トーナメント戦開催 ジークドラグーン・マークⅦVSバストローラー
「で、また大会当日かーい!! ぶっつけ好きだなぁ、俺達はぁさぁ。もうなんだよぉ!!」
五月三日、埼玉県大会会場に、悠斗の雄叫びが木霊した。
結局作業は一日だけではまったく終わらず、悠斗は奈々実を自宅に泊めて二人でこの日の朝までぎりぎりの調整をしてようやくの完成である。
徹夜続きで既に奈々実は会場に着いた段階でグロッキー。
週末飲み明かしたらしい香苗はグロッキー。
焦燥と徹夜により心身を冒された悠斗もグロッキー。
元気なのはフル装備となったジークの最終調整をしている真理沙だけである。
「でも悠斗さんなら平気でしょう」
「俺の評価がいやに高いみたいだけど、そんなに腕良くないぜ?」
「私の見立てでは相当ですよ。全国ベスト四はまぐれじゃない。これほどの技術を持ちながら二十連敗とは機体がしょぼい以外に理由が思いつきません」
「悪かったな。脳みそはしょぼくて」
「そこまでは言っていませんが、自覚あったんですね」
悠斗は、言い返す言葉が出そうになったが唇を強く結んで静止した。
真理沙に口喧嘩で勝つのは、不可能であると身に染みているからだ。
「結城さん?」
突如聞き慣れない声が真理沙を呼んだ。
悠斗が声の主を見やると、そこに居たのは見覚えのある男だった。
織田正行。
アーマード・フェアーズ全国大会準優勝経験者にして、世界大会のトーナメントを三回戦まで勝ち上がった現役高校生。
全高校生アーマード・フェアーズ選手の憧れの存在。
そんな彼が今悠斗の前に立っているのだ。
思わぬ来客を尊敬の眼差しで見つめるも、彼が興味を抱く対象は悠斗ではない。
織田の足が真っ直ぐに目指したのは、ジークの整備を行っている真理沙であった。
「やっぱり結城さんだ。僕だよ。川北付属高校、フェアーズ部の」
「織田部長? あ、お久しぶりです」
「また会えてよかった」
にこやかに語りかける織田に、真理沙は、いつもの無表情で応対する。
悠斗は、二人の姿を見て、真理沙と出会ったころを思い出していた。
真理沙は、浦野宮学園に転校してくる以前、川北付属高校に通っており、そこで織田のスーツ造りを手伝ったと。
実績のある川北付属なら部の予算もふんだんにあるだろう。
それ故に織田が真理沙の転校を惜しく思った様子も想像出来た。
「そちらは?」
真理沙との会話を切り上げた織田が悠斗を見やる。
尊敬する人物からの突然の注目に口籠る悠斗であったが、見かねた真理沙が助け舟を出した。
「今所属しているWAF部の神凪君と木村さんです」
「神凪?そうか君がAブロックの神凪君か!」
悠斗の名字を聞いた途端、織田の猛烈な好奇心の波が悠斗に叩き付けられる。
「ええ、まぁ」
悠斗が事実を認めた途端に、織田の両手が悠斗の右手を包むように握り締めてきた。
「君のお父様には感謝している。こんな素晴らしい経験が出来るのは、全て君のお父様が……」
真夏の日差しすら涼しく感じる熱気を出しながら語り掛けてきた織田であったが、突如トーンダウンしてしまった。
苦笑し、腰が引けた悠斗を見て、自身の押しが強すぎたと反省しているかのようである。
「すまない。興奮して。でも光栄だよ」
「ありがとうございます」
悠斗の手をようやく放した織田は、待機状態となったジークを見つめる。
「ジークドラグーン・マークⅦ。なるほど。凄い機体だと思っていたけど、結城さんが一枚噛んでいる訳か」
「一枚どころか全部彼女が作ったみたいなもんです。俺達がしたのはデザインぐらいで」
悠斗が決して誇れない真相を口にすると、織田は瑞々しい笑みを見せた。
「うちも似たようなもんだよ。彼女には、随分力を貸してもらってね。だから突然転校すると聞いて残念だったんだ」
「申し訳ありません」
「いやいいさ。君の作ったスーツと戦えるとは光栄だよ。実質、兄弟機対決という訳か」
そう語る織田の瞳は熱意と待望で輝いていた。
「神凪君。順調にいけば準決勝で当たるはずだ。待っているよ」
