私と風船


ショッピングモールで歩いていると、

視界のすみにふわふわと飛ぶ何かがよぎる。


「?」


気になって視線を向けると、

それはキャラクターの形の風船を手に持ち、

嬉しそうにはしゃぐ子供だった。


(風船か・・。)


両親と楽しそうに歩き去っていく姿を見て、

私は幼い頃の事を思い出す。



私は幼い頃、

風船が大好きだった。


何処どこに出かけても風船があると、

両親に強請ねだって買ってもらっていたのだが。


その後は、

何時いつも帰りが大変だった。


私の運動神経は、

幼い時から年中無休の残念仕様しようだったので、

この


『風船を持って帰る』


というのが、

最難関さいなんかんのミッションになる。


しかし、

どんなに気を付けても所詮しょせんは幼い子供なので、

転んで手を離したり、

ひもが手からするっと逃げてしまったりして、

大抵たいていは風船の脱出成功で終わるのだ。


だが、

時々は両親に手伝ってもらいながら

風船と共に家への帰還きかん見事みごとに果たし、

夢中で風船を相手に遊ぶ事もある。


・・ただ次の日には、

元気に天井に頭を付けていた風船が、

自分の顔の所まで降りてきているのを見て、

いつも悲しい気持ちになっていた。



こうやって、

幼い頃の思い出にひたっていると、

何だか無性に風船が欲しくなってくる。


「・・たまには、いいか。」


風船を売っているワゴンを見つけ、

キレイな風船を一つ買う。


その後、

土産みやげ用に自分でふくらませる風船セットも買い、

私は家路いえじについたのだった。



「ただいま~!」


「おかえりなさい!」


むかええに来てくれた黒之介くろのすけの頭をで、

私はリビングへとやって来る。


「お、おかえり!」


「ただいまです。」


「その風船はどうした?」


私が持っている風船を見て、

いかずちさんが不思議そうな顔でいた。


「見てたら、なつかしくなって買いました。」


浮いている風船を部屋のすみに置き、

ビニール袋から自分でふくらませる風船を出していると、

黒之介くろのすけが勢いよく尻尾しっぽを振りだす。


「ふうせんさんだ!

ボク、あそびたい!」


「少し待ってて。

今、ふくらませるから。」


口に風船を当て、

私は思い切り息をんだ。


・・しかし、

風船はちっともふくらまない。


「あれ?」


もう1度思いっ切り吹くが、

やはりふくらむ気配が無かった。


その後も、

酸欠さんけつになるまで頑張がんばったのだが。


・・顔が真っ赤になるだけで、

肝心かんじんの風船はふくらませる事は出来なかった。


「大丈夫か?」


心配そうな顔のいかずちさんにも返事を返せず、

私が1人静かに息をととのえていると、

側でその様子を見ていたつるぎさんが、

別の風船を手に取る。


「これ、そんなに難しいか?」


そういうと、

同じ様に風船を口に当て


「フッ!」


と息をんだ。


その瞬間、

一瞬で風船が破裂はれつする。


「・・え?」


「あ、しまった!」


もっと手加減てかげんしないと駄目だめか!


そう言って彼は別の風船を手に取ると、

今度は上手くふくらませ、

そわそわしながら待っていた黒之介くろのすけに渡した。


「ほい!遊んでいいぞうなぎ!」


「うなぎじゃないけど、

ありがとうおじちゃん!」


ふうせんさんまてー!


そう言いながら、

黒之介くろのすけは風船を追いかけ走り出す。


「・・すご肺活量はいかつりょうですね。」


唖然あぜんとしながら言った言葉に、

いかずちさんが不思議そうな表情で首をかしげた。


「そうか?

あれ位ならば誰でも出来るだろう?」


・・貴方の目の前にたった今、

風船に負けて酸欠さんけつを起こした人間がいます。




好奇心こうきしんられた私はその後、

仲間達全員に風船をくば


「『せーの』で一斉いっせいに、

手加減てかげん無くふくらませて下さい。」


と言い、


「せーの!」


と合図をしたら。


バン!!!


と、騒音に近いレベルの破裂はれつ音が、

我が家の中に響いたのでした。

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