仲間と庭


我が家の庭は、殺風景さっぷうけいである。


私が植物を育てるのが下手で、

れてしまう事が多いからだ。


何かを植えて、

庭を綺麗きれいにしたいと考えてはいるが、

何処どこから手を付けていいのかわからない。


そういう訳で、

庭造にわづくりの参考にするために、

仲間達に庭の話を聞いてみる事にした。



「俺んの庭?」


まずは、近くにいたつるぎさんに訊く。


「俺んトコは、

家に近い所は地面のままにしてあるな。

離れた所には木とか、

俺が造った石灯籠いしどうろうとか置いてるけど。」


「何で、家の近くがそのままなんですか?」


疑問に思ってたずねると、

彼は笑いながら理由を話してくれた。


「弟子とかダチと、暴れるからな!

庭で鍛錬たんれんするから、

近くに物があると邪魔になるだろ。」


「なるほど。」


鍛錬たんれんはしないから、参考にはならないなぁ。)


お礼を言ってつるぎさんと別れると、

今度はテレビで野球を見ていた

いかずちさんにいてみる。


「俺の家の庭?」


庭造にわづくりの参考にしようと思いまして。」


「ふむ。

・・参考にはならんと思うが。」


その前置きに疑問符ぎもんふを浮かべる私に、

彼は画面からこちらに向き直ると、

理由を説明してくれた。


「俺の家は、枯山水かれさんすいになっている。

縁側えんがわ座禅ざぜんをするから、

集中できるように色々な物を置かないんだ。」


「そうなんですか。」


(確かに、枯山水かれさんすいは無理だなぁ。)


悩む私に、苦笑したいかずちさんが言う。


「参考にならんだろう?

・・庭の事なら、こおりくといい。」


こおりさんに?」


意外な人選におどろくと、

彼は楽しそうに笑った。


「あぁ。

彼奴あいつの家の庭は、とても美しいからな。

それに、植物にも中々くわしい。」


「なるほど。

じゃあ、聞いてみますね。」


再び野球観戦に戻るいかずちさんと別れ、

私はこおりさんの元へ向かう。


(あ、いた。)


こおりさんは、

ソファーで何時いつもの様に読書中だった。


話しかける為に近づくと

彼から言葉が飛んでくる。


うるさい。」


まだ何も言ってませんが。


視線がうるさい。


「で、何か用か。」


本を閉じて向き直ってくれたこおりさんに、

私は事情を説明した。


「庭を手入れする?」


「はい。」


あきらめろ。


さじ投げるの早すぎます。


「チューリップでさえらせる器用な奴に、

何を教えろと言うんだ?」


「うっ!」


正論に痛む胸を押さえてうめいていると、

彼は溜息をつきながら言う。


「・・ハーブぐらいなら、

お前にも育てられるだろう。」


「ハーブ?

ミントとか、カモミールとかですよね?

どうしてそれなら大丈夫なんですか?」


疑問に思い聞き返すと、

こおりさんはハーブについて

説明してくれる。


「元は雑草だから、生命力が強い。

水を余りやらなくても、簡単にはれないしな。

ただ、繁殖はんしょくしすぎるのには注意が必要だが。」


「へぇ~。

・・で、こおりさんの家の庭はどんな感じですか?」


く必要があるのか?


好奇心こうきしんです。


・・。


痛っ!


デコピンはされたが、

庭の事は何とか聞く事ができた。


彼の家の庭には、

季節問わず色んな種類の花が咲いているらしい。


その中でも特に気に入っているのは、


『宝玉の木』


らしい。


名前の通り、

こぶし大の宝石の玉がる木で、

風が吹くと実や葉が綺麗きれいな音を立て、

日差しでキラキラと輝くそうだ。


思わず


「見てみたいです。」


と言うと、


「今度見せてやる。」


と、少しやわららかい表情で約束してくれた。


その後、

2人でホームセンターに行き、

いい香りのするハーブを選んで、

庭に植えた。


水をやると、

ハーブから独特のいい香りがするのが、

今の私のお気に入りである。


雨の日もその香りがするので、

雨の日の楽しみが1つ、増えたのでした。




それからしばらくして、

庭の片隅かたすみにひっそりと、


硝子がらすのスズラン』が


朝日に輝いているのを見つけた私は


その日、

送り主のおやつを少し多めにしたのである。

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