織田が差し出した手を悠斗は、力強く握り返した。
「俺もです。有名人のあなたと戦えるなんて光栄だ」
ライバルであるはずの選手との友情。
そして労いや励まし。
悠斗にとっては、ポイントマッチ以来の交流だ。
これがあるからアーマード・フェアーズはやめられない。
「それじゃあ頑張ってくれ。応援してる」
織田は、握手を終えると、そう言い残して去って行った。
「よっしゃあ!!」
改めて悠斗は、気合を入れ直す。
ここからが県大会の本番。
三日間連続で行われる決勝トーナメントの初戦は、悠斗と山村選手の試合だ。
『埼玉県大会、トーナメント第一回戦がまもなく始まります。出場選手の方は準備をしてください』
場内に響くアナウンスが激闘の始まりを告げる。
悠斗は、ジークを見つめて誓った。
織田と戦う事。
優勝する事。
WAF部を守る事。
ジークを纏った悠斗はバトルスペース入場口となるカタパルトへと足を踏み入れる。
そして眼前のランプが赤から青に変わり、試合開始の合図を告げた。
「神凪悠斗。ジークドラグーン・マークⅦ出ます!!」
カタパルトからジークを装着した悠斗がバトルスペース内部に撃ち出されると、会場の声援が爆音となって悠斗に降り注いだ。
トーナメント一回戦のフィールドは、起伏のある森林地帯を模した箱庭である。
フィールドに存在する全てがフェア粒子に反応する素材で構成されているが、背の高い木々のせいで視界は、最悪だ。
空戦機体ならまだしも陸戦型のマークⅦには、索敵の難度も高い。かなり相性の悪いフィールドだ。
『さて、前回のバトルロイヤルで圧倒的な強さを見せた神凪悠斗選手とジークドラグーン・マークⅦ。前回は、武装なしでの勝利ですが、今回は、やけに重装備です』
実況者の言うように、ジークから受ける印象は、前回までとは打って変わっている。
背中にマウントされた大型のキャノン二門と光学式アサルトライフルが二丁。
キャノンは衝撃に優れる実体弾と、貫通力に優れる光学式の二種類だ。
腰には光学ブレードと奈々実の作ってくれた実体ブレード、合わせて四本が差してある。
左腕には全身を覆い隠すサイズのシールドが取り付けられ、防御も抜かりはない。
『対するは広葉大学フェアーズスーツ部の山村一樹選手。機体名はバストローラー。全国大会ポイントマッチベスト四とフリーマッチベスト四の対決! 勝つのはどちらだぁ!!』
実況者の熱の入った選手紹介だが、肝心のバストローラーの姿は上空にはない。
「真理沙、敵機をレーダーでも捕捉出来ない。外から見えるか?」
悠斗に問われ、真理沙と奈々実は双眼鏡を使いバトルスペースを見渡すがそれらしき姿は確認出来ない。
「目視出来ません。向こうも森に隠れているのでは?」
「先に見つけた方が勝つか。向こうの機体って何色だっけ?」
「データによればオリーブ色です」
「こっちは白。目立つなぁ」
こういう状況にあっては、先制攻撃を仕掛けた方が圧倒的に有利だ。
しかし保護色ともいえるバストローラーに対して、ジークドラグーンは白がメインカラー。
先手を取るのは、至難の技としか言いようがない。
しかし愚痴を言った所で、戦況が優位に動くわけでもなく、悠斗は、燻る不安を鼻息として吐き出すと、背中から実弾式のキャノン砲を手に取って歩き出した。
「どこに居る?」
気配の片鱗すら感じとる事が出来ない。
こういう場にあっては人間の敵意・害意・殺気という物がどうやっても滲み出す。その匂いを消すのは、武の達人でも困難な作業だ。
大学のフェアーズスーツ部所属の山本が悠斗を上回る武の達人であるというのも考えづらい。
「真理沙、変じゃない?」
この状況に悠斗同様に違和感を覚えたのは奈々実であった。
「変とは?」
「敵は索敵するはずだよね。悠斗の事を」
「そうですね。空からの索敵の方が早いはず。なら敵は――」
奈々実の感じた違和感。
その正体を考察する真理沙の脳裏に一つの可能性が見出される。
「飛ばずに索敵する手段を持っている?」
――その方法は?
