仲間と組手


仲間達は時々、

我が家の庭で組手くみてをする。

組手くみてとは、

武術の練習法の1つで、

ルールにのっとった1対1の対人戦の事だ。)


私もそこに参加しているのだが、

やはり実力は比べ物にならない。


の動きが、

はやくて視線ではとらえられないのだ。


現に今、

つるぎさんといかずちさんが組手くみて中なのだが。


「お、今のは良いパンチだったな。」


咄嗟とっさふせいで返したのも流石さすがだ。」


周りはそう言って評価しているが、

私にはまったく見えていない。


しいて言うなら、


ガッ!


ドゴッ!


バシッ!


という打撃やふせいだ時に出る音で、

何とか状況じょうきょうを理解できているレベルだ。


「それまで!」


3分が経過けいかした事で、

審判しんぱんをしていたそらさんが声を上げる。


「・・。」


「・・。」


その声で、

こぶしりをり出していた2人が、

動きをピタッと止めた。


開始の時にいた場所に戻ると、

たがいに向かって礼をする。


がとうございました。


2人はそう言った後に息を吐き出し、

ようやくその表情をやわらげた。


「あー!

また決着つかずか!」


つるぎさんがそう言いながら、

タオルで汗をぬぐう。


「そう簡単に、決着をつけられてたまるか。」


いかずちさんはスポーツドリンクを飲みながら、

不敵ふてきに笑ってそう返した。


「よし!

次はおもと俺だな!」


「・・ああ。」


審判しんぱんは俺がするね~。」


そう話しながら、

そらさんとおもさんが開始位置に立ち、

審判しんぱん役のくもさんが、

少し離れて準備をする。


「・・これより、

そらおも組手くみてを開始します。

たがいに、礼。」


よろしくお願いします。


2人は頭をおたがいに向かって下げ、

ゆっくりとかまえをとった。


「・・始め!」


審判しんぱんの声が響いた瞬間、

2人は其々それぞれ相手に向かって一瞬で間合まあいをめ、

見えない速度の打撃の応酬おうしゅうを始める。


「あの2人の組手くみてだと、

やっぱり間をめに行って打ち合うよな。」


視線で2人の動きをとらえながら、

休憩を終えたつるぎさんがそう言った。


「2人とも、

自分から向かっていく性格だからな。」


同じく休憩を終えた、

いかずちさんも2人の動きを目で追いながら言う。


2人の動きを何とかとらえようと、

頑張がんばっている最中さいちゅうの私も、

その会話に参加した。


「でも、

いかずちさんとこおりさんの組手くみては、

静止している方が長いですよね。


動きの読み合いから始まりますから。」



唯一私が目で追えるのが、

その2人の組手くみてだったりする。


こおりさんは自分から向かわず、

相手の動きを読んですきを突く戦い方だ。


いかずちさんもそれを知っているので、

迂闊うかつに動かずこおりさんの動きの先を読もうとする。


すると、

必然的に相手の先を読む事の応酬おうしゅうになるので、

それまではまったく動きが無くなるのだ。


ただし、決着は一瞬だが。



何とか視線でとらえようと苦戦しながらも、

2人の動きを追っていると。


「・・。」


ある別の事が頭に浮び、

そればかりに気がいってしまう。


「何か気になるのか?」


「どうした?」


それに気付いた、

つるぎさんといかずちさんにそう聞かれたので、

私は話す事にした。


「気になると言うか、

そうとしか見えなくなってしまいまして。」


「何が?」


私はそらさん達の試合に目を向け、

もう1度2人を見る。


組手くみてをしているおもさんは、

今日もレッドなのだが・・。


「・・おもさんのめんがレッドなので、

すごくハイクオリティな特撮とくさつに見えるんです。」


毎回の戦闘シーンが、

これ位本格的な特撮とくさつ番組なら、

格闘家にも人気が出そうだ。


・・ただ、

はやすぎて視聴しちょう者には見えないが。


「・・。」


「・・。」


私の言葉に2人は笑いを必死にえるように、

全身を小刻こきざみにふるわせだす。


「そこまで!」


話してるうちに、

試合が終わったらしい。


2人が開始位置に戻り、

たがいへの礼を終えた瞬間


ぶはっ!!


盛大につるぎさんが噴出ふきだし、

いかずちさんも笑いだした。


・・そんなに面白かっただろうか?




試合を終えて休憩に来た2人に、

が笑っている理由を聞かれたので


全員にさっきの話をしたら、

全員が笑いだす。


・・彼の笑いのツボは、

時々わからない事がある。



ただ、

おもさんには無言でデコピンを連打されました。

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