第11話 激突!セルリアン!

「わ"た"ぁああ"ーーーーし"ぃい"ーはぁ"ああ"ーーー、とぉお"ーき"ぃ"い"ーーー! な"か"ま"ぁあ"ーーを"さがぁして"るぅ"うう"ーーーーーー!!!」


 トキが歌うと、超大型セルリアンの動きが一瞬止まり、大きな目玉がギョロッと彼女を睨んだ。

 そして、大きな体を捩るようにして、ゆっくりと進路を変える。


 セルリアンはトキの歌に反応し、フェネック達が落とし穴を仕掛けた広場へと向かって歩き出した。



「やりましたね……! トキさん!」

 その様子を見守っていた未来が、バスの中で静かにガッツポーズを決める。


「ミライさん……。よく平気だね……」

 サーバル達は、そんなミライの背に隠れるように丸まり、耳を押さえて尻尾を丸め込んでいた。




 セルリアンはゆっくりと木々をなぎ倒しながら広場へと近づく。

 その重々しい足音が、バスの窓ガラスを揺らした。


 そしていよいよ、セルリアンが広場へと足を踏み入れる。

 大木のような脚が土埃を舞わせながら広場の中央へ向け、更に1歩を踏み出した。



 その瞬間、超大型セルリアンの身体が大きく傾く。トキの歌に気を取られ、足元にあるサーバル達が地表に掘ったすり鉢状の穴に気が付かなかったのだ。

 セルリアンは足を取られてバランスを崩しそのまま大きな身体を正面から地面に打ち付けた。


 ズゴゴゴゴ……! と大きな音が鳴り、土砂が舞い上がる。そして、一瞬地面が動いたかと思うと、途端に大きく地面が陥没し、セルリアンがその巨体を土に埋めるようにして膝を折った。