悠斗が真理沙に尋ねようとした瞬間、ジークの胸部を中心に爆炎が広がった。
「なに!?」
HUDに表示される胸部装甲被弾・損傷軽微の文字。
姿を晒し続ければ第二射が来る。悠斗は近くにある大木に身を隠し、背を預けた。
「どこから!?」
顔だけを出し、周囲の様子を窺う。
着弾角度から推測するに今の攻撃は南西からだ。
だが空にも地上にも敵影はない。
退避したのか?
音もなく、気配を悟らせずに?
ありえるのか?
困惑に支配されつつあった思考を悠斗は軌道修正する。
今考えるべきは敵がどこに居るのか。その一点だ。
「真理沙、発射位置を――」
二度目の爆炎が悠斗の視界を覆い尽くす。
「なんだ!?」
撃たれたのは後頭部、またも損傷は軽微だが問題は二射目を無防備に貰ってしまった事ではない。敵の攻撃してきた方向である。
「真理沙、今の砲撃って」
「北東の方向からです」
「もう反対側に!?」
「南西の砲弾発射予測地点は悠斗君から約五百メートル。北東の砲弾発射予測地点は約四百メートル」
「射撃の感覚は三秒か、四秒」
「最低でも時速八百キロで飛行している計算になります」
「ありえるの!?」
奈々実の驚愕に真理沙は首を横に振った。
「フェアーズスーツの平均飛行速度は時速二百五十キロ。最高記録でも五百七十八キロのはずです」
「県大会で世界新記録か。ありえねぇだろ」
「でも悠斗。相手は実際に――」
悠斗は、身を隠していた大木から飛び出し、南西方向に走り出した。
このまま立ち止まっていては相手の思う壺だ。
行動も思考も相手の掌の上。
これを現実としてまず受け止めなければならない。
その上で敵の突き付けてきた戦略からどうやって逃れるかだ。
超スピードによる移動と目視出来ないステルス性能。
山本選手のバストローラーの攻略すべきポイントはこの二点。
まず攻略すべきは超スピードの謎だ。
「最低でも八百キロ。下手すりゃ時速千キロ。亜音速の域だ。拳銃の弾並みのスピード。そんな速度で移動して目立たないわけがないし――」
そもそもそんなスピードで飛行する事自体が不可能だ。
フェアーズスーツが時速六百キロを超えて飛行した例はない。
それが可能となったと考えるよりも、超スピードと言う現象自体がまやかしである。そう考えた方が受け入れやすい。
正反対の方向から攻撃してくるワープでもしているかのような所業。
考えられる手段は一つ。
「もしかして二機いる?」
悠斗の提示した可能性に真理沙の眼光に鋭さが増した。
「同じ事を私も思いました」
「え? どういう事!? どっちでもいいから分かるように説明してよ!」
「奈々実、多分敵は二機いる。正確には無線操作か自立式の子機と人間が装着して動かす親機だ」
「それってルール違反じゃ――」
「いえ、奈々実さん。外部からパイロット以外の人間が操作しているなら居ハンデスが、スーツの装着者本人が子機も操縦しているならオプションパーツ扱いでルール上問題ありません」
全国大会や世界大会の中継で悠斗は幾度かこうした戦法をとる選手を見た事がある。
そしてこの戦術の強みは、それがばれても対処が困難であるという点だ。
カラクリが分かった所で二対一という数的不利が解消されるわけではない。
徹底した二方向からの遠距離からの狙撃。
そして未だ解明出来ない驚異的なステルス性能。
着弾を避けようと木々の間を縫いながら走るジークのボディーに一つまた一つと弾痕が刻まれていく。
圧倒的優位な状況。
