第27話 ハンター

「お前達。覚悟を決めるのです」

「やるですか? やらないですか?」

 ジャパリ図書館の前の広場で沢山のフレンズを前に、コノハ博士ことアフリカオオコノハズクのフレンズと、ミミちゃん助手ことワシミミズクのフレンズが演説をしていた。


 そこに集まっていたのは、有志で集まった『セルリアン討伐作戦』に関わるけもの達。

 皆、僅かにうつ向いて口をつぐみ、周りの反応を伺っていた。


「さっさと決めるのです。我々は忙しいので」

「我々は忙しいので……」

 図書館前に整列するフレンズ達に更に追い討ちを掛けるように博士と助手が詰め寄る。

 誰もが逃げ出したくなるような重たい空気が充ちていた。


 なぜ、こんな事になっているのか?

 それは、数日前まで遡る────





「ねぇ、みんな! わたし達だけで、あのおっきいセルリアンやっつけちゃおうよ!」


 全ては、サーバルのこの一言からはじまった。


「やっつけるって、あんた……。どうやって?」

「それは、ほら! いっかいやっつけられたんだし……」

 カラカルのもっともな指摘に、サーバルは言葉に詰まる。


「たしかに、アライさんもこのまま黙ってるのは嫌なのだ……。ミライさんのかたたたきを討つのだ!!」

「『かたき』ね~。あと、ミライさんは生きてると思うよぉ~」

 アライグマが息を荒くして「やってやるのだ!」と言い、フェネックが静かにそれを制した。


「でも、私達だけじゃ……」

 トキの呟きに、皆の視線が集まる。


 サーバル達がセルリアンと戦えたのは、ミライの力が大きい。

 それは皆、よく理解していた。



「でも、あのおっきいセルリアンがいるから、ミライさん達はパークからはなれなくちゃいけないって言ってたんだもん……。だから、わたし達であのセルリアンを倒せたら、ミライさん、帰って来られるんじゃないかなぁって思ったんだけど……」


 サーバルの言葉に、フレンズ達は小さく唸った。

 たしかに、サーバルの言う事は間違いではない。しかし、それを実現するには彼女達だけでは到底力不足だった。


「う~ん、私は難しいと思うなぁ。ほら、今まではミライさんが指示してくれてたから、あんな風に戦えた訳だしさ~」

 フェネックのその意見に、フレンズ達は更に唸りながら天を仰いだ。



「なら、博士に相談してみるっていうのはどうかしら?」

 そんな所の降って湧いた意見に、皆が注目する。

 するとそこには、それまで黙って話に頷いていたタカが腕を組んで立っていた。

「さっきフェネックが言った通り、今の私達に必要なのは司令塔だと思うの。きっと、あの2人ならやってくれるわ!」


「「「「それ(なの)だぁー!」」」」

 タカによって示された1つの道に、けもの達の顔がパッと明るくなった。


「よーし、それなら図書館だね!」

「あ、待つのだサーバル! アライさんが先にいくのだ!」

 真っ先にサーバルが駆け出し、それを追ってアライグマも走り出す。


「あ、サーバル! あぁ~あ、いっちゃったよ……。あの子ったら」

「まぁまぁ、アラーイさーん! ……あららぁ、あれは聞こえてないねぇ~。私達はゆっくりいこ~かぁ」

 カラカルとフェネックは、走り去る相方の背を見送りながらゆっくりと歩き出した。


「2人は待ってて、わたし達が連れもどすわ。タカ、手伝ってもらえる?」

「オーケー。行きましょう!」

 そして、トキとタカが翼を広げ、サーバル達を追いかける。


 こうしてフレンズ達は、ジャパリ図書館へと向かったのであった。


 ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄

 ̄ ̄ ̄ ̄

 ̄ ̄


 それからサーバル達は、図書館で博士達に状況を説明し、パークから人がいなくなってしまった事、超大型のセルリアンがフレンズ達の平和を脅かしている事が、主に鳥のフレンズ達を媒介してパーク中に報らされた。


