怪物との邂逅

「隊長…くまさん、くまさんは大丈夫かにゃ」

「……あず、付いて来るなら無駄口叩くな」

不安がるあずを隊長は叱る。

あずが部屋に駆け付けてから2、3分で校舎を離れた隊長とあずはひたすらに通りを駆け抜ける。一刻も早く、くまの所へと。

状況がすぐに呑み込めなかったアルトリアは遅れて出た為か2人よりも遠くを走っていた。

「は…早くね…!?」

これが上層部とヒラの差か、と愚痴を零しながら速度が一向に落ちない2人の背中を負う。

ふと、前を走っていた2人が立ち止まる。現場に着いたのかと思い更に速度を上げる。これ以上、遅れるわけにはいかないと気合を入れて。

「――」

「――」

2人が一言二言言葉を交わしたのを確認した直後。

「アル!」

隊長がアルトリアの名を呼ぶ。何とか間に合った、と安堵の息をつく。

「あずを任せた」

アルトリアはその一言で全てを察した。いや、察せざるを得なかったのだ。

副隊長が怪物へと文字通り変形し、上層部の1人であるあずが怪我を負う程の力。視界に入れるだけでも竦んでしまうような殺気。現に今、気を抜けばその場に座り込んでしまいそうになる。こんなモノなど相手にできる筈がない。

――だが。

「分かりました」

隊長だけが、あの怪物に打ち勝てる唯一の存在であることをアルトリアは分かっていた。だからこそ、こうして殺気に押し潰されないでいられるのだ。

「必ず、2人で帰ってくるから」

素性も人格もいまいち掴めない人ではあるが、この人なら、必ずそうしてくれるだろうという根拠の無い確信が胸中を満たしていく。

「では…どうか、ご無事で」

故に、託す。

例えこの一件でどちらかが、或いは二人が居なくなったとしても、隊長の意思を、叛闘高校を受け継ぐ為に。副隊長を、取り戻す為に。

(プリンもアイスも用意しておきますから――)

今ここで出来ること。それは隊長と副隊長の居場所を、自分達の居場所を守ることに他ならない。

(――必ず2人で、帰ってきてください)

地面を蹴り出し、あずを連れて暗く昏い路地を駆け抜ける。

面影の若干残る怪物に、副隊長くまの姿を重ねながら。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

叛闘高校 〜アルトリア・エスケープ〜 @A1tri4

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

フォローしてこの作品の続きを読もう

この小説のおすすめレビューを見る