Ⅰ-4 作戦会議 - 2

「――で、話って何です」


 家主の書斎へと連れられたジルヴェスターは書斎のドアが閉まると同時に口を開く。彼は先ほどまでのリビングで見せていた笑みを消し去り、棘のある声色でこの家の主である特別機動隊隊長ウィリアム・シーグローヴへと向かい合う。「座る位の可愛げは見せろ」自身が腰を下ろした一人掛けソファの向かいに置かれたソファを示しながら隊長はため息交じりにジルヴェスターへと言葉を返した。「元々俺はあんたを信用してないのは知っているでしょう」面倒くさげな声色を隠さず横柄な態度でソファに腰を下ろしたジルヴェスターに「それは知っている」と事も無げに隊長は小さく笑う。「元々俺に話があったんでしょう、ルイとチャールズの事であれば局内でも事足りた筈です」ジルヴェスターは硬質な声色を崩すことなくピシャリと告げる。「家まで連れて来るなんて、面倒事を任される気しかしませんね」と重ねながら。

「面倒事、か。確かにそうかも知れん」

 喉だけで笑う隊長にジルヴェスターは怪訝な表情を浮かべる。

「こうして家まで呼んだのは、局内だと何処に漏れるか分からんからだ――まぁ、チャールズとルイを久々に会わせたいというのもあったがな」

 隊長の言葉に「日本査察で何か起こると?」とジルヴェスターは小さな声をポツリと零す。

「そうだ。だから、ルイの同行者にお前を選んだ」

 はっきりとそう言い切った隊長は言葉を探すように視線を彷徨わせたジルヴェスターを気にすることもせず言葉を重ねる。


「日本支部はルイを取り込もうと考えている。彼らの『』の為に」

 そう告げる隊長の強い光を孕んだ視線はジルヴェスターへと注がれ、彼は「どういう事です」と短い言葉を彼の前に座る隊長へと投げるのだ。ジルヴェスターの疑問に小さく息を吐いた隊長は何かを決意したように口を開く。「アレは、ルイは。管理局が日本に手入れする前からあの国に存在していた祓魔師ふつまし協会で代々絶大な権力を持っていた術師の末裔だ」それは、彼がルイとその妹であるルカを引き取ってから今まで誰にも伝える事なくその心の内に秘めていたものであった。「日本支部全体の動きではないが、どうもあの支部は局から離反しようとしている節がある。以前からあった動きだが、それが加速化したようでな」そう続けた隊長の言葉に「そこにルイを指名して査察の受け入れを許可する話が出たってワケですか」とジルヴェスターは納得したように頷いた。彼の呟くように零された言葉に「理解が早くて助かる」と告げる隊長へジルヴェスターは噛みつくように言葉を重ねる。

「っていうか、ルイはそれを知ってるんですか」

「言う必要はない」

 ジルヴェスターの言葉を一言で切り捨てた隊長へと彼は吐き捨てるようにその言葉を口にする。「過保護も極まれりだな」取り繕う事もかなぐり捨てはっきりとそう言い放ったジルヴェスターに隊長は「約束したからな」とポツリと零すように言葉を返した。隊長のその言葉に首を傾げたジルヴェスターへ、彼は「こちらの話だ」とだけ告げる。

「だが、お前に頼むしかない。あの場所でうまく立ち回れるのは、ハイデルベルクの魔術師と呼ばれるお前位なものだろう?」

「アンタがルイの養父じゃなくて、俺が局員の身分を持ってなかったら、三回は死んでたところだよ」

 尊大な表情を浮かべて笑う隊長の言葉に舌を打ったジルヴェスターは挑戦的な視線を彼へと投げながら言葉を投げる。「アンタの頼みは任された。でも、それはアンタの為じゃない。ルイを守るためだ。それだけは忘れるな」そう重ねられたジルヴェスターの言葉に隊長は頷き「結果としてルイが無事であればその他は些事だ」とその笑みを深めた。その言葉を最後にソファから腰を上げたジルヴェスターに「部屋に案内する」と隊長もその腰を上げ、言葉を重ねた。


「それから、日本支部ではナナオという男を頼れ。彼はだ」

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