第3話まぐれと奇跡
――決闘場
この街のど真ん中にある巨大な決闘場。
この決闘場を知らないものはまずいない。
普段は捕まえてきたモンスターを倒す
演説に関しては他の所でやれという感じなのだが……。
とりあえずこのビックイベントを待ちわびている人も多いわけだ。
案の定今年も観客は多く、会場に向かうサキの足を止めていた。
「ちょ、すいませーん! 俺この決闘出るんですー!」
招待状が届いてから1週間。
あの後、防具屋に行って軽装の防具を揃えたサキは人の波に飲まれていた。
すると一人の男性がサキが首に下げているペンダントを見たのか、一緒に声を上げて、道を作ってくれた。
「おーい! みんなどけてやってくれー! この青年も出るんだとよー!」
「よっしゃぁ! みんなどけてやれ! この子が将来どえらい冒険者になるかもしれんぞ!」
「「おおおおおーー!!!」」
いや勝手に褒め称えるなよ。
「あはは、ありがとうございますー!」
「よし! 青年行ってこい!」
男性に力強く背中を押されたサキは、やる気に満ちた顔で闘技場の入口を目指した。
――その隣の道では。
「あー、はいはい! サインねー! あ? 握手? はいはい! 握手ー! ……え? 違う? 揉ませて? はいはい……いや! はいはいじゃないよ!」
白髪美少女、クラミリア・サキフェストも観客に圧倒されていた。
サインを求めるように色紙とペンを持つ獣人の男性や、是非ありとあらゆるモンスターを倒してきた素晴らしい手で握手を! と手を差し伸べるエルフの女性。それに紛れて揉もうとする変態じじぃもいるが、とりあえず有名人なのだ。
ちなみにクラミリアの武器は太刀。それに一番の狩技は
しかしそんな彼女にも苦手なものはある。
「クラミリアさーん! 握手ー!」
「やめてぇ! それ以上近寄らないで! 触らないで! 死んで! 消えて! 消滅して!」
――ヒューマンの男性が大っ嫌いなのだ。
その言葉を聞いて、え! と驚きの声をあげるヒューマンの男性を置き去りにし、クラミリアは恐ろしい跳躍力で家の屋根まで飛び、スタスタと走り去る。
その姿を見た周りの人は、あーあ、なんでヒューマンの男なんかが来たんだよ。クラミリアさんが嫌いなの有名だろ。と深い嘆息を握手を求めたヒューマンの男性にかける。
そのことを知ったヒューマンの男性はそんなぁ。としょぼんと項垂れながら去っていく。
その後ろ姿を遠巻きに見ていたクラミリアは、ごめんなさい。と心で謝り、一気に会場へ跳躍しようと――
「きゃっ!」
屋根の端から跳躍しようと足に力を入れた途端その部分は崩れ落ち、レンガの破片と共に真っ逆さまに落ちた。
その下には観客達がゾロゾロと上を見ずに歩いていく姿があった。……ただひとりの少年を除いて。
「みんな、そこをどけて下さい! クラミリアさんが落ちてくる!」
何!?と観客がざわめく中、サキは瞬時にクラミリアが落ちてくる場所を計算し場所を作る。
(あの子、やるねぇ。ふふ、後で礼を言わないと……げっ、ヒューマンの子かよぉ)
心の中でそんな事を思いながら、クラミリアは腰につけている太刀を抜刀し思いっきり地面に向かって振るった。
「誰だかよくわかんないけどありがとう! 少年!」
「青年です」
的確なツッコミをされふふ、と笑うクラミリア。
先ほどの抜刀により、地面から強烈な上昇気流が発生し、レンガなどは空へと飛んでいき、クラミリアもまたゆっくりと地面に着地した。
「ありがとう青年。君、私のファン?」
「ああああはい! はいはい! ファンです!?」
「ふふ、やっぱりね。じゃなきゃあんな的確な判断出来ないよ」
舌を出して心配かけてごめんなさい。と観客に謝ると、周りもまたうおおおおおおお! と盛り上がる。それがサキへと向けられているのかクラミリアに向けられているのかは分からないが、この時確かに分かった事は、勉強をした努力が無駄ではなかったということだ――
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