そのはずなのにバストローラーのパイロットである山本は確固たる手応えを感じられずにいた。
「クソ。なんて装甲だ。これだけで当てて損傷軽微」
本来なら二発目の砲撃で仕留める算段だったが、ジークドラグーン・マークⅦの装甲は敗北を拒否するかのように砲撃を寄せ付けなかった。
「それに勘の悪い選手じゃなさそうだ。そろそろこちらの戦術に気付くはず」
微かな焦燥を山本が抱くと、
「だが問題はない」
フェアーズスーツ部部長の声が山本を激励した。
「分かった所でこの戦術には勝てないさ。それに最後の切り札はまだ破られていない」
「ああ。俺達なら勝てるよ」
「この戦術で全国にだって行けるさ」
部員たちの激励に山本の闘争心が炙られていく。
負けるわけにはいかない。
所詮相手は高校生の部活動。
フェアーズスーツ開発元であるアーツ・システムズへの入社を果たすためにも、この大会は、とっても絶好のアピールポイントだ。
「まずはポイントマッチ全国四位の選手。実験台には最適だ」
山本の笑みをトリガーに地面を走り続ける悠斗に砲弾が降り注ぎ続ける。
大半は木に当たって無力化出来ているが、それでも一部はジークを捉え、薄皮を削がれるように装甲が摩耗していく。
「二対一なんて卑怯じゃん!」
「実戦に卑怯もクソもない。じいちゃんの口癖だ」
武器を使っているから不利。数が多いから不利。空を飛べるから不利。兵法とは不利を嘆く事ではない。持てる手札でどう報いるかを考案する術なのだ。
そして現状を打破するには無傷と言うわけにはいかない。
ある程度の被害を出す事を覚悟してでも、たとえそれが致命傷になる可能性が高くても、敵の策略の一つを潰さなければならないのが今だ。
木々のない平地が森の中を走る悠斗の視界に飛び込んでくる。
「真理沙。今からあえて開けた場所に飛び出る」
「どうするつもりですか?」
「俺の勘じゃ多分初弾を撃ってくるのは子機の方だ。そして子機は機体の一部として偽装できる程度に小さい。でかい口径の弾を撃ってるから空中を飛行してない。地に足ついてるはず。多分無限軌道だろ。移動速度は大して速くないはずだ」
「悠斗、どうして子機が最初に攻撃するって分かるの?」
「最初の砲撃に対応した俺に対応して二射目が来てる。そんな足回りは子機にはないはずだ。ならフォローをしてるのは、親機だ。奈々実の言う通り二対一はきつい。まずは足の遅い子機から潰す」
「足が遅いならどうやって悠斗を追って砲撃してんの?」
「親機が空から索敵してんだ。俺の移動位置を予測できれば子機の足でも十分間に合う。こっちは徒歩だしな」
「でも親機の姿は、見えないよ!?」
「奈々実さん。疑問があるのは分かりますけど、まずは分かる事から一つずつ対処していくしかありません」
「分かった。ごめん。二人の考えた通りにすれば勝てるんだよね?」
悠斗は、あえて同意はしなかった。
敵の砲撃を誘い子機の位置を割り出す。それは開けた場所で砲火に晒されるという事だ。
装甲へのダメージが溜まってきている。小さなきっかけ一つで一気に瓦解してもおかしくない。
伸るか反るか、賭けに近い策である。
それでも安全策を取って、このまま消耗戦に持ち込まれるのが、悠斗にとっての最悪のパターンで敵の望んでいる動きだ。
「俺は、何発か砲撃を食らう。奇数発の発射地点から位置を予測してくれ」
悠斗の指示に真理沙はスマートフォンを制服の上着のポケットから取り出し、
「用意できました」
真理沙の声を合図に、悠斗は、ジークの背中にマウントされている実体弾のキャノンを取り外して構えた。
