第2話明日は悪夢本日廻る

時計の針が午前3時30分を過ぎた。未だ眠りとは無縁、ただ知っているこの黒点と幻視をただ思い出しては朝を待つのみ。大酒飲みの海原で降られた雨に時を重ねて、甘い唾液を箸ですくう。もうこの無様な私のことを誰一人知らない。私が無様だということを私の頭の中で、そう認識しているだけで誰も知らない。針が木に触れる君にプレゼントをあげる、でも何もかも捨ててしまう。そうやって身体を売る代わりに大切なものを一つ一つ失っていく過程を体感していくのは、誠の「生」なのだろうか?

君が染みついた意味が秘密に近づいた時がいうことを聞かず暴れては泣いた。また私と再会するまで私は私を遠巻きに眺めるに過ぎない、深夜の滑稽で孤独で太った娼婦の情を捨てたあの感覚が、俺だけか俺だけか、と赤子の泣き声のように反芻するのだった。


時刻は4時オルガンが溶けるまでオルガンを弾いた。そうやって私は孤独と戦ってきた。疲弊した侍の仮眠すら編めない少女の不器用さを此処で知った。オルゴールって素敵だな。夢二の女のようにいう。


パターンだ!そうパターン。一定の法則。それを知れば迷宮もパズルも同じなのかも知れない。どんどん仏とは喉仏の尊さを知らない、芸を知らない無粋な聖人だなぁと思えてくる。

その時部屋の外では瑠璃の飴細工がテキ屋で売られていて桜は相変わらず、人々の精気を求めて狂うように風と愛し合っていた。川は窓際の社員の上半身だけを並べて水位を高くしようとしていた。私はそれに対して誠に卑怯である、故にその事象の滑稽さを知ろうと思った。橋はただ橋であって私にとってそれ以外のなんでもない。あれは橋だ。橋が死のうが生きようが、糞を喰おうが喰わされようが、犬に噛まれて病気持ちになろうが、口を両手で裂かれて悲鳴もあげられないほど無残だろうが、むしろ彼らが痛めつけられるのがワイドショーから流れてくる事象のように思えてくるのだった。


4時50分「人間は動物である」アインシュタインの寝言が聞こえた。


冴えている五感、女だったら孕んでいるような恐怖感。暗跳の登頂。膨張する二酸化炭素。吸い過ぎた二酸化炭素。エアコンの音、左回りの時計。鳩の鳴く声、ゴミ捨て袋のようなたくさんの汚物を私は吸う。肉片を頬すりして赤くなる部屋。鳥の鳴き声だ。もうすでにあたりは明るく、花は萎れ陰鬱は引き裂かれブルドッグの足が置き捨てられた交差点で車がそれを踏んづけた。もう君は眠りたい。だけど駅から始発がやってくる始発に乗って死の境界線で丸くて太い針を口に入れ舐める。愛撫する。

極限の緊張感が俺の快感を投げたサイコロと反芻するストリングスのアルペジオに乗せて、下品なクラシックの例の仰々しい過剰装飾とバーレスクが女の奪い合いで銃を使って踊り出す日曜日。君はもう繭の中で縛った女に優しい言葉をかけてその女の笑顔に苛立つ。さあもうどうにもいかない、死ぬとは隆起したペニスをその女の膣にぶち込んで、女と一緒にイくことだから。それは愛だよ。君の心の中に確かに存在する人間らしさでいじらしさ、さあ忘れよう。思い出さずにはいられない全てを、緊張を、殺意も、全ての陰鬱のために恋の時計を戻してもう一度。君に朝は似合わない。

そんな雨の日も海は波を。編み出した、神の存在を。そんな棒読みの女を許すことはないだろう。そうやって君は精神世界の輪郭を少しずつ認識していくであろうな。

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