第7話 みんながいるから
「サーバルさん! 攻撃!!」
「まっかせてーー! うみゃみゃみゃみゃみゃみゃみゃみゃーーーーーーー!!」
「トキさん! サーバルさんをカバー!」
「わかった」
野性解放したサーバルが、瞳を黄金色に輝かせながらセルリアンの群れの中を疾走し、その行く手を阻むセルリアンを次々と薙ぎ倒して行く。
サーバルの通った道筋にはサンドスターが煌めき、虹色の軌跡ができあがっていた。
しかし、一向に減る事の無いセルリアンを前に、サーバルの攻撃の威力が衰え始める。
「うみゃ! うみゃ! うみゃーー!!」
速度の落ちたサーバルの周りには、徐々にセルリアンが集まりはじめ、彼女を囲むようにセルリアンの壁が形成されつつあった。
「サーバルさん! そこでジャンプ!!」
そこで、ミライが新たな指示を飛ばす。
言われた通りにサーバルが真上に飛び上がり、セルリアンの群れの上空に躍り出る。
そんな彼女の背後から現れたトキがサーバルの身体をがっしりと掴み、落とさぬようにみんなの位置まで運んだ。
「ありがと! トキ!」
「ふふっ、気にしないで。ミライさんってやっぱりすごいわね」
サーバルが蹴散らしたセルリアンは、殆どがパッカーーン! と弾けたが、致命傷を免れ、ゼリー状の身体を蠢かせながら行動を再開する個体もあった。
しかしそれらも、サーバルの爪によって負ったダメージで、サーバル達の腰か膝丈程度の大きさまで縮んでいた。
「アライグマさん! お願いします!!」
「まかせろなのだ!」
アライグマは、小さくなったセルリアンにおもむろに近づき────
「えいっ、なのだ!」
と、セルリアンのゼリー状の体にズボッ! と手を突っ込んだ。
そして、──────
「ここなのだぁーーーー!!」
器用な手先でセルリアンの核を探し当て、鋭い爪で破壊した。
一方その頃、フェネックは……。
「アライさんは明後日の方向に全力で走るけど、きみ達はまっすぐわたし達に向かってくるねぇー……」
ミライ達から少し離れた位置に佇み、腰に手を当てて、迫る大型のセルリアンを眺めていた。
彼女の身体より何倍も大きいセルリアンが何体も押し寄せ、彼女の姿を飲み込もうとする。
しかし、「だ・け・ど」と、フェネックが小さく呟いた瞬間──────
どしゃぁああああああんっ!! という大きな音と共に地面が大きく陥没し、突進していたセルリアンは止まりきれず次々と穴の中へ落ちていった。
穴の中にはセルリアンがぎっちりと詰まり、幾つもの大きな目がフェネックを捉える。が、そこから動ける個体は存在しなかった。
巨大な落とし穴の縁に立ち、フェネックが言う。
「ここは工事中だよぉー」
「さぁ! カラカルさん! 今です!!」
ミライが叫び、
「まっかせてぇーー!!」
カラカルが野性解放で威力が何倍にもなった爪の一撃を身動きがとれないセルリアンに叩き込む。
「うみゃみゃみゃみゃーーーー! わたしもいっくよーーーー!!」
トキによって落とし穴の真上まで運ばれたサーバルが、連撃を繰り出しながら飛び込む。
ぴったりと息の合った二人の連携により、フェネックのつくった落とし穴に落ちたセルリアンは、あっという間に殲滅された。
本部棟の会議室から、ミライ率いるフレンズ達の戦いを見ていたパーク職員は皆、感嘆の声を上げなげらその様子を見守っていた。
「すごい……」
「あれが、野性の力か……」
窓の外からはパッカーーン! と、セルリアンが弾ける音が響き、月光の下で、フレンズ達が野性解放で放出したサンドスターがキラキラと輝いている。
森から建物の前まで蠢いていたたセルリアンの影も、今となっては森の外縁付近まで押し戻され、疎らに木々の間から飛び出してくるのみとなっていた。
森の付近までセルリアンの群れを押し返したミライ達は、サーバル、カラカルチームと、アライグマ、フェネックチームに別れて戦っていた。
トキは、戦闘向きではないため、ミライのサポートにまわり、指示の聞こえやすい位置で待機している。
サーバル達は、木々の隙間から飛び出してくるセルリアンに必ず2人以上で対処し、確実に仕留めてゆく。
「サーバルさん! アライグマさん! そこです!」
「みゃーーーーー!」
「まかせるのだーーーー!」
ミライの指示に二人の声が重なり、同時に、2体のセルリアンがパッカーーン! と弾けた。
「やりました! パッカーーン! と撃破です!!」
セルリアンとの戦いが始まってどれだけの時間が過ぎたか?その数は確実に減ってきていた。
もう間もなく戦いが終わる。誰もがそう思っていた。
その時だった。