 フェネックの落とし穴が発動したのだ。



「アライグマさん! フェネックさん! ポンプを漕いでください!!」

 勝機を見出だしたミライがアライグマとフェネックに指示を出す。


「まかせるのだ!」

「はいよー」

 その言葉にアライグマとフェネックが立ち上がり、ポンプに駆け寄った。

 ミライは、長いホースの先の放水ノズルを抱え、セルリアンにできるだけ近付く。


「フェネック! いくのだ!」

「はいよー」

「「せーの! わっせわっせわっせわっせわっせ!」」

 アライグマとフェネックがポンプを漕ぎ始め、川の水を勢い良く汲み上げる。


「いきますよ! 放水開始!!」

 ミライが放水ノズルの弁を捻り、ポンプから送られてきた水の圧力を一気に解放した。

 その瞬間、ボシュゥーーーーーー! と、鋭く空気を裂くような音と供に、大量の水がセルリアンに襲い掛かる。



 ミライは、大きな弧を描いて飛ぶ水流を上手く操り、土に埋もれたセルリアンの足元を狙った。

 やがて水は身動きができないセルリアンに届き、その巨木のような足を濡らす。


 そして水に濡れたセルリアンの足は、ジャングルの土に含まれる塩分と反応して、徐々に石化を始めた。

 パキキキキッ……! と、ガラスにゆっくりとヒビが入るような響く。


 ギッ……。ギッ……! と短い悲鳴を上げながら、足元から少しずつ石化していくセルリアンは、次第に動きを封じられていった。



 やがて、足の半分ほどが石化したセルリアンは、まるでその場の空間に縫い付けられたように身動きが取れなくなった。

 それを確認したミライが叫ぶ。

「カラカルさん、サーバルさん! セルリアンの核を破壊してください!」

 放水を始めた段階で、ミライは眼鏡に内蔵されたセルリアン分析装置のスイッチを入れていた。

 今、ミライの視界にはセルリアンの姿と重なって、分析された情報が映し出されている。

 巨大な体に隠された核の位置もしっかりと見えていた。



「りょーかい! ここで決めるんだから!」

「いくよ! サーバル、いっきに畳み掛けるよ!」

 サーバルとカラカル。二人が同時にセルリアンに襲い掛かる。

 野性解放により光を放った4つの瞳が、セルリアンの黒い巨体を捉えた。


「セルリアンの核は体のほぼ中心部です。深く抉るように攻撃してください!」

 ミライの指示に、二人が鋭い爪を構えながら大きく地面を蹴って空中に躍り出る。

「みゃみゃみゃみゃ、みゃーーーーー!!」

「おぉーーーらぁーーーーーーー!!」


 二人の渾身の一撃。

 しかし、───────ガキィーーーンッ!と激しい火花が散ったかと思うと、サーバルとカラカルの爪の一撃が弾かれた。


 渾身の攻撃を防がれた二人が動揺を隠せない様子で後ずさる。

「どうしよう! カラカル、ぜんぜん効いてないよ!」

「しかたない……! サーバル、野性解放最大でもう一回行くよ! パワー全開だ!」

「うん! わかった!」


 サーバルとカラカルが、攻撃準備の為にセルリアンと距離を取る。

 その後を視線で追おうと身を捩るセルリアンの黒い巨体に、今度はミライの放水攻撃が降り掛かる。

「今度はこっちですよ!」


 しかも、それはただの水ではなかった。ミライが放水する横で、トキが足下の土を掬い上げては水流の中に放り込んでいたからだ。


「はいっ! はいっ! はいっ!」

 リズムよく掬っては放り、掬っては放りを繰り返すトキ。

 その土は、空中で放物線を描く中で水と混ざり合い、セルリアンを襲った。



 塩分を含んだじゃんぐるの土が混ざった水は、セルリアンに効果バツグンだった。

 水に触れると、セルリアンの体はたちまち石化し、それまで黒く輝いていた体表がみるみる内に真っ黒な溶岩のような岩へと変化していく。


 そこへ再び、サーバルとカラカルの爪による斬撃が炸裂した。

 バシュッ! と、鋭く空を割くような音がミライ達の耳に届き、10本の爪痕がセルリアンの禍々しい巨体を切り裂いた。

 セルリアンが、ギィイイーーーッ!!と、金属同士を擦り合わせるような思わず耳を塞ぎたくなるような悲鳴を上げた。


 しかし、その一撃は核に届いておらず、超大型セルリアンは再び活動を始め、天を仰ぐような姿勢を取った。

 石化した体表がひび割れ、剥がれ落ち、地面に鋭く突き刺さる。


「まずい……! サーバルさん、カラカルさん! 『咆哮』がきます! 耳を塞いで退避ーーー!!」



 ミライが叫ぶと同時、二人は耳を塞ぎながら自慢の脚力で大きくバックステップを踏んだ。

 次の瞬間、グォオオオオーーーーーッ!! と、大地を揺るがすような大きな咆哮がじゃんぐるを駆け抜ける。

 セルリアンは、そのまま身体を左右に振り、石化した部分を自ら切り離そうともがき始めた。


「そうはさせません! サーバルさん、カラカルさん! 続けて攻撃!!」

 ミライの指示が飛ぶ。


「りょーかいだよ。ミライさん!」

「よーし! 喰らいな!!」

 指示に従い、サーバルとカラカルが同一箇所に連続して斬撃を叩き込む。


 その攻撃は、超巨大セルリアンの胴を深々と抉り、セルリアンは悲鳴をあげて動きを止めた。

「どう?! やっつけた?!」

「いや、まだ弾けてない!」


 ミライは、何か嫌な予感がした。目の前の景色。

 攻撃を終えた二人のけものが見つめる先、黒々とした巨体のセルリアンが動きを止め、空中に視線を漂わせている。じゃんぐるちほーのどの木よりも高い背中が僅かに震えていた。

 次第にその震えは後ろへ集約し、尻尾全体が僅かな光を放ちながら変形したかと思うと、その先端に沢山の四角いブロックのような物が形成された。


 するとセルリアンは、尻尾をぶんぶんと振り回しはじめる。その目は、先程大きなダメージを与えたサーバル達──────ではなく、ポンプで水を汲み上げるアライグマとフェネック。そして、放水ノズルを構えるミライへと向けられた。



 振り回した尻尾の先端のブロックは、やがて遠心力で千切れるようにして空へと高く上がった。次いで、幾つもの巨大な黒いブロックが、川縁に停められたバスへと向け猛スピードで落下してくる。

 ボスにバスを動かすよう指示しても、エンジンの始動までの時間を計算すると、間に合わない!


