仲間と花火


今から花火するぞー!


おおー!!


この掛け声と共に、

今年の我が家の花火大会が始まった。


場所は我が家の庭で、

私の側には朝から楽しみに待っていた、

尻尾しっぽを振った黒之介くろのすけがそわそわしている。


「はなび、たのしみだね!」


「そうだね。」


・・通常の花火なら、

間違まちがっても彼を連れて来るような事は

絶対にしないのだが。


毎年うちでするこの花火だけは、

黒之介くろのすけも安心して参加できる。


何故なぜかというと、

この花火は仲間達が毎年準備してくれている、

特別製の物だからだ。



以前、

初めて私が花火をした時


「危ないから、足元にむけるんだよ。」


と両親に言われ、


「うん!」


と、良い子のお返事をした私は。


・・足元に向けすぎて、

右足の小指を火傷やけどした事がある。


・・という話を、

仲間達にしたのだが。


「何で花火で火傷やけどするんだ?」


と全員に不思議そうな顔をされた。


その時に、

の花火と私の花火が違う事を知り、


黒之介くろのすけも安全に楽しめるように』


と、我が家で花火をする時だけは、

仲間達が準備をしてくれる、

安全な花火をするようになったのである。



「よし!まずはネズミ花火だ!」


そう言ったつるぎさんが、

ネズミ花火にロウソクから火をけ、

地面に向かって放り投げた。


「よし!今年は黒之介くろのすけに勝つぞ!」


「ボクがかつもん!」


そらさんが笑いながら言うと、

低くかまえた黒之介くろのすけが自信満々で答える。


2人がり取りをしている間に、

導火線から本体に火が移った。


その瞬間


『チュウウウ!!』


と鳴き声を上げ、

ネズミ花火が逃げ始める。


「スタート!」


「まてー!!」


他の参加者にざり、

黒之介くろのすけもネズミ花火目掛けて

け出した。



このネズミ花火は、

火をけると鳴き声をあげながら逃げ出し、

火が消えるまであちこち走り回る。


それを何故なぜ

が追いかけているのかというと。


「やった!つかまえた!」


どうやら今年も、

黒之介くろのすけが花火をつかまえたらしい。


「あ~、今年も負けたかぁ!」


「ボクのかち!」


火のついた花火をくわえながら胸を張る、

黒之介くろのすけの頭をそらさんがでている。


・・今年も彼は、

黒之介くろのすけに勝ちをゆずったようだ。


くわえられた花火が


『チュウウゥ~・・。』


観念かんねんした鳴き声を上げた瞬間


ぽむん!


可愛かわいい音を立て、

花火からワンコ用のおやつへと変わる。



全員が、

特に黒之介くろのすけが追いかけていた理由は、


『火が消える前につかまえる事ができたら、

つかまえた者の望むお菓子に変わる。』


というのが、

このネズミ花火の特徴とくちょうだからだ。


それと、

黒之介くろのすけ平然へいぜんと花火をくわえられた事が、

仲間達がこの花火を毎年用意してくれている、

1番の理由なのである。



の花火は、

不思議な火を使うので、

熱くないし火傷やけどをしない。


それに、

燃えているのは火薬ではないので、

けむりにおいも出ず、

周りにも決して燃え移らないという、

絶対に怪我けが事故じこの起こらない安全設計せっけいだ。


だから、

黒之介くろのすけも安心して一緒に遊べるという、

心遣こころづかいなのである。


「うしおにくのジャーキーさんだ!」


彼は今年も戦利せんり品のジャーキーを持ち、

尻尾しっぽを振りながら縁台えんだいけん

ウッドデッキへと移動した。


「今年もうれしそうだな。」


うれしそうにジャーキーを食べる彼を見ながら、

楽しそうにそらさんが笑う。



その後も、

私達の安全な花火大会は続いた。



ひもの付いたり下げ式の花火は、

火が消えた後、すずな音色の風鈴ふうりんに変わり。

(デザインが10種類あり、

毎年デザインが変わるというガチャ方式。

今年はシークレットの、

素材が水晶の氷の結晶けっしょう型だった。)



地面に置くタイプのき上げ式花火は、

飛び散る火花を

地面に着く前に上手くつかまえれば、

手の中でき通るキャンディーに変わった。

(火花の色で味が変わる物だ。

赤はイチゴ、黄色はレモン。

緑はメロンで、青はソーダ味だ。)



手に持つタイプの花火は、

火をきだしながらキレイな音楽をかなでる。

(音色は、

クラッシク、オルゴール、童謡どうようの3曲だ。

他の音色もあるのだが、

以前そらさんがメタルを持ってきて黒之介くろのすけおびえさせ、

おもさんに怒られて以来いらい、我が家では禁止になっている。)



