Sさんと僕

花本真一

第1話  Sさんと僕 花本真一

 大学二年生の冬。僕にとって忘れられない人と出会った。

 その人は同じ授業で一緒になったSさん。しかも、学生ではなく所謂、聴講生として入学したおじいさんだった。

 四十年近く貿易関係の仕事で働いていた事を最初の自己紹介で知った。

 そんなSさんとひょんな事から一緒に課題に取り組むことになった。

 待ち合わせの場所はいつも大学の図書館だった。

 Sさんはいつも僕より先に着いていた。そして、一生懸命、本と向かい合い、ノートを取っていた。

 僕はそんなSさんの姿を見るのが大好きだった。

 Sさんは、若い頃出来なかった勉強を今やれているから、毎日がとても楽しいとおっしゃっていた。

 僕らの時代は大学全入時代と言われているくらい、大学に行くのが当たり前だと言われている。

 でも、Sさんのように勉強したくてもできない人がいる時代もあった。その人達からしてみたら、今の僕らの世代はどう映るのだろうか。

 授業をさぼったり、携帯をいじったりするのが今の世代であるならば、僕らはどれだけ彼らに対して、失礼な振る舞いをしているのかもしれない、と思わず考えてしまった。

 その授業以来、僕らが会うことはありませんでした。

 だけど、勉強できる環境にあることがどれだけ、かけがえのないことなのかを知ることが出来たひと時でした。

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Sさんと僕 花本真一 @8be

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