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 否応なく勝手に朝が訪れた。

……まぁいつものことだが。

 八時頃ゆっくりと起きた俺たちは、そこから更に身支度に手間取り(主にアルミナの化粧)……現在一〇時過ぎ。

【レグナス】が眠る書斎横の出入り口(ほぼ俺専用)へと、足早に向かっていた。


 化粧をしなくても綺麗なのだから、すっぴんでも良いんじゃないの?

 という俺の主張は認められるわけもなく、少しでも華やかに飾りたい心理があらゆる物事を凌駕するらしい。

 そんなアルミナは昨夜購入した新作魔女コーデで揃えており、俺はいつもの騎士礼装――真紅の長外套を纏っている。

 共に黒いブーツで、赤い絨毯越しに石床を鳴らし歩む。


「なぁ、ところでさ、この八階の出入り口についてなんだが……」

「ん? なに?」

「洗浄剤の噴霧、長すぎない?」

「そう? 丁度良いと思うけれど」

「いやいやだって数分は掛かってるよね? あれ、俺じゃなかったら死んでるよ? あるいは素潜りダイバーくらいだろ。数分も息を止めていられるのは」

「……止めなきゃ良いじゃない」

「……え?」


 さらっと何を言ってらっしゃるの?

 息止めなかったら、あの洗浄剤が肺まで侵入してくるよね?


「あれ吸いこんで良いの? 俺、死ぬんじゃねぇの?」

「ん? 言ってなかったっけ。あの洗浄剤は、人体には無害よ。むしろ肺の中も洗浄してくれるスグレモノ」

「なん、だと……?」


 聞いてねぇし。

 いや、また忘れたのか?

 記憶が当てにならないのは、中々面倒なものだな。

 やはり精密検査は一度受けるべきなのかも……。


「私がそんな危ないモノ作るわけないでしょ」

「そ、そうか……」


 その点に関しては信用しても良い……のだろうか?

 アルミナの発明の数々(兵器)が一瞬脳裏を過ったが、敢えて何も言わないことにした。

 気を取り直して書斎から扉を抜け、ほぼ二日ぶりの【レグナス】とご対面する。

 心なしか、【レグナス】から「我のことを忘れて、随分とお楽しみだったようだな?」という非難めいた視線を感じるのは、俺が何かしらの末期である証拠か。

 謝罪がてらシートを撫でると、外気温が低いためか【レグナス】はそこそこひんやりしていた。


 白亜のシートに跨がり、アルミナの手を引いてリアシートへ誘導する。

 ドライバーズシートとリアシート間の連結部が車体横に開いて、そのまま地面に対し平行に下がりステップへと変形。

 アルミナはそのステップを登り、開けた空間を足置きにして着座する。

 通常のバイクだとスカートでは前を向いて跨ることが出来ないが、この戦騎【レグナス】は要人警護も想定しているため、後部座席を四輪駆動車のように着座可能なVIP護送仕様へと変形させることが可能だ。

 この状態では、後部に最大で三人まで乗せられる。


「良いか?」

「どうぞ」


 その三人分の席にゆったりと一人で座ったアルミナに一声かけ、ドライバーズディスプレイを操作し、シートに身体を固定する着座帯を展開。

 シートからアルミナの身体をX状に繋ぐベルトが飛び出し、腹部辺りで自動的に接続されていく。


「さて、行くか」

「そうね。それじゃあ、留守を頼んだわよ」

「……畏まりました」


 応じたのは、それまで無言で見送りに来ていたリエラ。


「滞在中世話になった。ありがとな」

「……労いのお言葉、光栄に存じます。道中、お気をつけて」


 深々と腰を折るリエラを背に、外壁が上下に開いていく。

 途端に差しこむ眩い陽光と、冬の香りを乗せた風。

 世界へと繋がる瞬間――あるいは、世界の境界が広がるとも言えるか。


 手元のディスプレイにて、VIP護送モードをONにして、風向制御や慣性緩和などを一元的に設定。

 外壁が上と下で平行に固定されたのを見て、俺は【レグナス】のスロットルをゆっくりと開放し、車体を徐々に加速していく。

【レグナス】のAIが車体前方の地形を把握し、浮遊走行へと自動切り替え。


 内界と外界の境界を越え、広がる世界へと飛び出す。

 加速し続ける車体は、風を置き去りにして間もなく亜音速へと到達。

 近くの景色は激流のように過ぎ去り、遠く地平線の彼方は緩やかに流れ行く。

 目指す王都は、地平の先に佇んでいるのが見えていた。


 王都景観計画により白い外壁と蒼い屋根で統一された家屋と尖塔が立ち並ぶ【セフィラ王国】の中心、【王都グレッシャリア】。

 王都中央に聳え立つ最も巨大な建造物――大小数百の尖塔で構成された白亜の巨城から放射線状に広がる街並みは、壮麗にして冷厳。

【レグナス】で飛ばせばその空域まで片道一〇分足らずで着くが、その先が、距離的には短いのだけれど時間はかかる。


 まずは入都審査。

 王都外縁空域に入ると、空域管制室から【レグナス】へと情報開示命令が送られてくる。

【レグナス】のAIはその時点で制限速度時速一〇〇kmまで段階的に落とし、開示命令に応じて機体識別番号と搭乗員情報及び目的地を返信し、認証待ちであることをディスプレイに表示。

 瞬間的な認証を経て管制室規定のルートを受信し、それを自動走行にてなぞり始める。


 ここから先は空路上の事故防止のため原則マニュアル操作は禁じられており、管制室の【GC――全機能一体型計算機グランド・コンピューター】による精密な三次元空間の物理演算に従って、王都を行き交う全ての走空機は制御されているのだ。

 その結果、手放しで上下左右に淀むことなく多種多様な走空機が交差していくので、ドライバーは手持ち無沙汰になり、各々何かしらの手段で暇潰しを用意せねばならない。


 例えば俺は、右手で間食のソイ・バーを頬張りながら、左手で【レグナス】のディスプレイ上に今日提出予定の始末書を作成中である。

……ギリギリまで先延ばしにしていたのではなく、アルミナの指摘によりその存在を思い出したのだった。

 言い換えれば、完全に忘却の彼方に在ったわけで。

 もともと都合の悪いことはさっさと忘れる質だが、最近はそれに輪をかけて酷い有様だ。

 このまま若くしてボケるのは避けたい。


「宿題の進捗状況は、如何かしら?」


 後方から間延びした声で煽ってくる奴が居る。


「よ、余裕だな、余裕……三〇%くらいは終わったし」


 実際は二〇%未満だ。

 この程度の数字でも盛ってしまった。

 そうしなければちょっと自尊心が保てない。

 頭痛と胃痛で吐きそう。


「そう。効率悪いわねぇ。書類一枚作るのに何分かかっているの?」

「……い、いやまぁ、アレだよアレ。えーと……その書類一枚でも、独創的なインパクトが在った方が良いんじゃないかと」

「報告書に要らないわよ、そんなの」

「むむ……」

「暇なんですけどー。早く終わらせてー」

「うぅ……」


 そう言われてもな……。

 筆が進まない原因というのが、何を隠そうこの忘れっぽさのせいなわけで。

 始末書を書こうにも、なかなか当時の記憶が思い出せなくて四苦八苦しているところなんだよなぁ。

 これはもう忘れっぽさというよりも、確かに記憶障害レベルか。


「記憶障害? なら、通信記録とか、【レグナス】の走行記録とか確認してみれば?」


 思考に返答があった。

 さらっと読まれているらしい。


「ああ、そうだな。とりあえず通信記録を閲覧、と」


 ピアス形状の【CⅢ――意識接合型コンシャスリィ・コネクテッド通信機・コミュニケーションデバイス】に、ここ二日間の通信記録の閲覧を申請。

【レグナス】のディスプレイに結果が転送され、表示される。

 日時、通話の相手先、会話内容を文章化したものが表示されていき、気になった項目をタップすることで、録音されていた会話が再生される仕組みだ。


「おお! 思い出せた。ありがとな、アルミナ。これで進みそうだ」

「どういたしまして」


 にこやかな女神は、されど退屈そうに朝食を頬張る。

 肘掛けの先に置かれたカフェオレで飲み下し、空いた手は彼女の眼前のコンソールで踊り、ネットワーク通信を始めた。

 何か暇潰しの材料でも探すのだろう。

 俺は思い出した事柄で書類の不備を埋めていき、ほどなく始末書が完成。


 一息つき顔を上げて街並みに目を向けてみれば、郊外では背の低い民家が多かったが、いまは街の中心地に差し掛かっているらしく数百m級の巨大ビル群がひしめき合っている。

 狭い土地に人が溢れているので必然的に建造物は階層が高くなり、密集地帯と化しているのだろうが、こんな人混みの中で暮らすくらいなら、アルミナのように郊外どころか街の外で暮らす方が気楽で良いな。


 街から離れていても生活必需品は物質転送で即座に補充できるし、インフラはいまやカプセル化しているので発電所も浄水場も不要。

 当然水道管・電線等を引く必要もなく、移動も小型走空機が一隻あれば十分なのだから、デメリットは見当たらないと言えよう。

 あー早く隠居したい。


 そうやっていつもながら取り留めのない思考を俺が展開している間にも、【レグナス】は真面目に車体を振りながら最適ルートを進み、王立総合学術研究機関――通称【アカデミア】に、辿り着いていた。

 蒼く巨大な槍の先端を思わせる尖塔群で構成され、中心の最も大きな塔で高さ二kmくらいはあるだろうか。

 近づけば天辺が見えないほどに高く、蒼き巨壁と化す。

 王城に次ぐその巨大さと威容を誇り、国内外問わず全学術界に於いての最高権威である……らしい。

 その中身は偏屈かつ野心家な研究者が大半を占めており、伏魔殿の様相を呈しているんだよなぁ。

 俺みたいな特異体質は研究材料として弄りたい奴らが多いらしく、正直お近づきになりたくない。

 もし、ここの研究員にその自由を与えたら、俺はこの中で一生を終えるであろう。

 そういう事情を知っているからこそ、アルミナが出向いてくれたのだ。

 一応【アカデミア】に籍をおく博士であるため、申請すれば施設の使用許可を得られる。


 その申請しておいた部屋は、メインタワーの一角らしい。

 二kmの槍の幅広な腹の部分――下層域に向かって【レグナス】は進み、巨大な戦闘艦でも通れそうな走空機専用エントランスから内部へ。

 青白く薄暗いが流麗な芸術品の如きトンネル状の空間と大型艦発着場を抜け、各階層へ通じる直径二〇mほどの直立円筒形の通路を上に。

 トンネルと同様に、照明不足気味な青白くて薄暗い箱無しエレベーターに乗った気分で垂直に昇っていくと、目的の階層――生物工学科へと辿り着いた。

 円筒の外周部に四角く空けられた小型機の発着場に乗りつけ、【レグナス】から降り立つ。


「ん、着いたのね……」

「ああ、いま気づいたのか。もしかして寝てた?」

「ええ、寝ちゃってたみたい」


 寝ぼけ眼を擦るアルミナに手を貸し、降下を促す。


「ありがと。相変わらず陰気な場所ねぇ。照明費用ケチってんのかしら?」

「ははっ! そうかもな。通路は最低限の視界が確保出来れば良いとか、騎士団でもそんな感じだよ」


 発着場を抜けると、青い円筒から出る形になる。

 白い螺旋階段の中央部分がいま通ってきた円筒形の上下に伸びる通路で、目前の階段部分はその倍の幅を持つ。

 二〇mの倍……すなわち幅が四〇mほどのデカすぎる螺旋階段が目の前に広がっているわけだが、どんな怪獣がここを使うんだよ。


「クスッ……か、怪獣って」

「人の心の声で勝手にツボるなよ」


 階段へ繋がる桟橋のような場所で待っていると、今度は直径三mほどの円板がどこからともなくスーッと現れた。

 桟橋の縁にある円形の窪みにピタリと嵌り、我々の乗船をお待ちだ。

 こいつも多分に漏れず、ここに来るまでずっと目にしてきた青である。

 青は叡智や冷静さを象徴する色霊いろだまだから採用したんだろうけど、ここまでやると訪問者への嫌がらせにしかならんぞ。


 渋々その円板に乗りこむと、アルミナが慣れた手つきで宙に浮き出た半透明の仮想コンソールを操作し、目的地設定を終えると円板の周りにリング状の斥力場結界が発動され、

桟橋から離れて動き出す。


 螺旋階段を円板に乗って上へと進む。

 この階段は一応歩いても登れる設計だが、すれ違う者、誰一人として自分の足を使っていない。

 外の交通整理システム同様、一元管理による効率的な人と物の流通のためだろうが、これでは基礎体力の低下は免れないだろう。

 まぁ広大かつ似たような景色ばかりのここ【アカデミア】に於いては、こういう移動手段でもないと即座に迷いそうではあるが。


 不意に、右手がぎゅっと握られた。

 横のアルミナを見ると、何やら不安そうな顔をしている。

 どうした、と聞く前に、思い至った。


――人、か。

 道行く人、同型の円板に乗ってすれ違う人々。

 それは主にここの職員だ。

 男女問わず様々な年齢層がいるが、共通して皆白衣を纏う研究者たちである。

 その中では【翔翼騎士団】の紅き長外套を纏う俺と、黒い魔女コーデのアルミナはどうしたって目立つ存在になってしまうわな。


「また盗みに来たのか?」


 すれ違い様に、皮肉げな笑みを浮かべた壮年の男がそう言った。

 見れば、こちらに視線を合わせず、ただ前を向いて独り言のように口にしたのだろうけど、周りには他に誰も居らず、明らかに俺たち――いや、アルミナへの言葉としか思えない。

 当のアルミナは、俯いて、ただコンソールの現在地表示を見ている。


 また盗みに来たのか?

 この言葉が意味するところは……そうか。

 アルミナには特殊な力がある。

 それは人の心を読む能力――【精神感応テレパシー】であるが、研究者のあの男が言いたいのは、「また他人の頭の中を覗いて、研究内容を盗みに来たのか?」という意味合いだろう。

 そんな事実など無いと言うのに。

 若くして才覚を発揮し、研究成果を次々と社会に献上するアルミナに、羨望を通り越して嫉妬を覚えているのか。


 気づけば遠巻きにすれ違う者たちも一様に、先ほどの男と似た表情をしていた。

――それは、【疑心暗鬼】の顔。

 自分たちの研究成果を盗まれるのではないか?

 あるいは秘めたる想いを暴かれて、弱みを握られてしまうのでは?

 そんな風に【疑う心】が、彼らの心に【暗き鬼】を生む。

 そして心を感じてしまうアルミナには、それが言葉に出すよりも明白に伝わるのだろう。


 疑心による暗鬼は、暗器――刃と化して対象の心を斬りつける。

 物質の刃なら血を流し死んで終わりだが、心の刃はそうはいかない。

 ただひたすらに、終わらぬ苦痛が続くだけ。

 心をナイフで突き刺し抉られ続けて、いつしか血を流し続けて心が枯れ果てたとしても、死ぬことなど出来はしない。


 アルミナは、こうなると分かっていて、それでも俺のために来てくれた。

……いつも軽々しく街に呼んでいた俺は、アルミナの苦しみを何一つ分かっていなかったのではないか?

 いつもならこうしてアルミナのことを考えていると、すぐに心を読んで突っこみが入るのだが……。


「……ふぅ」


 当の本人は暗鬱な顔でため息をつくばかり。

 多勢から同時に発せられる疑心の声しか、聞こえなくなってんだな。


「アルミナ」

「……ん?」


 返事はすれどもこちらを見ない。

 かなり参っている様子だ。


「余計な雑音に耳を傾けるなよ? オマエは、俺の声だけ聞いてりゃいい」


 そうドヤ顔で決め台詞を吐くと、驚いた顔でこっちを見たアルミナは、しかし拗ねたようにまたそっぽを向く。


「……じゃあ、何か喋ってよ」

「……ごもっとも」


 口数の少ない俺の台詞じゃなかったかも知れん。


「いやまぁアレだ……俺の心の声も含めて、という意味であってだな」

「ダメ。ちゃんと肉声で」

「ぬぅ……」


 話題……話題か。

 余計なことを考えるのは得意だが、それらを口に出して喋るのは苦手なんだよなぁ。

 しかしそれで気を紛らわせることが出来るのだろうし……何かないか、何か。

 それにしても腹減ったな。


「あーそうだ。この後は外食の予定だったが、何食べに行く?」

「えーとそうね……」


 ふう、とりあえず会話のボールを投げることに成功した。

 浅い話題だからすぐに終わりそうだが。


「最近洋食ばっかりだったから、そろそろ和食なんてどうかしら」

「和食か、良いね。よし、さっさと検査済ませて昼食にしよう」

「……あのね、さっき間食したばかりでしょう?」

「一時間あれば腹は減るぞ」

「どんだけ燃費悪いのよ貴方。というか食べてからまだ数分でしょ?」

「なんだって……!?」


 まだその程度しか経っていないのか!?


「ちょっと待ってくれ、じゃあ検査は一体、どれくらい掛かるって言うんだよ?」

「二時間くらいかしら?」

「餓死する」

「しないわ」

「いやもう耐えられる気がしないんだけど」

「はい、着いたわよ。降りて」

「うぅ……」


 螺旋階段外側の白壁に設けられた桟橋に円板が接続され、斥力場結界の青白い光が消えて、アルミナに前進を促される。

 扉横のコンソールでアルミナがID認証をして、開いた扉を抜けて中へと進む。

 連行されていく俺。

 朝食を摂り、さっき【レグナス】上で間食も摂ったが、それでも圧倒的に物量が少なったのだろうな。

 思えば、あの程度で足りるわけがない。


……空腹感にうなされながら引きずられて入った先は、検査管理室。

 検査手順及び結果を遂行監視するための各種設備が整った部屋だ。

 一〇平方mくらいの灰色な長方形の室内には、四方の壁面一杯に各種機器や設備モニターが埋めこまれていて、機材部屋のような状態。

 入り口からみて右横には、隣接する検査試験体室への扉が。

 俺は真っ直ぐに、その隣部屋へと放り込まれた。

 アルミナは制御管理主任席へと座る。


 隣部屋は、白一色のだだっ広い正方形。

 外壁側の方に大型生物搬入出用の大きな出入り口があるのと、真ん中の床に円陣が描かれていること以外は特に何もない。


「とりあえず何か非常食を」

『これから検査するのに? 却下に決まっているでしょう』


 白い部屋のどこかに設置されているマイク兼スピーカーから、アルミナの容赦なき冷徹なる声が響き渡った。


『さ、早く円陣の中に入って』

「……はいよ」


 促されるままに円陣へと進み入る。

 途端に真下の床がゴムのように伸び上がり、俺の身体形状に沿ったクライニングシートへと変貌して。強制的に着座させられた。


『はい、じゃあおやすみ~。また後でね~』

「ん? ああ、そっか」


 検査中は寝てて良いのか。

 なら、二時間も苦にはならないな。

 リクライニングシートから睡眠導入システムによる種々のアプローチを受けて、俺は眠りへといざなわれた――



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