仲間とラムネ


「ラムネ飲もうよ~!」


ビニールぶくろに大量に入ったびんを鳴らしながら、

楽しそうにくもさんが言う。


「お!びんラムネ!」


「夏といえばこれだよな!」


全員が彼から1本づつ受け取ると、

座って早速さっそく開け始めた。



さて、

びんラムネについての開け方について、

軽く説明しておこう。


びんの口にはまっている、

炭酸たんさんが抜けないようにするためのビー玉を、

上から思いっ切り押す!


・・これだけなのだが、

実は結構けっこう難しい。


「うわっ!」


開けた瞬間、

ラムネが噴出ふきだしたせきさんが

あわててタオルでテーブルを拭いている。


「お~。」


「やっぱりやったか~。」


ラムネを飲みながら暢気のんきな声で、

つるぎさんとそらさんが言った。


何時いつもこうやって、

こぼしてしまうんですよ。」


少し減ったラムネを飲みつつ、

せきさんは溜息をつく。


「コツがあるんだよ。

・・いいか?見てろ。」


そう言うとつるぎさんは、

あまっているびんラムネを1本もらい、

せんになっているビー玉に指を当てた。


「開け方は、普通に押せばいいんだよ。

で、肝心かんじんなのは押した直後に・・」


思いっ切りふさいだままにする!


ポン!と軽快けいかいな音を立て、

ビー玉がびんの中に落ちていく。


しかし彼は指を当てておさえ、

中の炭酸たんさんが落ち着くまでそのままだった。


「・・で、落ち着いてから離すと。」


おお~!


感激した様子で、

見ていたせきさんが思わず拍手はくしゅをする。


「な?

後、ちゃんと冷えてる奴の方がいいぞ。

ぬるいと、この方法でも

炭酸たんさん噴出ふきだしてくるからな。」


「なるほど・・。」


あまっているびんラムネを受け取り、

彼は挑戦ちょうせんし始めたようだ。


せきさん、楽しそうですね。」


私は微笑ほほえましく思いながら、

側で作業中の彼の師匠、

いかずちさんに話しかける。


何時いつも失敗していたからな。


・・どんな事でも失敗を減らせるのは、

成長を感じてうれしくなるらしい。


だから彼奴あいつは、

何でも挑戦ちょうせんしたがるんだ。」


時々、

あせり過ぎて空回からまわりする事もあるが。


苦笑気味にそう付けし、

手にしたタオルを動かしながらも、

彼は答えてくれた。


「なるほど!」


成長って大事ですもんね!


「・・で、お前は何時いつ成長するんだ?」


ラムネを飲みながらこおりさんが、

あきれた表情で私に向かって言う。


「ごめんね~。

・・振らないで帰ってきたんだけど。」


これだけ、振っちゃったみたいだね~。


ちがうと思うが。


いかずちさんとくもさんの少しずれた会話を聞きつつ、

私は2人が手に持つバスタオルで、

頭などをかれていた。


・・先程さきほど

私も普通にびんラムネを開けたのだが。


何故なぜ炭酸たんさんが異常にき出し、

頭から全身ずぶれになってしまったのである。


他の見ていた仲間いわく、

側にいたいかずちさんとこおりさんが、

ほうけて直ぐには反応できないぐらいの

光景だったらしい。


周りのヒト達もしばし唖然あぜんとした後


「・・た、タオルタオル!」


あわてたくもさんの声に、

やっと正気に戻ってあわて始めた。


「何であんなにき出したんでしょうね?」


今でも理解できない私が、

頭に疑問符ぎもんふを浮かべながら言う。


「さぁな。


・・ただ、1つわかっているのは。」


わかっているのは?」


こおりさんは一瞬だまった後、

そっと目をらしながらげた。


「お前の不器用だけは、

予想もつかない結果になる、

という事だな。」


「あ、今笑ってますよね!」


・・・・さぁな。


ふるえてますよ!


よく見ると、

タオルでいていたくもさんといかずちさんも、

手やかたふるえているので

笑うのをこらえているのがわかる。


「・・不器用じゃないです。」


私とこのラムネの相性あいしょうが、

たまたま悪かっただけです。


そう言うと、

側にいたヒト達だけではなく

仲間全員が笑いだしたのだった。


・・私は決して、不器用ではない。



その後、

つるぎさん直伝じきでんの方法で、

びんラムネに再戦をいどんだのだが。


炭酸たんさん威力いりょくに負け、

再び全身ずぶれになった私は


その日以来、

びんラムネを飲む時は、

他の誰かに開けてもらう事が義務付ぎむづけられたのでした。


・・不器用ではなく、

このラムネとの相性あいしょうも良くなかっただけです。

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