生き恥

 ああ、どうしよう。ここで止めるべきだろうか。いや、止めるべきなんだろう。しかし、やるしかないんだ。


 鉄棒の要領で、私はベランダの手すりに乗り上げる。

(ヒッ!)

 途端、声にならない悲鳴が胸を切り裂く。私は手すりからくずれ落ちた。なんだこれ、予想より遥かに怖い。

おでこには冷汗が流れている。動悸は早い。

(しかし、ここで引くわけにはいかない)

 そう、私は前に進む必要があるんだ。バカだと思われるかもしれない、それでもやるしかない。でないと、いつまでも苦しい位置に停滞しないといけなくなる。だから一歩踏み出さないとならない。

(よしっ)

 理性は私を元気づけた。「思考」が、今日ばかりは激励してくれた。今から死にゆく私への、最大の激励を。

 手汗を拭き取り、私は再度手すりに乗り上げる。片手を離す。7時ジャスト。朝練のある高校生が登校し始める頃だ。下を見て少しギョッとするが、今回はこらえられた。


 君が近づいて来たのが見えた。いよいよだ。私は

「オハヨーーー!」

と手を振った。

 ああ、恥ずかしい!わたし史上もっとも恥ずかしい!顔が熱くなるのを感じる。死ぬ!それでも懸命に君の方を見つめる。君は驚いたのか、軽く「おう」と応えた。

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