Ⅳ-3 廊下の密談

「で、お前はどこまで知っている?」

 チャールズの部屋を出たウィリアムは、その部屋のドアを静かに閉めた白雪を見据え、静かに告げる。不思議そうな視線を白雪へと投げるアレクサンドルとその問いを投げかけたウィリアムからの視線をその身に受けた白雪は「何のことですか」と白々しく疑問で投げる。「そういうのはいい、お前が日本支部からのネズミなのはもう分かっている」至極面倒臭げにウィリアムが言葉を返せば白雪は溜息と共に「いつからですか」と問う。「機動隊に来た時からだ」と事もなげに答えた彼の言葉に「最初からじゃないですか」と白雪は苦笑と共に自身の後頭部を軽く撫でた。「だからルイに付けた。勤務態度は申し分なかったから存分に使わせてもらった。それに、去年辺りからこちら側に肩入れしてたようだしな」ウィリアムの言葉に「喜べばいいのか、悲しめばいいのか分からないですね」とだけ返した白雪にウィリアムは口端だけを上げた笑みを浮かべ、口を開く。「喜んでおけ、ネズミのままだったらお前は今頃失業してる」そんなウィリアムの言葉に一度だけ深い溜息を吐いた白雪は「今回の件については、俺にまで情報は入って来てないです。元々下っ端ですし」と自嘲するような笑みを見せ、言葉を返す。

「あそこは血統主義ですからね。俺は一般入局のヒラですし、こちらへの異動が決まった時に上から呼び出されて指示を受けてただけなので」

 重ねられた言葉にウィリアムは小さく呻くような声を上げ、事態を把握しきれていないアレクサンドルだけが困惑した声色で「ちょっと待って、状況が飲み込めないのは僕だけ?」と声を上げる。そんな困惑の色を隠せないアレクサンドルの言葉に白雪が口を開く。「日本支部の上層部は概念外生物管理局からの離反を考えてるんです、元々別の組織を戦後に取り込んだっていうのもあって。で、俺はその日本支部のヒラ局員で本部の情報を日本支部に流すように指示を受けてました。最近は支部とも距離をとってましたけどね」白雪の言葉に頷いたアレクサンドルは「でも、それとルイとチャールズの今回の事に何の関連が?」と首を傾げる。

「センパイの体質に目を付けたんだと思いますよ。概念外生物に連なる家系のセンパイを使って何をやろうとしているのかは分かりませんが」

 白雪がそう言葉を返せば、ウィリアムは深い溜息と共に「本当に知らないんだな」と低く呟く。「隊長は何を知っているんですか」探るような声で、白雪は訳知り顔のウィリアムへと言葉を投げる。


 白雪の怪訝な視線と疑問に溢れるアレクサンドルの視線を受けたウィリアムは「少し昔話をしよう」とリビングへと向かうべく、その足を踏み出した。

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