キュウリ

 まったく、厄介な話だぜ。念のために言っておくが、おれはなんも悪いことしてねえ。ただ運が悪かっただけだ。

「出てこい、人殺し!そこにいるのは分かってんだぞ」

 家のドアに赤青のバールが刺さる。おれは急いで窓から飛び降りた。

「いたぞ!」

 ドアを破ろうとしていた一人が気づき、群衆がおれを追いかける。路地を縫うようにして、おれは逃げる。

 世間では、どうやらおれはこの間の爆破テロの容疑者であり指名手配犯らしかった。怒り狂った国民を相手に自身の無実を主張するのは不可能だった。今は知り合いの家を転輾てんてんとしている。

 おれはなんとか追手を巻いた。今から実家に向かうのだ、と友人に車を借りて、一般道を南下する。久々に見た故郷の山は、山肌が剥き出しになっていた。

「おかえり、大変そうね」

 母は少し老けたようだが、雰囲気は変わっちゃいない。

「怪しいの、来んかったか?」

「あ……いや、そんなことなかった、と思う」

 少し言い淀んだのが気にかかった。

「あっ、そうだ」

 母は立ち上がるとせかせかと台所の方へ歩く。床は少し傷んでいた。

 やがて、母がダンボールを持って戻ってきた。

「これ、キュウリがぎょうさん採れたんよ。お腹すいてんやろ?お食べ。私は夕飯買いに行く」

 ダンボールの箱にはマジックで「キューリ」と書かれてあった。そう言えば昨晩から何も飲み食いしてないや。ありがてえなあ。おれは迷いなく箱を開いた。

 その刹那、鉄パイプ爆弾が炸裂した。

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