ふしぎ編

かくのごとし

「『A子がB子を殴ると、B子は勘違いしてC子を殴った』という状況を設定する」

 教授は広い黒板に三点を打ち、その近くにそれぞれA、B、Cと書いた。

 教授曰く「ここでC子はA子を殴ると事態は丸く収まる。なぜなら3点A、B、CにおいてAB→+BC→+CA→=0→(ただし、ここで「AB→」とは点Aを始点、点Bを終点とするベクトルを指す)が成立するからだ」

 数学に無頓着な学生たちはとりあえず拍手をする。しかしある学生が待ったをかけた。

「教授、その論には誤りがあります。是非反証させてください」

「いいだろう。ようし、やってみろ」

 すると学生はズカズカと教壇に近づき、最前列にいた学部長をポカリと殴った。当然学部長は怒る。

「何をするんだ君!」

「申し訳ありません学部長。しかしぼくは教授に指図されたのでどうしようもなかったのです。教授の言った『ヨー シヤ テミロ』というのはぼくたちの方言で『あいつをポカリしろ』という意味なのです」

「デタラメを言うな」

と教授は学生をポカリしたが、学部長は彼の言葉を信じ、

「なるほど。教授の差し金か。しかも責任を押し付けて学生を殴るとは、もはや許せん」

と教授をポカリした。

 さて、A=教授、B=学生、C=学部長であるならば、教授の論が正しければ丸く収まるはずである。ところが三人は頭に血が上り本気の殴り合いを始め、教室はパニックになった。

 かくのごとく、反証に成功した。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る