 そして、それと同時にセルリアンを討伐する為のチームが結成される事が決まったのだった。




 今、図書館前に集まっているのはその為に集まってきたフレンズ達だ。

 戦いの得意な肉食動物のフレンズを始め、好奇心旺盛なフレンズ、パークの為ならと勇気をふり絞ってこの場に足を運んだフレンズまで、様々な面々が揃っている。


 その中には、かつてサーバル達と出会ったトムソンガゼルやアラビアオリックス。キタキツネとギンギツネの姿もあった。



「うまくいくかな……」

 図書館の中から広場の様子を伺っていたサーバルが心配そうな声をあげる。

 超大型セルリアンの討伐には大きな力が必要だ。

 それも、群れとして戦える力だ。


 だから、一人一人が強い意思を持ち、1つの目標に向かっていけるチームを結成する事が、作戦決行の絶対条件だった。



 その為には、ここに集まったフレンズ達が一人でも多く、セルリアンに立ち向かう事を決意してくれなければならない。

 一人でも多くの力が必要だった。



「さぁ、お前たち。やるですか? やらないですか?」

 演説が終わり、ジャパリ図書館の広場に沈黙が訪れる。

 その場に居合わせるフレンズ達は皆口をつぐみ、僅かにうつ向いていた。


「さっさと決めるのです。我々は忙しいので」

「我々は忙しいので……」

 答えを決めかねるフレンズ達に更なる追い討ちをかけるように、博士と助手が続けざまに言い放つ。

 誰もが逃げ出したくなるような重たい空気が立ち込めていた。




「はい。ぼく、やるよ」


 その沈黙を最初に破ったのは、綺麗な薄橙の髪と茶色の大きな尻尾を持ったフレンズだった。

 おおきな三角の耳をピンッと立て、自らの意思を掲げるように高く手を上げていた。


「ちょっと! キタキツネ! あなた……!」

 そんな彼女の隣で、銀色の髪と黒いふさふさの尻尾をもつギンギツネが驚きの声を上げる。


「あなた、見に来るだけって……。危ないことはしないって言ったじゃない!」


「だって……。ギンギツネはミライさんに会いたくないの? ぼくは会いたいよ。だって、まだ『おかえり』って言えてないから……」

 彼女が、ミライとした約束。それは、キタキツネとギンギツネで、温泉の施設を守ること。そして次にミライがそこを訪れた時、『おかえり』と言うことだ。


 その約束を果たす日を、キタキツネはずっと待っていた。

 雪山の温泉に浸かり、頭をなでてもらって、一緒にゲームをする事を楽しみにしていたのだ。



「私だって、ミライさんに会いたいわよ……。でもわかってるの? キタキツネ。セルリアンと戦う事になるのよ?」

 ギンギツネの少し棘のあるその言葉に、キタキツネは一瞬怯んだが、すぐに目の前の友の目を真っ直ぐに見詰め返した。


「……それでも、やるよ。ミライさんは、ぼくたちの為にたたかってくれたから……。だから、ギンギツネ。今度はぼくたちが戦う番だよ」

 ハッキリとした口調でそう言い切ったキタキツネに、ギンギツネは驚く。

 それは、いつもどことなくオドオドしていて、知らないフレンズが来るとギンギツネの背中に隠れてしまう普段のキタキツネからは、想像できない姿だった。



「それが、お決まりイベントなんだよ。ギンギツネ」

「あなた、またゲームの話……」

 ギンギツネは半ば呆れるようにため息を吐きながらも、じっと彼女を見詰めるキタキツネに微笑みかける。

 内向的で、あまり外に出たがらないキタキツネが、誰かのためにこうして動こうとしている事が嬉しく思えたのだ。

 そして、そんな彼女の決断をそっと見守ろうと決めたのだった。


 それに、戦うのは2人だけではない。

 サーバルやカラカル。他にもミライと共にセルリアンと戦ってきた強いフレンズ達も一緒なのだ。


 図書館の方へ目を向ければ、仁王立ちする博士と助手の向こうに、サーバル達の気配を感じる。

 よくよく目を凝らしてみると、食べかけのリンゴみたいな形をした建物の入り口から、耳だけ出して広場の様子を伺う彼女達の姿があった。




 キタキツネとギンギツネのセルリアン討伐参加が決まると、そこからは怒濤の勢いでメンバーが膨れ上がっていった。

 まるで2人の後に続くようにして次々と手が上げられ、最終的には広場に集まった全てのフレンズが、セルリアン討伐の意志を掲げてくれたのだ。


 仕舞いには、図書館の近くを偶然通り掛かったフレンズまでもがお祭り感覚で参加してしまう始末だ。



 図書館の広場は熱気に溢れ、フレンズ達は皆思い思いに雄叫びを上げたり遠吠えしてみたりと、凄まじい気合いに満ち溢れていた。


 その観衆の前に、サーバル達が姿を現す。

 それにより、フレンズ達の熱は更に燃え上がる。


「あはは、すごい事になっちゃったね……」

「ほんとね……。あたしも、ここまでになるとは思わなかったわ」

「みんな私のファンかしら?」

「うおぉ~、アライさんきんちょうしちゃうのだ……」

「こんなに沢山のフレンズが集まるなんてすごいね~」

「常にクールが私のモットーだけど、熱くなるのも悪くないじゃない!」



 やがて、集ったけもの達の熱がさめ始め、広場に静けさが戻ってきた頃合いを見計らって、博士が再び前に立つ。

 そこには、祭りの後のような心地よい静けさが満ちていた。


「いいですか、お前達! 我々は、1つの群れとなるのです! この危機を乗り越えるため、皆の力を合わせるのです!!」


 

 そして、ゆるやかな静寂の中、博士は一際大きな声で言い放つ。

「そのために我々は、ここに、狩るもの────『ハンター』を結成する事を、宣言するです!!」


 その声が届いた瞬間、フレンズ達の熱が再び燃え上がった。



「セルリアン共に我々の恐ろしさを思い知らせてやるのです!!」


 広場に満ちたフレンズ達の雄叫びが、大気を揺らす。

 自然界では決して生まれる事のない、種族を越えた絆。それは、サンドスターの力を借り、フレンズの姿を得た事で生まれた特別なものだった。


 各々が異なる能力を持ち、互いの弱点を補い合えるチーム。

 それは、群れとして最も大きな力を手に入れられる理想のかたちだった。


 この群れなら、どんな強敵にも負けない。どんなセルリアンが相手でも、必ず倒せる。

 そんな自信に充ちたフレンズ達の勝鬨が、まるで炎が燃え上がるように空へと立ち上った。




 人がパークから姿を消してから10日目を迎えたこの日、ミライの残した意志は、フレンズ達に受け継がれた。

 パークの為に戦った彼女の帰還を望むもの。自らも戦ってパークの未来を守るのだと決意を固めたもの。


 各々の意志を持って集まったけもの達は、自らの群れに『ハンター』と名付け、超大型セルリアンの討伐を誓ったのだった。

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