「行くぞ!!」
咆哮と共に地面を蹴って悠斗は平地にその身を晒し、間髪入れずに襲い来る着弾の衝撃が悠斗の前進を押し留めた。
HUDの警告表示とフェイスアーマー内に反響する警告音がジークの悲鳴のように響き渡る。
如何に重装甲でもこれ以上の砲火には耐えられない。
これ以上は――
「ここです!!」
限界を目前にして真理沙の声が轟いた。
北東の方向、東へ移動している子機の予測光点がレーダーに表示される。
距離は三百メートル。速度は時速二十キロ。バトルフィールド内のため風速はなし。
背中から襲う衝撃にジークの巨体がぐらつく。悠斗はその場で片膝を付き、キャノンの砲口を北東に向け、トリガーを絞った。
放たれた砲弾は大気を切り裂き、子機の予測位置を目指して飛翔する。
その狙いに寸分の狂いはない。真理沙の予測が正しければ確実に捉えられる。
そして――
「何!?」
悠斗の放った砲弾が着弾と同時に爆炎を上げ、バストローラーのHUDに子機大破の文字が浮かび上がる。
「あれだけの砲火を浴びながら三百メートル離れているのに初弾命中!? ポイントマッチベスト四。やはりエースか!」
山本の驚嘆も無理はない。この超長距離狙撃は全国大会でも早々お目に描かれる技術ではない。
しかしこの技は、悠斗の技術のみで達成された訳ではなかった。
姿は、見えないが、バストローラー本体は、激しく動き回ってると予想される。
だから子機の操縦方法は複雑ではない。
無線で狙撃位置と発射数を指定。それを自動で行うぐらいの簡易的な物。
悠斗の攻撃に対応して素早く行動出来る機能はない。だからこそ悠斗の狙撃は命中し得たのだ。
当てを外し、子機が細かい操作が可能であったり、初撃がバストローラー本体であったなら成立しない薄氷を渡るような策だった。
「残るは親機だ。でも――」
その場で悠斗が立ち上がると背後からまたも衝撃に押される。
振り返るもやはりそこに敵の姿はない。
「次の謎は、見えない機体か」
この謎について、悠斗は、まだ答えが出せていない。
もちろん何かしらの仕掛けはあるはずだ。
超能力で姿を消しているなんて事はあり得ないが、その手段が悠斗には思い当たらない。
素早く動いているから知覚出来ない。これは違う。
時速八百キロ以上の高速移動は子機を使った偽装であると証明された。
見えない敵。これを科学的に論理的に証明する手段。
「恐らくは、本当に見えないんでしょう」
真理沙が口にしたのは愚直とも言える程、直球過ぎる回答だった。
「どういう事?」
理解の及ばない奈々実を尻目に、真理沙はスマートフォンを弄り始めた。
「光学迷彩。装甲に周囲の風景を投影して擬態しているんです。カメレオンやイカのように」
「つまり本当に見えないって事? じゃあそんなのどうやって」
「大丈夫です奈々実さん。それならもうやってあります」
「え?」
「砲撃発射パターンのデータを取っていたんです。砲撃は、悠斗君を中心に回転しながら一定の感覚で行われています。動きながら光学迷彩を高度に機能させるには、光源の変化を考慮してリアムタイムで投影映像を細かく処理する必要がある。だから縦横無尽の動きは出来ない。ある程度決められたルートを通るしかないはずです」
真理沙の説を裏付けるのは、子機の存在だ。
光学迷彩を搭載して見えない機体。驚異的に思われるそれも真理沙が指摘した弱点があるならいずれは見抜かれる。
