雲さんと買い物


「これだけでしたっけ?」


「後はクチナシと、芥子けしの実かな~。」


「それなら、確かあっちにありましたよ。」


「それじゃ、僕はぶりを探してくるね~。」



今日はくもさんと、

近所のスーパーに買い物に来ています。


いつもの買い物とは違い、

せちの材料や正月用の食料の買い出しなので、

カートもカゴもすでに一杯になっている。


年末のスーパーの人の多さに若干じゃっかんうんざりしながらも、

何とかリストの品物をそろえた私達は、

会計をませるためにレジに並んだ。


「人が多いね~。」


「毎年の事ですが、

やっぱりこの人の多さにはれないです。」



人にいつつもレジをませると、

買った物を店に置かれているダンボールにめ、

ようやく外に出られた私は大きく深呼吸する。


「あ~・・やっと落ち着けます。」


「人み苦手だもんねぇ。」


げんなりとした表情で言う私を見ながら、

いつもと変わらないにこにこ顔のくもさんが言う。

(そのかたにダンボールを2つかついでいるが、

全く重さを感じさせないのはすごい。

・・彼は決して武闘派ぶとうはではないのだが。)



「今年も色々ありましたね。」


「いつも通りの気もするけどね~。」


ゆっくり家路いえじを歩きながら、

2人でそんな他愛たあいない事を話していたのだが。



・・話している内に、

今年1年の私自身の事を考えてしまい



「・・今年も、変われなかった。」


という、

自己嫌悪じこけんおの言葉が口からこぼれ落ちた。



「そんな事は無いと思うけどな~。」


不思議そうにくもさんがそう言うが、

私は苦笑しか返せない。


何となく気まずくなってしまって、

私が黙っていると


「明日、1つ変わればいいんだよ。」


と、おだやかな声でくもさんが言った。


私が、言葉にられてそちらを見ると、

彼は前を向いたまま、

おだやかな表情で先を続ける。


「変わりたいんだったら、

昨日はしなかった事を今日するんだ。


そうすれば、

今日は昨日より1つ、変わった事になる。


次は、

今日しなかった事を、明日に1つするんだ。


そうすればまた、

今日より1つ、明日が変わる。


・・明日がそうやって変わっていけば、

1年後には未来が変わっているよ。」


「未来・・。」


「そう。

未来は、今日の集まった物だからね。


・・僕から見れば、

君は昨日と比べてちゃんと変わっているよ。」


だから、自信を持っていい。


彼が話し終えると同時に、

ちょうど家に辿たどり着いた。


「ただいま~。」


のんびりした声を上げながら、

くもさんが玄関を開ける。


すると、

中からこおりさんの怒鳴どなり声が響いてきた。



・・内容からさっするに、

またつるぎさんそらさんコンビが何かしでかしたらしい。



「あ~・・。」


「みんなは、ちっとも変わらないなぁ。」


くもさんは苦笑しつつ、

未だ怒鳴どなり声の響く玄関へと入って行く。


その際に聞こえた彼の


「・・変わらないのも、良いものだよ。」


という言葉は、

後ろにいた私の耳にだけ入ってきた。



無力な自分は変えたいけれど。


彼等といる自分は変えたくはない。


だから、

彼等と理想の自分が共に居る未来にするため


(・・年は明けていないけど。)


明日を少し、変えてみよう。



そう思いながら、

騒ぎが大きくなった家の中へと

私は戻って行った。

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