ミライの眼鏡に内蔵されたセルリアン分析装置から、ビィーッビィーッ! と鋭いアラート音が鳴り響いた。
「なに?! 何の音!?」
音に敏感なサーバルがその音に反応し、不安気な声を上げる。
ミライは叫んだ。
「みなさん!! 気を付けてください!! 大型のセルリアンがこちらに接近しています!!」
あれ程のセルリアン大群だ。親玉がいてもおかしくは無いと、ミライは最初から予測していた。だから、セルリアン分析装置のレーダーを起動し、大型のセルリアンが近くに来たら反応するようにしておいたのだ。
しかし、ミライはそこに違和感を覚えた。
大型のセルリアンの接近。中型の群れの襲来。
その間にあまりにも時間の差がありすぎる。
最悪の予想が頭を過り、直感的にミライは指示をだした。
「危ない!! 全力回避ーーーー!!!」
その声に、けもの達は一斉に後退し、全速力で森から離れた。
ミライも、トキに抱えられて森から離れ、セントラルパークの広場の中程まで後退した。
その刹那の出来事だった。
セントラルパークに凄まじい轟音が響き渡り、石畳の地面が、まるで捲り上がるようにして砕け散った。
巻き上がった礫から腕で顔を庇い、瞬間的に吹き抜けた風を全身に感じる。
まるで隕石でも落ちて来たようだと、そんな事を考えながらミライはゆっくりと目を開く。
「!!?」
そして、驚きの余り言葉を失った。
デカい。それ以外に何も感じなかった。
ミライ達の目の前に広がった光景。
地面を叩き付け、巨大なひび割れを作ったバスより大きな尻尾。
森の木々を軽く跨ぎ越える程に大きな身体。その色は、まるで周りの光を呑み込んでいるような黒で、月明かりの中で巨大な影となって夜空に佇んでいた。
ソレは、月と重なるほどに背の高い胴体から生えた大木のような4本の足で、森の中に立ってる。
「セル、リアン……?」
余りにも巨大で、その正体に思い至るまでに長い時を要した。
こちらに背を向けながら、身を捻るようにして巨大な1つの目玉でこちらを見ている。
「な、なに? あれ?!」
「でかすぎる…!」
「あんなの見た事ないわ」
「ふぇ? ふぇねっく…?」
「わたしはこっちだよ? アライさん」
けもの達も、動揺を隠せずにいる様子で、尻尾を丸め込みながら、余りにも巨大過ぎる敵を見上げていた。
セルリアンの大きな目玉がギョロッと動き、サーバルを、カラカルを、トキを、アライグマを、フェネックを、そしてミライを。まるで一人づつ覚えていくかのように見回す。
そして、──────
グオォオオオオオオオオオオオオオオ─────────────────────────────────ッ!!!
月に向かって吠えるようにして、大気を張り裂くような咆哮を上げた。
その場の空間ごと揺すられているような感覚の中サーバル達は、ただ耳を塞いでうずくまっている事しかできない。
ミライでさえも耳を押さえ、その場に倒れずに居る事がやっとだった。
更に信じられない事に、超大型セルリアンの腹の辺りが袋に水を入れたように変形したかと思うと、そこから何体も中型と大型のセルリアンが生み出された。
生み出されたセルリアンは重力に引かれて森の中へ落下して行く。
一通りセルリアンを生み終えた超大型セルリアンは、分裂した事によって抉れたような形になった腹を、その体積分身体を小さくする事で修復した。
一回り小さくなった超大型セルリアンは、そのまま歩き出し、森の木々を踏み倒しながらミライ達とは逆の方向へと去っていく。
「ま、待つのだ!!」
ダメージを回復し、立ち上がったアライグマがそれを追いかけようと走り出す。
しかし、ミライがその腕を掴んで止めた。
「ダメです! アライグマさん、戻ってください!」
「ヤなのだ! はなすのだ! はやく追いかけないと! パークの危機なのだぁー!」
「だからこそです!」
ミライは、珍しく語気を強めてアライグマを叱咤した。
「だからこそ、今行ってはダメです。あんな大きなセルリアン。何の作戦もなしでは命を無駄にするだけです! それに、今は、サーバルさん達が回復できていません」
その言葉に、ミライの手を振りほどこうと暴れていたアライグマの動きが止まる。
見回せば、サーバル、カラカル、そして、アライグマの相棒のフェネックが、まだ先程の咆哮のダメージから立ち直れずにうずくまっていた。
「うぅ~、ごめんなさいなのだ」
うつむきながら、アライグマは耳と尻尾を垂れさせる。
ミライはそんな彼女前に回り込み、目線を合わせ、その頭を優しく撫でた。
