とある一家の日常風景

九鬼 和音

彼らはどこへ行ったのか。

「よし! 今日はお父さんが何か食べ物を持ってきてやるからな! みんな期待してろよ!」


そう言って1年経った今もお父さんは帰ってきていない。

周りの皆は、撲殺されただの毒殺されただの囁いていたけど私のお父さんはそんなに弱くない。

1度殴られたくらいじゃ屁でもないし、毒なんてもう効かない。

だから、まだどこかで私達のために食べ物を探してくれているはずだ。


「よし、綺麗になったわ。今日はお母さんがご飯を持ってきてあげるから、お腹を空かせて待っててね」


「ちゃんと帰ってきてくれるよね? お父さんみたいに帰ってこなくなったりしないよね?」


「大丈夫よ! 今何時だと思ってるの? こんな時間に出歩く人なんてそうそういないわ」


「それならいいんだけど……」


私は母を見送ると少しだけ眠ることにした。


次の日の朝、母は戻ってきたがどうやら何もなかったようで手ぶらで帰ってきた。


「ごめんね、今日は何もなかったの」


「大丈夫、お母さんが無事ならそれに越したことはないよ。それにしても、今日は静かだね。誰もいないみたい」


「ほんとね。もう、出勤する人とか通学する人がいてもおかしくないはずの時間なんだけどね」


「少し様子を見て来るわ。ここからでちゃだめよ?」


「うん、気をつけてね」


そう言うと母はまた出かけていった。



*****



おかしいわね。

いつもなら閉め切ってあるところがこんなに開いてるなんて……。

なにか嫌な予感がするわ。

それにしても本当に誰もいないみたい。

気配も感じない。

あら? あれは何かしら?

噴水、ってわけでもなさそうね。

噴水なら水が出ているはずよね。

あれは、霧が出ているのかしら。

こんな広場の真ん中にあんなものはなかったはずだけれど。

ん? 霧を吹き出してる機械に何か書いてあるわ。

読めない字があちらこちらに書いてあるけど何かしら?

あ、この絵、私にそっくり……。

でも、なんで私の絵がこの機械に描いてあるのかしら。

それに、何かしら。

私に似た絵の胸のところに花、みたいなマークが……っ!?

これは!!

早く帰ってみんなに知らせないと!



*****



あ、お母さんが帰って来た。

しかも、すごい形相で走って来た!


「みんな! 荷物をまとめて! はやく! 広場に大量殺戮兵器が置いてあったわ! しかも、もう起動してるの! 早く!」


「え、大量殺戮兵器? ……っ!?それってお婆ちゃんが言ってた毒ガスの兵器のこと!?」


「ええ! 文字が読めなかったから何かは分からなかったけど形状はお婆ちゃんに聞いた通りの形だったわ!

だから早く逃げる準備をしなさい!」


「う、うん! わかった!」


わたしが荷物をまとめ始めると、お母さんは近所の人たちにも避難を促している。

すると、私たちの中で最も頭の良い奴が何やら準備を始めていた。


「ちょ、ちょっと、何してるのよ! 早く逃げないと!」


「大丈夫! 少し飛んで殺戮兵器の様子を見に行くだけだから!」


彼はそう言って飛び立ってしまった。

お婆ちゃんの話では、あの兵器から逃れる術は霧の届かない場所に行くしかないらしい。

飛んだとしてもあの霧からは逃げられないだろう。

きっとあいつは途中で力尽きて墜落する。

そんなことを考えていると、少し息が吸いづらくなって来た。


「げほっげほっ! お、お母さん! もうここまで霧が来てるみたい! 早く逃げないと--」


「あなたは先に行きなさい! 私にはまだやる事があるから」


「そんなこと言ってると死んじゃうよ! 早く!」


「いいの! お母さんが頑張って時間を稼ぐからあなたはあの霧が届かないどこか遠くへ逃げて! 絶対に振り向いてはだめよ」


「でもッ……うん、わかったよ、お母さん。先に行ってるよ! お母さんもちゃんと後から来てね! 絶対だよ! それと、私を産んでくれてありがとう!」


「ふふっ、いい子に育ったわね。 さて、これからが正念場よ、私。 絶対に霧をあの子に近づけさせない!」



*****



それから数時間後。


「うっわ、めっちゃ死んでんじゃん。きもっ!」


「ちょっと、お父さん! これトイレに流して来て!」


「えぇ? 俺が? 嫌だよ。触った瞬間動いたら嫌じゃん」


「て言うかさぁ、これめっちゃすごくない? バルサン」


「「それな」」



Fin

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