 咄嗟の判断でミライは叫ぶ。

「全員! 退避ーーーーーーーー!!!」


 同時に、ただならぬ空気を感じ取ったアライグマとフェネックがバスから飛び出し、トキがミライを抱えて空へ舞い上がった。

 その次の瞬間────────

 ドドドドドッ! と重々しい音を立てながら、大量のブロックがバスへと降り注いだ。

 それにより、バスの後部フロア諸とも手漕ぎ式ポンプが破壊され、大破したバスの車体の破片がじゃんぐるちほーの川に大きな水飛沫をあげた。


 そんな中、奇跡的に被害を免れた運転席の中で、ボスはアワワワワ……ッとフリーズしている。



「ミライさん! 大丈夫?!」

 サーバルが心配そうな声を上げながら駆け寄って来た。

「あんな攻撃ができるなんて……!」

 カラカルも一緒だ。


「ミライさん、あのセルリアン。もしかして、ミライさんを狙ってるんじゃないかしら?」

 ミライを地上に降ろしたトキが、不意にそんな事を口走った。


「まさか、そんなのありえませんよ」

 ミライは、冷や汗を流しながらそう言う。

 今までに、、セルリアンは数えきれない程このパークの中で発生している。

 そして、視界に入ったフレンズを襲い、攻撃されれば最も大きなダメージを与えた個体を優先的に排除するように攻撃してくる。


 そこには知性も思考もない。

 ただプログラムされた機械のように無機質に動き、単純な動きの組み合わせのみで彼らは行動する。



 しかし、目の前のセルリアンはどうだろう?

 セントラルパークで初めて対峙した時、まるで品定めをするようにその場の全員を見回したあの目。

 目の前に4人のフレンズが居たにも関わらず、襲うそ素振りすら見せず、大量のセルリアンを産み出したあの姿。


 そして今、バス諸とも放水装置を破壊したその行動。


 フレンズが近くに居ない場合、セルリアンはヒトを襲う事がある。

 しかし、今のようにフレンズがすぐ近くにいれば、ヒトになど見向きもしないはずだ。

 ましてや、建造物や物を狙って破壊するなど聞いたことがない。



 今も超大型セルリアンは、身動きができないままその無機質な真円形の大きな目でミライを捉えている。

 他の誰でもない。フレンズでもない。ヒトである彼女を……。


 その姿はまるで、目の前の敵を観察しているようだった。

 そして、サーバル達に的確な指示を出してその能力を最大限に引き出すミライの存在に気が付き、彼女達の作戦の根幹が放水だと気が付いたのだとしか思えなかった。



 これまでの常識では到底考えられない事だが、間違いない。

 超大型セルリアンは、知性をもっている。


 ならばこちらも、作戦を変えなければいけないだろう。

「みなさん! 一度、セルリアンから離れてください。体勢を立て直します!」


 今からでは、そんなに凝った作戦を立てる事はできない。

 やる事は単純。且つ素早くセルリアンに気取られる前に片を付ける事のできるものでなくてはならない。

 ヒトという動物は、他のどの種族にも負けない圧倒的な知性で栄えてきた種族なのだ。


 どこから現れたともしれないこんな奴に、知の領域で負ける訳にはいかない。



「皆さん! これから私の言う事を良く聴いてください!」

 ミライはそう前置きしてから、新たな作戦をけもの達に手短に伝える。

 そして概ねの内容が全員に伝わったのを確認し、宣言した。



「いいですか、これが最後の作戦になります。ここで決めますよ!!」

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