「最後に打ち上げいくぞー!」


地面に大きな筒形つつがたの花火を設置せっちし、

そらさんが大会のラストをげた。


「よし!今年は取る!」


「負けねぇぞ!」


打ち上げ花火を取り囲み、

数人が気合きあいを入れる。


もちろん、

この打ち上げ花火にも特徴とくちょうがあり、

はそのため気合きあいを入れているのだ。


「よし!火がいたぞ!」


花火に火をけたそらさんも、

素早すばやく離れて夜空を見上げる。


導火線の火がつつの中に入った次の瞬間


ドン!


と少し大きめの音を立て、

花火が打ち上がった。


打ち上がった花火は、

色や形を次々と変えながら、

あたたかく美しい光で夜空をらしていく。


身構みがまえていたヒト達も


休んで談笑だんしょうしていたヒト達も


ジャーキーを食べ終えた黒之介くろのすけ


火花がおど線香せんこう花火をしていた私も


全員が言葉と手を止め、

その大きな光の花と、

少し明るくなった夜空をながめた。



誰もがただ黙って、

今年の一瞬の風景をながめていたが、

光がおさまった瞬間


「それっ!」


身構みがまえていたヒト達が、

一斉いっせいに上を見ながら走り出す。


しかしぐに


「あれ?どこだ?」


「もう落ちたか?」


「いや、まだ音がしてないぞ?」


と、全員が首をかしげている。


「どうしたんでしょう・・」


そう私が言いかけたのと、


「あ!」


そらさんがこっちを指差したのは、

ほぼ同時だった。


そのまま全員に凝視ぎょうしされ、

私はその迫力に後退あとずさりそうになる。


「え?

・・一体何が」


何が起きているのかたずねようとした時だった。


『にゃ~ん!』


と、若干じゃっかんゆるい猫の鳴き声が辺りにひびく。


「?」


『にゃ~ん!』


・・その鳴き声は、

私の頭の上から聞こえているようだった。


恐る恐る頭の上に手をやると、

何か陶器とうきような物に指がれる。


そのままつかんで目の前に持ってくると、

それは小さなまねき猫の置物だった。


「おー!

今年はお前のトコに行ったみたいだな!」


つるぎさんが楽しそうに笑いながら、

私の背中をバッシバッシと強めにたたいてくる。


「よかったな!」


そらさんもそれに悪乗わるのりし、

かたをバシバシたたいてきた。


「痛た!痛いですって!」


「・・よかった。」


ポンポンと軽く左かたたたいて来る、

おもさんだけがこの場の良心だろう。


「・・まさかこっちに来るとは。」


そう呟いて、

手にした小さなまねき猫を、

私は不思議な気持ちで見つめるのだった。



この打ち上げ式花火の名は

幸運こううんの打ち上げ花火』

という。


花火が終わると同時に、

小さなまねき猫の置物がゆっくりと

降りて来る仕掛しかけになっているのだが。


そのまねき猫は

『一週間だけ』

手に入れた人の望む物をもたらしてくれる。


去年は、

おもさんがレアなチョコレートを手に入れ、


その前は、

いかずちさんが欲しかった兵法へいほうの書を見つけたそうだ。


「お前には、何が来るんだろうな!」


明日が楽しみだ!


そう言って、つるぎさんは笑う。




次の日


「大量の肉もらったぞ!全員で食おうぜ!」


つるぎさんが上機嫌じょうきげんでやって来た。



その次の日


福引ふくびきで菓子が大量に当たった!

みんなで分けようぜ!」


そらさんが上機嫌じょうきげんでやって来る。



またその次の日


「・・美味いチョコレートと、

ワンコ用のジャーキーを大量にもらった。」


「ジャーキーさんだ―!」


と静かに上機嫌じょうきげんおもさんが、

尻尾しっぽを振る黒之介くろのすけにジャーキーをあげていた。



そんな風に1週間、

仲間達には望んだ物が手に入る幸運こううんが続いたが。


結局、

私には物品ぶっぴんが手に入る事は無く、

まねき猫は静かに消えていったのである。


偶然ぐうぜん

それを知ったせきさんは


「お前らしいな。」


と、笑ったのだった。




・・このまねき猫の御利益ごりやくは、

本当にすごいと思う。


この小さな体で、

1週間私の願いを

ちゃんとかなえてくれていた。


私が望んだ物。


それは



・・仲間達と家族の、

幸運こううんと笑顔だったのだから。

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