単調過ぎる攻撃パターン。県大会なら通用しても全国、世界と舞台が上がるにつれてその欠点は、見透かされ、容易く対応されるようになる。
機体が見えない事。単調な攻撃。この二つのヒントがあれば、ほとんどの選手が真相に辿り着く。
その目を眩ませるための、そして仮に策がばれた時のバックアッププランが子機だ。
攻撃の単調さを補い、相手に超高速移動する機体であるという印象を植え付ける。
この謎を解くのに躍起になっている間に相手を仕留める。そう出来なくても謎は二段構えだ。
一つ暴かれても、もう一つに辿り着くには時間がかかる。
さらに二方向からの砲撃と見えない本体は謎がすべて明かされて尚有効な戦術だ。
しかし山本の戦略にも穴はある。
それは、容易く子機を対処されてしまった際のバックアッププランだ。
「真理沙!」
悠斗の呼び掛けと共に、真理沙のスマートフォンの操作スピードが増していく。
「三秒後に八時の方向!! 高度五十!!」
バストローラーの予想地点がHUDに表示される。悠斗は、右手のキャノンを投げ捨て、光学式のアサルトライフルに両手を伸ばした。
見えない標的を単発で射抜けるほど悠斗は自分の射撃練度を過大評価していない。
ならば連射だ。
圧倒的な弾幕で面制圧すれば見えない相手にも当たる。
そこに来るという事実は覆らない。
「全弾持ってけ!!」
「なんだと!?」
山本の驚愕より速く、悠斗の放った小口径の光学弾が豪雨のようにバストローラーの居ると思しき地点に注ぎこまれた。
何もない空間に弾が着弾し、人型に青い燐光が弾けていく。
着弾の度に何もないはずだった空間に揺らぎが生まれ、やがてオリーブ色の機影が鮮明に浮かび上がっていった。
光学迷彩が解け、体勢を崩すバストローラーに刹那の猶予も与える事なく、悠斗はアサルトライフルと左腕に取りつけた盾を投げ捨て、スラスターの噴射で猛進した。
強烈な質量の突撃にバランスを崩したバストローラーは耐え切れず、ジークと共に墜落する。
バストローラーのマウントポジションを取った悠斗は、ジークの左腕の装甲を展開させた。
ジェネシス・クライシス。その圧倒的な破壊を知る山本の本能がバストローラーを最高速度で後退させた。
左腕から繰り出された夥しいフェア粒子の余波は敵を捕える事なく。フェア素材で出来た地面を溶解し、溶岩たまりを生み出した。
直撃こそ避けたものの、その余波の直撃はバストローラーの足裏のスラスターを破裂させ、
「逃れられない!?」
推進力を奪っていく。
時間にして数瞬にも及ばない極小の攻防。
しかし白刃が如く錬磨された悠斗の直感は、脳の指令を待たずして肉体へ追撃を指示する。
光学ブレードを振るい抜き、ジークはスラスターを全開にしてバストローラーへと突進した。
「トドメだ!!」
手にしたブレードの刺突はジークの推進力と悠斗の剣捌きと相まって光と見紛う速攻と化し、回避の余地すら与えずにバストローラーの頭部装甲を穿った。
「くっそおおおお!!」
山本の悲鳴を反響させながらバストローラーは爆炎に包まれて墜落し、返り血のように黒煙を纏いながらジークが着地した。
『試合終了!! 勝者ジークドラグーンマークⅦ!! ベスト四対決は、ポイントマッチの雄が制した!!』
実況者による宣言と共に、割れんばかりの大歓声が健闘を称えるように降り注ぎ、
「よっしゃあ!!」
悠斗は、拳を突き上げて、答えた。
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