第4話とりあえず戦いますか
「さっきは本当にありがとうね? ……でもこれは別。本気で行かせてもらうけど怨まないでね?」
「恨みませんよ。本気で来てください! 俺も本気で行きます!」
闘技場のワンルーム。
誰からも見られない貸切の石部屋にサキとクラミリアは剣を構えて向かい合っていた。
この部屋はクラミリアが、今回は誰からも見られないところで集中して戦いたい。と提案した為、今回の大会の実況者が私の仕事が無くなった! と泣きそうな顔をしていたが、流石は一流冒険者。そこら辺は融通を聞かせて貰ってこのような形になった。
ちなみに街であった後、サキが首にぶら下げているペンダントを見てクラミリアは目の色を変え、私の敵になるねよろしく! と満面の笑みを見せ、再び屋根に登ったクラミリアはそのままさっさと闘技場へ入っていった。
あ、たしかあの時。
「そういえば、闘技場に入った時職員の人に怒られてましたよね」
「ひっ! みみみみみみ見てたの!?……ううう。ちょっとカッコつけて立ち去っただけあって恥ずかしい……」
モジモジしながら顔を赤くするクラミリアを見てサキは土下座を敢行していた――
「むむ! 何であなたが土下座してるのよ! 私が悪いことしたみたいじゃない!」
「いや、したんですよ実際。屋根から闘技場に入って不法侵入者として捕まるっていう大失態を」
「ひゃい! ……き……君意外とやり手だね」
「いやそんなキリッとした顔で言わないでください!」
何故か後半早口でキメるクラミリア。
なんだろうこの人。すごく仲良くなりたい。
もう既に憧れの人が哀れな人へと進化し始めているが、すぐにそれは退化させられた――
「はぁあ。面白いね君! そうだ、最後に名前聞こうかなー。珍しいよ? 私が名前を聞くなんて」
「え! こ、光栄です名前を覚えていただけるなんて! えっと、さ……チャキで――」
「バトル開始ッッッ!」
「時間ね、行くわよ!」
「……チクショー! 名前噛んだってうわぁ!」
なんというタイミングの悪いクラウチングスタートなのだろうか。
名前を言い終わる前に試合のコングがなり、司会者と観客の声が放送で流される。
てか、観客の人ってなんも見れてないのに楽しめてんのか?
そんな疑問をふと思うが、その答えを出す前に、クラミリアは己の拳をサキの頬めがけて高速で放った。
だが、それをたまたまと言っていいのか野生の勘というやつなのか、間一髪で回避する。
やべぇ。風圧で頬切れたぞおい。なんて強さだ。
かわされたことに驚いたクラミリアはふふっ、と笑い。
「やっぱり君は面白いね! ……ちょっと私も武器使っちゃおうかなー」
「……!」
この決闘のルールは至って簡単、リタイアをした方の勝ち。ちなみに、この部屋に唯一あるセンサーは魔力で動いているのだが、冒険者の体力を計算してラストの一撃が届く寸前で体を強制停止させられるようになっている。
そんなセンサーがビーーー。と鳴る中、太刀を抜刀したクラミリアにビビり、遠く離れたところまで後退するサキ。
不味い。このままじゃあっという間にやられちまう。俺の武器は短剣1本……どうしたら。
そんなに遠くまで行ったらダメだよぉ。と頬を膨らませながら近づいてくるクラミリア。怖い。
サキもとりあえず短剣を鞘から抜くが、腕と足がガタガタ震えていうことを聞かない。
思い出せ思い出せ! 俺は何冊の教科書を読んできたと思うんだ! 頭いいんだぞ俺は!
謎の自己暗示をかけながら、短剣を胸元まで上げる。
「やっと、戦う気になったかな? 今度は逃げないで戦かって……っね!」
「はや……!」
地を全力で踏み切ったクラミリアは、50mほどあった距離をあっという間に詰め、リーチを生かした最大の上段切りを繰り出してくる。
不味い!
本能的に、逃げろ! と回避の命令を出すが足が動かない。
間に合わない!
「ぐはっっぁ!」
体を中に浮かせ、全体重を乗せた上段切りが肩に付けていた
くっ、手加減された!
そもそも頭を狙っていれば一撃必殺。それをわざわざ肩へと逸らし、尚且つ
それでも、体重が乗っていたこともあり、風圧で壁の隅まで吹き飛ばされる。
石を砕いた背中には激痛が走り、血のようなドロっとしたものが喉から湧き上がる。
息ができねぇ……。
短剣だけはどうにか離さずにいるが、反撃の余地が無い。
すると、少しやりすぎちったかな。と不安の顔を浮かべながらゆっくり近付いてくるクラミリア。
「いいや……この位が丁度いいんですよ……やっとけじめが付けられますから……」
「けじめ?」
フラフラと立ち上がるナツに首を傾げるクラミリア。
だがしかし、この後クラミリアがリタイアを余儀なくされるなど両者とも分かるはずがなかった――
武器が【空白】の冒険者でも冒険は出来ますか? @ryurion
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