Ⅰ-3 作戦会議 - 1
ルイ・シーグローヴはその夜、ジルヴェスター・ハイデルベルクを伴いかつて彼が暮らしていた家へと久々に足を踏み入れた。マンハッタンから二十マイル程離れた場所にその家はある。家主である隊長の運転で一時間程掛けその場所へと到達した。
「ルイさん! ジルヴェスターさんも、お久しぶりです」
彼らを迎え入れたのはチャールズである。「久しぶりだな、あれ以来か」静かに告げたルイにチャールズは整った顔に笑みを浮かべ一括りにした長いシルバープラチナの長い髪を揺らす。細められた金色の瞳は二人を捉え、ルイとジルヴェスターもそれぞれの紅と碧の瞳を笑みの形に細めた。
「元気そうだね、隊長の家は暮らしやすそうだ」
ジルヴェスターはそう言ってからりと笑い、後ろから投げられた「雑談はここまでだ」という隊長の声でチャールズを含めた四人はリビングへと足を進めたのだ。
「日本ですか?」
チャールズがきょとんとして声を上げ、その言葉に対して隊長が「そうだ」と頷く。「俺とジルが査察で行く事になってな」とルイが告げれば成程、とチャールズが頷く。「僕とルイさんが距離を離れても大丈夫かっていう話ですよね?」とチャールズが首を傾げつつも隊長へと訊ねる。そんなチャールズの疑問に彼は静かに頷く。
「遠い距離を離れるのが問題であれば一緒に渡航する手筈を整えないといけないだろう?」
隊長の言葉に「それは大丈夫だと思いますよ」と静かにジルヴェスターは口を開く。「確かにルイとチャールズは互いに互いの要素を持っている状態ですけど、個体としては完全に独立してますから。ただ、どうしてもルイ側に依存してる所があるので……万が一でも考えたくはないですが、ルイが死ぬような事があればチャールズも同様に死ぬでしょうね」一気にそう告げたジルヴェスターにチャールズは「って言っても僕はもう死んでますけど」と笑う。チャールズだけがからりと笑うその空間で「要はルイが死ななきゃ距離が離れても問題無しってコト」とジルヴェスターが結論を口にする。
「そう言えば、僕が何らかの事態でまた死んだらルイさんはどうなるんです?」
はた、と気付いたようにチャールズがジルヴェスターへ疑問を投げれば「多分それでルイが道連れになる事は無いよ」と彼は軽い調子で答える。「元々母体はルイだから、多分何かの感応を起こす事はあるかも知れないけど、それでルイが死ぬことはない」続けられたジルヴェスターの言葉にチャールズは安心したように笑みを浮かべる。そんな言葉が交わされる中で「査察で死んだって話は聞かないが」とルイが呆れたように少しだけ口元を緩め「チャールズ、お前はルイに感化でもされたのか」と隊長はため息交じりに言葉を零す。そんな義親子の言葉にジルヴェスターとチャールズは「やだな、可能性の話だよ」「そうですよ、それに僕は一度死んでますからね」とそれぞれが笑いながら口々に言葉を放つのだ。
「ハイデルベルク、少し話がある」
チャールズの冗談に聞こえない冗談でひとしきり笑ったジルヴェスターへ、隊長は声を投げる。仏頂面を崩さずジルヴェスターを呼んだ隊長に、指名を受けた彼は「え、説教か何かですか」と間髪入れずに言葉を返す。「そうじゃない。とにかく来い」一段と低い声で重ねられた言葉にわざとらしい溜息を漏らし、ジルヴェスターは席を立った隊長に倣いソファからその腰を上げた。
「ルイ、今夜は泊まっていきなさい。これからマンハッタンに戻るのも面倒だろう、お前の部屋は掃除してある」
隊長がルイへと投げた言葉に「掃除したのは僕ですけどね」とチャールズが笑う。「ゲストルームも掃除してあるので、ジルヴェスターさんも泊まるでしょう?」
重ねられたチャールズの言葉に「話が終わった後、私が案内する」と隊長が言い切りジルヴェスターを連れリビングルームを後にした。
「ハウスキーパーでもやってるのか」
「家に一人で居てもつまらないので家事は僕がやるようにしているんですよ」
ルイの言葉にチャールズはそう答えながら笑みを浮かべる。そんなチャールズの言葉に「でも、楽しそうにやっていてよかった」とルイは小さく呟く。「俺の特異体質みたいなもののせいで、きみが辛い思いをしていなくて――恨まれているかもしれないと、思っていたから」彼の呟くような言葉に首を傾げたチャールズは懺悔するように吐き出されたルイの言葉に「そんな事気にしないでくださいよ」と彼を安心させるように優しげな笑みを浮かべる。
「さっきも話してた通り、僕は一度死んでしまっている。それがあなたとの出会いでこうしてまた生活しているし、突然の別れになってしまう筈だった両親ともあなたの身体を借りてちゃんと話す事が出来ました。感謝こそすれ恨むなんて事はありませんよ」
そう言って笑みを深めるチャールズに「これじゃぁどちらが年上か分からないな」とルイが小さく笑った。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます