黄金虫

 木の上で、黄金虫こがねむしは仲間と楽しく騒いでいた。

「そういえば、この間、お前が連れてきた生き物は、変だったな!」

 仲間の一匹が言う。

「ああ、あんなみにくい奴、初めて見た!」

 他の仲間も同意し、言われた黄金虫は笑って答えた。

「だろ? 面白がってもらえると思ったんだよ!」

 ――いや、本当は違う。

 小川を流れるはすの葉の上にいた、小さな娘を、初めて見たとき。

 可愛い、と思ったのだ。

 こんなに可愛い、珍しい娘をみんなに見せたら、羨ましがられるに違いない、と。

 しかし、娘を見た仲間たちは、口々に言った。

 ――足が二本しかないのは変。

 ――触角がないのは変。

 ――身体が細いのは変。

 ――自分たちと同じ姿をしていないものは、変。

 みにくい、みにくい、とはやし立てるのを聞いているうちに、だんだん、自分の感覚が信じられなくなってきた。

 何より。

 この娘を可愛いと思った、ということを仲間に知られたら、自分まで変だと思われてしまうのではないか?

 そう考えると、急に腹が立ってきて、乱暴に娘をつかんで木から飛び立った。適当に、そこらの雛菊ひなぎくの花に娘を下ろし、「お前なんか可愛くない!」と言い捨てる。めそめそ泣いていたようだが、どうでもいい。木の上に帰ったときにはもう、黄金虫は、娘がどんな顔だったのかも忘れてしまった。

「また何か面白いもの探してこいよ。期待してるぜ!」

「任せとけ!」

 黄金虫は明るく言う。次こそ、みんなに羨ましがられるものを、見つけてくるのだ。

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