲロ袋をくれ」
「……え?」
予想外の事を言われて、フルートが首を傾げる。
「いいから寄越せ。アルコールの再チャージだ」
フルートが通信機に文字を打ちながらアークに袋を渡すと、彼は片手で操縦桿を握りながら、袋を開けてゲロをぶちまけた。
「……臭いで貰いゲロしそう」
「お前が吐いていた時は、俺もそう思ったよ。何のご褒美か考えたぜ」
アークは窓を少しだけ開けてゲロ袋を外に捨てると、座席の下からウィスキーの水筒を取り出す。
その水筒を見てアークがニヤリと笑った。
「最後の酒になるかもしれねえのが、ギーブからのウィスキーか……縁起でもねえな」
口とは逆に心の中でギーブに感謝すると、一気に水筒の中身を飲み干して、これも窓に捨てた。
「かあぁぁぁ!! こりゃ凄げえ。今まで飲んだ事がねえ酒だ!」
「アーク。アレックスが謝ってた。1時間で戻るって!」
「はっ! 謝る暇があったら、とっとと帰れ!! フルート、行くぞ!!」
「……うん!」
味方機が退却する中、ワイルドスワンは再びアルセムに襲い掛かった。
ワイルドスワンとアルセムが再び戦い始めて、20分が経過した。
ここまで直撃の被害はないが、ワイルドスワンの装甲はアルセムの攻撃で一部が裂けていた。
一方、アルセムもフルートが攻撃を絶えず続けて、回復が覚束ないでいたが、それでも少しづつ回復して、アルセムの飛行速度が元に戻りつつあった。
「やっぱり、ダメージを与え続けていると回復しない」
「と言っても、弾に限りはあるからな……」
「弾数を計算すると、後10分も持たないと思う」
ワイルドスワンが旋回して、アルセムと向き合う。
互いに全速力で接近すると、フルートがすれ違いざまに20mmのガトリングを放ち、アルセムが弾丸を喰らいながらも、爪でワイルドスワンに襲い掛かった。
アークが寸前で左へロールすると見せかけ、フェイントで右に移動して攻撃を躱す。
続けてアークが直感を頼りに全速で左へ旋回すると、その後をアルセムの光弾が通り過ぎた。
エルロンロールで180度ロール旋回。背面になると、そのまま下方向へ逆ループ。スプリットSを延長させて機体を上に持ち上げる。
アルセムの方も宙返りを終えて、1機と1匹は縦方向に向き合った。
フルートの攻撃が命中して、怯んだアルセムは爪を振り下ろすが、ワイルドスワンの尾翼を掠めて空振りすると空を切り裂いた。
「そろそろ来るな……」
「何が?」
呟くアークにフルートが尋ねる。
「アイツ、さっきから口からレーザーを吐き出さねえ。ぜってーー例の拡散レーザー攻撃をしてくるぜ」
「……どうするの?」
「どうするもこうするもねえよ。ドックファイトを続けるしか……いや、1度吐き出させるか」
「……え?」
その提案にフルートが驚いて、アークの後ろ姿を見る。
「溜めてるって事は、あの攻撃は連発して来ねえって事だろ。アレックス達が戻って来たら、いきなりドーーンじゃ全滅しちまう。だったら、味方の居ない今なら好きなだけ、射精させれば良いと思ってね」
「考えは理解した。だけど、最後のセリフは、聞かなかったことにする」
フルートの返答にアークが肩を竦める。
「あっそ。んじゃ、アルセムちゃん行くぜ。このワイルドスワンを好きなだけおかずに抜きな!」
「……最低」
アークはワイルドスワンを動かすと、アルセムとは逆の方向へと逃げ出した。
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