海の夢


かすかに、

潮騒しおさいが聞こえてきた。


風は少しベタついていて、

いそにおいがする。


(海かぁ。)


かもなぁ。


そう思いながら目を開けると、

立っていたのは砂浜で、

目の前には一面の海が広がっていた。


「うん。やっぱり海だった。」


青くんだ空に、

大きな入道雲が水平線の向こうに浮かんでいる。


海鳥の暢気のんきに鳴く声もたまに聞こえ、

独特どくとくの熱い熱気が風によって運ばれてきた。


すご再現さいげん度だな。

・・これはちょっと、不味まずいか。」


砂浜はゴミ1つ無く真っ白で、

太陽に熱されて少し熱い。


当然辺りには誰もらず、

私1人が砂浜に立っているだけだった。


(とにかく、辺りを少し調べるか・・。)


そう考えた時


「・・ぁ~。・・ぇ~・・。」


と海の方から、かすかに声が聞こえてくる。


耳をませ、

それが子供の泣き声だとわかった瞬間、

私は方針ほうしん即座そくざに変えた。


(あ、これダメなやつだ。)


そのまま全力でダッシュし、

私は海からなるべく遠ざかる。


『いいか?

他に誰もいない時に、

海から子供の泣き声が聞こえたら、

海に入るな。


その声は


『海に入れば、誰かが泣く事が起こる。』


という、

海に住まうき者からの警告だ。


その時は必ず、

海辺にひそむ邪悪なあやかしが、

水中でえさを探しているからな。


奴は、

特に心のきよい者を好み、

つねらえるすきうかがっている。


つかまれば海の中に引きずり込まれ、

そのままえさにされてしまう。


だから、

しっかりおぼえておきなさい。』


あの時、

真剣な表情で教えてくれた

いかずちさんの声が頭をよぎった。


「なるべく遠くに・・!」


それから誰かを呼ぼう!


そう、思った瞬間だった。


「う、わっ!」


足を何かにグンと引っ張られ、

私は砂の上で盛大せいだいに転ぶ。


「遅かったか・・。」


引っ張られた足を見ると、

長い海藻かいそうがしっかりと巻き付いていた。


引き千切ちぎろうとしても、

海藻かいそうは金属の様にかたくて

素手では千切ちぎれそうにない。


あせっていると、

さらに海から海藻かいそうが伸びてきて、

両手と首にも巻き付いてきた。


「ぐっ!」


息苦しさにもがく私の体は、

海藻かいそうによってズルズルと海に向かって

引き込まれていく。


ろうにも足元は砂地なので、

すべるだけで引きめる力を奪われるだけだった。


(くっ・・そ・・!!)


引きられ続けた体は、

とうとう波打ちぎわまで引き寄せられてしまう。


(首、だけでも、なんとか!)


首元を見ようとした目が、

うっかり海の中を映してしまった。


「うっ!」


波打ちぎわの向こう、

少し深くなった辺りに・・

海藻かいそうもれた真っ赤な目が見える。


それは楽しそうにニヤついていて、

此方こちらつかもうと海藻かいそうさらに伸ばしてきた。


あの手の此方こちらを見ているのは、

いつ見てもいい気分にはならない。



そんな事よりも、腹が立ってきた。


「・・こんなっ、訳のわからないモノに・・!」


好きにされてたまるか!!


私が叫んだ瞬間、

その場に強い光があふれ、

意識が遠くなっていく。



「・・うん、キレたな。」


久しぶりに見たぜ!


は笑いながら、

取り敢えず邪魔な海藻かいそうモドキを引き千切ちぎり、

その場から飛び退いて少し距離きょりを取った。


「おー!

今日の客はでっけぇな。」


弱そうだが、仕方ねぇ。


「・・人に害なす奴は、片付けねぇと。」


それに、

これだけの力を持ったは、

放っておくと更に犠牲者ぎせいしゃがでる。


は愛用の剣を出し、

軽く一振りしてかまえた。


そのまま相手を見据みすえると、

何かに気付いた奴が逃げ出そうとする。


「逃がしは、しねぇ。」


に剣を出させた以上、

これは喧嘩けんかではなく・・いくさだ。


いくさなれば、手加減てかげんはせぬ。」


・・せいぜい、足掻あがけよ?


はせめてもの忠告をし、

笑顔のままで相手に向かって突っ込んで行く。



・・綺麗きれいな海に、みにく断末魔だんまつまが響いた。




「・・。」


「どうした?」


朝からボーっとして。


いかずちさんの指摘してきに、

私は両腕を組み、記憶を探りながら言う。


昨夜ゆうべ・・

何か夢を見た気がするんですけど、

思い出せないんですよ。」


それがこう・・モヤモヤと。


「朝から辛気臭しんきくせぇ顔すんなって!」


後ろからやって来た上機嫌じょうきげんつるぎさんに、

背中を思い切りたたかれ、

私の体は軽く吹っ飛んだ。


「あぶなっ!」


あわてたそらさんが、

私を空中でキャッチする。


「何やってんだよ!」


手加減てかげんしろ!」


悪ぃ悪ぃ!


そらさんといかずちさんが説教しても、

つるぎさんは上機嫌じょうきげんなだけだ。


「・・お前」


何かに気付いたこおりさんが何かを言いかけー・・

溜息をついて、止める。


いかずちと手合わせして来い。


加減かげんができるようになってから、

彼奴あいつに謝るんだな。」


「オッケー!」


上機嫌じょうきげんのままつるぎさんは、

まだ説教を続けるいかずちさんを無理矢理引っ張り、

出て行ってしまう。


彼奴あいつ、何であんなに機嫌きげんいいんだ?」


不思議そうなそらさんの疑問の声に、

こおりさんが小さく呟いた。


「久しぶりに、

武器で暴れたからだろう。」


「え?!武器で!?」


そっかー!いいなぁ!!




楽しそうなそのやり取りは、

目を回してせきさんに介抱かいほうされていた

私には聞こえなかったのである。

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