「謝る必要はありません。アライグマさんのパークを想う気持ち、よく判ります。私も、パークガイドとして、パークの調査隊長として、パークを想う気持ちは誰にも負けないつもりです……! でも、独りでできる事は限られています。ですから、こうして皆さんの力を借りているのです」
ミライはすっと立ち上がり、力強く宣言する。
「これは、前代未聞のパークの危機です! パークを守るため、そして、フレンズの皆さんを守るために、力を貸していただけませんか?」
アライグマの顔が、パッと明るくなる。
「お安いごようなのだぁーー!」
その後、超大型セルリアンから新たに生み出されたセルリアンの襲撃があったが、フェネックの落とし穴と、サーバルとカラカルの連携攻撃で撃退する事に成功した。
しかし、予想を遥かに上回る敵の襲撃にサーバル達の疲労はピークに達し、超大型セルリアンを追跡できるだけの余力など残っていなかった。
「みなさん。お疲れさまでした……!」
へとへとになり、地面に座り込んだサーバル達にミライは労いの言葉をかける。
その額にも、浮き出た汗がびっしりと付いていた。
「あんなにたくさんのセルリアン、初めて見たよ……」
サーバルの言葉に、カラカルも同意する。
「あたしももうくたくただよ……」
「アライさんも、もう動けないのだ……」
「サンドスターがもう無いよぉー……」
アライグマとフェネックも、もう動けるだけの気力もないようだった。
「わたしに何かできないかしら?」
比較的戦闘への参加が少なかったトキはまだ動けるようで、何かみんなの為に動きたいと言った。
「お水! お水がのみたいよぉー!」
サーバルがそう即答し、3人が苦笑いしながらそれに続く。
「あたしも、水がほしいかな」
「アライさんもなのだ」
「わたしも~」
皆の言葉に「わかったわ」と、トキが水を探しに行こうとした時、後ろからミライがやって来た。
「それじゃあ、トキさん。あっちのバスに積んだままにしてありますので、取りに行くのてつだっていただけますか?」
トキはミライの言葉に頷き、二人は並んで本部棟に横付けされたバスの運転席へと向かった。
空はいつの間にか明るみを帯びており、東の空が朝焼けに赤く色付いていた。
夜が幕を引き、鮮やかに色付き始めた世界の中で、戦闘の爪痕を残した石畳の地面がやけに黒く感じられる。
二人がミライの荷物からありったけの水筒を漁り出して、サーバル達の所へ戻ろうと歩いていると、そこへ一人の人影が走って近付いてきた。
「ミライ君! 無事か?!」
「え、園長!」
半壊した本部棟の玄関からこちらへ走ってきた作業着姿の小太りな男。それはこのジャパリパークの園長だった。
「園長。申し訳ありませんが、今はあの子達に早く水を届けてあげたいので、歩きながらお話しても?」
二人と並んで歩きながらセルリアンとの戦闘の詳細と、セントラルパークから遠く離れたさばんなちほーに居るはずのサーバルやカラカルが何故こんな所にいるのかの説明を受けた園長は「そうか……」と呟き、目の前のけもの達をゆっくりと見回した。
サーバル達は、ミライから水筒を受け取り、慣れない飲み方に戸惑いながら水を飲んでいる。
彼は、そんな彼女達を見回して言葉を漏らした。
「あれを、この子達がやったのか……」
野生の力とは、フレンズの力とは計り知れないものだ。と、園長は言う。
突如として現れたセルリアンの大群。
前例のない超大型セルリアンの出現。
パークに残る職員の危険要素は、この一晩で大きく増えた。
建物に侵入した複数のセルリアンとの戦いで、セルリアン対策班には大きな損害がでている。
現状、不足した人員の補填は難しいだろう。
「ミライ君。キミには、本当に申し訳ないが……。パークに残ってはくれないか?」
フレンズ達の個々の特性を理解し、統率する力を、そして何より、会議室で語ったけもの達とパークへの熱い想いを買っての言葉だった。
その言葉にミライは優しく、しかし力強い笑顔を浮かべてこう答えた。
「端からそのつもりです。パークの事、フレンズ達の事。私にお任せください!」
そこへ、──────
「アライさんもいるのだ!!」
元気を取り戻したアライグマが言い。
その声に振り返ったミライの視線の先には、屈託ないアライグマの笑顔があった。
さらに見渡せば、フレンズ皆の笑顔が飛び込んで来る。
「はい! もちろん! 皆さんも一緒です!!」
朝日が射し込むセントラルパークに6つの笑い声が響く。
ミライ率いるフレンズ達の冒険が、ここから始まった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます