第8話 エロと母
「天界に一人の天使がいました。
ある時彼女は超退屈~と覗き見していた地上に一人の男性を見つけます。
天使は強くて優しくてちょっと照れ屋さんな男性に憧れました。強くなりたいと地上に降りた天使は彼に三日三晩土下座し頼みこんでようやく弟子にしてもらいました。けれどある時師匠へ向ける尊敬とは違う気持ちに気付いたのです。天使は彼に恋をしていたのだと自覚してからは猛アタック。キューピットの矢なんて使わなくても見事に打ち落としました。おしまい」
はい俺読みました。
俺は自宅でゆめり作の台本のあらすじを強制的に朗読させられていた。
ハハハ目が死んでる? 否定しない。
今だけはジャイアンさんよりもキテレツさんがぴったりな奴は今、俺のベッドに腰かけ、俺はその下の床に座らされ、多分きっとつむじを凝視されている。
視線で禿げるとは思わないが、ストレスで禿げそうだからやめてほしいこの位置関係。
「ホントいつも一体何の拷問なんだこれは……」
「はあ? 拷問って何よ。朗読はボケ防止にもいいのよ」
朗読行為そのものじゃなくこのイタい内容の朗読がだよ。
とかく精神に来る……。
それにボケ防止って、俺はまだお前と同じ年なんですが?
俺がジイイならお前だってババアだぜ、ざまあッ。
……とは、口が裂けても言えない。
それともお宅の意識は遠い未来からゆめりの中に来た俺の孫なのかい?
おっといけない、こいつの奇天烈創作文に刺激されて俺までファンタジーな思考に。
「で、感想は?」
これは俺の心がな。
全く読んでで恥ずかし過ぎる内容だよ。こいつは精神を病んでるのか?
土下座とか猛アタックとか、何だか神々しくなく泥臭い天使もいたもんだと思う。三日三晩土下座させた男もどこが優しいの、ねえ?
普通の人間だったら半日や一日そこらで限界だっつの。
あと好きな奴打ち落とすって何だよ。殺し屋? スナイパー? 怖え天使もいたもんだよ。
むしろ悪魔じゃね?
お前みたいにさ。
――
うおっ漢字にすると何かの攻撃技みたいに見える。
って何で涙ぐんでんの?
そして俺をものすごい高速振り子で蹴るのやめて!?
「いててててててッてえ! 何するんだよ!」
「だってあんた今ボツとか考えたでしょ?」
「いやいやまさかっ」
何こいつ心読めんの? エスパーなの? な~んてまさかな。そんなラノベ天界……いや天使から離れろ俺、んな展開あるわけねえよな!
突然の能力覚醒!とかなしだかんな?
暴力発生!はしてるが。
俺はじんじんする体の痛みに耐え、咳払いすると改まった。
「非常に独創的だし、まあ……いいんじゃないか」
婚約破棄いやいや即刻破棄するには。
はい新たなる攻撃スキル獲得――
ガシガシゲシゲシゲシ、ゲジゲジ!
「ちょッいてえいでででででやめろって! ホントまじエスパーなのお前!? 虫けらを見るような目で俺を見るなーっ」
「はあ? あんたの態度が大体を物語ってるのよ!」
年の功ならぬ付き合いの長さの功か。
侮れんなジャイアンさん。
そのうち俺を「心の友」とか発言するかもな。どうしよ。
「いでででででッでででええええええ!」
言っとくがこれは、ついに
悲鳴ですよ悲鳴。
どなたかもし~? ヘルプミ~?
「だからやめろってえええ!」
キツツキのような足技に耐えかねた俺が足首を掴むと、奴は「きゃあちょっと!」とバランスを崩してベッドに倒れ込んだ。へっざまあ♪
「何するのよ! まさかこのまま……ッ!? ああああたしを押し倒すな羽交い絞めにするな服脱がせるなーッ!」
「してねえだろおおおッッ!?」
ホント何つう虚言っつか妄言。勘弁してくれ!
大体な、下に母親いるしいなくてもお前にんな命知らずな真似するかっ。
あ、申し遅れました我が家は夏涼しく~もなく、冬暖かく~もなく何の変哲もないちょっと古い二階建てです。
「――
声は、ドアのすぐ外からだった……。
ぎゃーッ母さんいつからそこにいたの!?
しかも直前の俺の方の悲鳴はスルーですかい!
「ほらみろ変に誤解されたらどうするんだよ! ――何でもねえって!」
俺は奴にも何か言えとこそっと促す。
「何でよ」
「俺だけの声しかしなかったら不自然だろ」
「そう言われればそうね。――おば様何でもないんです。ちょっといきなりベッドに仰向けにされて驚いちゃっただけで」
あなた様は何故に親が聞いたら誤解を招くような発言をなさるのですかあああ!!
「んまッ
まつさぶろうって誰!? あなたの息子はしょうざぶろうですけど!?
案の定、ばあーんと部屋のドアが破られる。
「あらっ、ちょっと、嫌だわ~、あんたったら朝から寝間着なんて着て、やる気満々じゃないの!」
「いや朝だからこそ着てるんですけどね!?」
「言い訳しない! ゆめりちゃんから離れなさい!! やっていい事と悪い事があるでしょう! そりゃ可愛い彼女に自室でムラムラ来るのは母さんわかるわ!」
わかるって何!?
あと母親の口からムラムラとか聞きたくない。
「思春期の男の子ってそうだものね。頭の中は乳、尻、美脚、食べ物(彼女も含む)の四点倒立だものね。だけど無理強いなんて……母さんあんたをそんな犯罪者に育てた覚えはないわ……!」
息子の純なハートが割れちゃうよ!?
わざわざ「丸カッコ」と「丸カッコ閉じ」も入れて読んだ上に、食べ物に彼女も含むって色々とストレート過ぎでしょお母たま!?
大体四点倒立って何だ。四点はともかく自制のために逆立ちしろって意味か?
それに何で俺たちが付き合ってるような口ぶりなんだよ。
「母さん誤解だって。俺たち付き合ってねえし」
「何ほざいてるの
ひでえッ親にほざいてるとか言われた!
っつーか母さん、俺の言葉ってそんなに信用ないですかね。
子供の頃調子こき過ぎた俺への復讐ですか?
「ゆめりお前もここで否定しろよ……って何で薄ら羞恥滲ませて話合わせてんだよ!」
ったく、何か企んでんのか?
「おば様、もうやめてあげて下さい。あたしもその、悪いんです」
般若と化した母さんから俺を庇いつつ奴が言った。
その際小声で「嘘も方便よね」とか呟いてて……絶望的に嫌な予感。
「
「――芸術と性欲をはき違えるなんて、こんの馬鹿息子がああああ!」
もう何ですかね。
今時珍しいげんこつが飛んできましたよ、げんこつが。ジャンケングーですよ。
はあ、俺の絶叫癖は絶対母さんから受け継いだもんだな。
ああ遺伝って怖い怖い。
「今日はおうちに帰りなさいゆめりちゃん。この飢えたけだものから避難しないと」
「ええおば様。そうします。でもあの、エロを理解してあげて下さい」
「!? ゆめりちゃん……なんてイイ子……ッ」
母さんは奴をきつく抱き締め、崖ギリギリで思いとどまったサスペンスドラマの犯人のように、その場に泣き崩れた。
え? あのー、俺へのフォローは?
……――ないんかい!!
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