第5話子供さらいの老人ホーム
反射した太陽、木々の会話、無断駐車、枯れていく日々の中で長袖の少年と少女
とその親達があくびを抑えて高い空から投写された白い残景の雲を、夕凪の道が帰り道で、高い高いも私は知らなくて、ただただ夜を恐れてスーパーに立ち寄る子連れの主婦達。そして歩く道。そこに何にも残さないでまた足跡隠して老人と挨拶をすることについて拒絶。だから夕飯はハンバーグをほうばる。サラダを嫌がる。テレビが盛り上がる。子供が眠くなる、お風呂の中で数を数える。両親が念仏を唱える。夜が帳を閉める。
老人の背中には偽りがなくて、前には死しかない。背中の偽りにスプレーでニヒルなタグをつける。彼の背中には「MASASHI」とタギングしてあった。彼の名前はまさしなのだった。まさしは戦時中疎開して難を逃れた80代の男だ。彼は意思が希薄で心神喪失していて、過去のことを忘れてホームで静かに息をひきとる一人の老人だったのだが、今彼はまさにアヤワスカの濾過されたスプレーを背中にタギングすることによって、ある種の身体的、或いは肉体的全能感を取り戻し、眼前に迫った死を前に、鉄パイプ一本で喉元まで迫った暴力衝動と、解消され続けなかった性衝動を血中濃度と血管のはち切れる衝動を、今しがた待ち、彼はT亭に侵入し男と女を殺し子供を犯して自殺することを、まっすぐぶれない姿勢でただ虫取に夢中な子供のころのような、あの無垢な心を老年の今、満たされ続けなかった性衝動という形で投影しスクリーンにはスマイルと紅茶の香りのする部屋に、日本酒で洗った精子と血の匂いで齢80を越えようという老体の愚息は極限まで隆起していた。入れ歯をスプレーで洗った。
窓ガラスの割れる音、まさしの怒鳴り声。テーブルを投げ倒し奇声をあげる。
日蓮宗のお経をあげる。フルスイングで出会い頭の父親の頬にパイプを当てる。脳天に鉄パイプを押し当て、ヒクヒクと意識がない彼を目に台所の包丁で、背中を何回も刺す。母親と子供の悲鳴、一目散。首が左に曲がり首の折れた男背中。を10秒ほど眺めて、ベルトを解いて逸物を取り出し仏の男のケツにぶつける。呼吸が乱れ、日焼けは朝焼けとアサルトライフルで国会議事堂を乗っ取り、発射した後、まさしは男の背中の上で事切れた。
スプレーが六本木付近で売られているらしい、県警も動いている。だが大元が外国マフィアのフィクサーで、なかなか近寄れない面もあり、気がつけば、スプレーの内部成分は非常に、俗にいうケミカルなタイプが、宇田川付近でパチモノのとして売られており、歌舞伎町付近では、セックスハーブ、などの純度の高いものとしてホームを抜け出した老人を含め、様々な人種に売られており、混迷と迷推が都会を錯綜していた。
ここにまさしの入居していたホーム「あしたのゆり」の割られていたガラスの前に、長髪の髪の毛がぶち巻かれていたり、カラスの死骸、使用済みコンドームが園のドアにかけられている。人気はない。扉の鍵は空いていて、入っていくと死臭とたくさんの張り紙がある。
首元に刺す。耳に針を通す。頬に振りかぶる。
そして散乱する職員室の机には無数の鉄パイプ。断りもなく作業服姿の男達が老人達に鉄パイプを渡す。食事には純度100%のアヤワスカにタミフルなどが混ぜられた食事が配られる。職員は黙って老人達に流動食を食べさせる。どこからの部屋から悲鳴か奇声かよくわからない叫び声が聞こえる。老人達の研ぎ澄まされた感覚。耳元で般若が経を唱えるような、心地いい高揚感。個室で落語のテープでストーンする老人。風を切る音が聞こえる。その音は個室から聞こえる。慈悲を願う声は遠ざかり、ただただ謙虚さの欠けた叫び声が、ある老人の耳鳴りでやまない。静寂を知らない。
黒スーツの男。欲望を教える男、任侠で生きる男。シャブを売る男。スプレーをホームに送る男。毎日毎日、もう落ち葉も黄色くなる季節だが、彼は毎日施設を訪ねる。息吹と飛沫のひき立てたビリの入来。彼は入来という。入来は二階窓が割られていく様を眺めていた。ガラスの割れる音。聞こえる般若心経。叫び声。腐った死体と化した女性職員の膣を触る老人。ラジカセから聞こえる炭坑節。
入来は笑った。彼は愉快で仕方なかった。入来の引きつったような笑顔が遠くで鳴っている。残響の聞こえぬほどに老人達の叫び声が反芻した。ただ遠くで騒いでいる子供達の笑顔と母親の会話が、遠のいてガス切れのジッポライターと、煙に全て消えていった。
砂を噛む海を編む時計に逆らう とうぺまぺと @mapeto
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