痴呆自治

 長老達の会議は基本的に閉鎖空間で行われ、誰であろうと会議中の入室は許されない。破ると打首うちくびである。これは機密漏洩を阻止するためであるが、長老達の保身のためでもある。

 今日も会議が開かれた。

「おぉ、これはこれは八尾さん、久しぶりやなあ」「ほんまやで、小向はん。いつ以来やろか」「高校卒業してから、それきりやがな。もう九十年くらい前ちゃうか」「そりゃおかしいわ小向はん、わいら先週米寿の祝いにしゃぶしゃぶ食うたばっかやないか」「ごめんください」「おやおや、御手洗さんじゃないですか。いや、いつになってもおキレイですな」「やだ、小向さんたら」「小向はん、なんで御手洗はんに対しては若干ていねい言葉なんやの?いやはや、それにしてもおキレイ」「八尾さんまでそんな」「な、何言うてますの八尾さん!そんなわけないやろ!」「なにをキレてはんのや。『ありのまま』を言うたまでやないか」「なんやとコラ」「やんのかワレ」小向長老と八尾長老は途端に怒り心頭に発し、互いに胸ぐらを掴みあった。

「やめてくださいよ二人とも」

 仲裁に入った御手洗女長老だが、激昂した二人にはね飛ばされよろよろとコケるとそのまま固まってしまった。

「あ、御手洗はん死んでもうたで」「お前のせいやこのドアホ!」手を解き、小向長老は灰皿を、八尾長老は流木を握ると、二人は満腔の力を込めて互いの頭蓋骨を殴った。二人は脳震盪のうしんとうをおこして動かなくなった。


 二週間前から会議室から腐敗臭がするが、誰も開けようとしなかった。打首になるからである。

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