私と寝不足


「ふぁ~。」


テレビを観ながら、

私は欠伸あくびをする。


目をこすって眠気を覚まそうとしたが、

その最中さいちゅうに再び欠伸あくびが出た。


それをり返していると、

側で同じくテレビを観ていた

つるぎさんが不思議そうな顔でいてくる。


「どうした?寝不足か?」


「なんか、よく眠れなかったんです。」


このり取りを聞いたいかずちさんが、

眉間みけんしわせながら言った。


「また、寝るまで動画というのを

観ていたんだろう。」


「そのせいでしょうか?」


「寝る前の携帯けいたいの明かりは、

よくないと聞いた。」


彼の言葉に納得なっとくした私は、

今日は寝る前の動画は止めておく事にする。



次の日。



「・・。」


テレビを観ながら、

うつらうつら舟をぐ私の肩を

こおりさんがたたいた。


「おい、起きろ。」


「・・・・はい?」


私の顔を見た彼がまゆしかめる。


くまが酷いな。眠れなかったのか?」


「はい。・・昨日は動画観てません。」


でも、夜中に突然、目が覚めて・・。


途切とぎ途切とぎれに私が話す内容に、

側で聞いていたいかずちさんとつるぎさんも

まゆしかめた。


「夜中、目が覚める・・。」


「その時に、何か見たか?」


「気配は?」


その質問に、

眠気でぼんやりする頭を何とか動かし、

思い出しながら答える。


「姿は、見えなかったです。

なんか・・気配はあったような・・。」


「気配はあったか。」


ふむ。


と、あごに指をえて考え込むこおりさんの隣で、

つるぎさんがパッと明るい表情をした。


「そうだ!・・ちょっと待ってろよ!」


そう言って彼はリビングから飛び出して行く。




「あったぞ!」


少しして、リビングに何かを手にした

つるぎさんが戻ってきた。


「ほれ!これやるよ。」


そう言って私に、

手にした物を投げ渡してくる。


「ブッ!!」


私はそれを見事に顔面キャッチし、

彼をにらんだ後、

投げ渡された物を確認かくにんした。


・・・・。


あじ、ですね。」


このリアルあじに、ひれの時計は。


「『にじあじ』ですか?」


私がくと、つるぎさんは


「ハズレ!」


と笑う。


「え?

でも、これあじですよね?」


このシュールさは、他に見た事が無い。


「違うって!よく見ろよここ!」


と、彼はひれの時計を見せてきた。


「・・6時、ですね。」


「そうだ!

『6時だよ!ロウニンアジ君』だ!」


仲間増えたんですね。


「俺の一押いちおしキャラ!」


ハマったんですね。


「とにかく、これ寝室に置いとけ。

絶対大丈夫だから!」


(このリアルなあじを見ながら寝るのか)


うなされそうだとは思ったが、

折角せっかくの好意なので

受け取っておく事にする。



その夜。



「・・・・?」


何かの気配と物音を感じて、

私は目を覚ました。


ぼんやりと起き上がり、

その方向を見て。


「・・え?」


一気に、目が覚めた。


何か黒い影のような物と、

が戦っている。


黒い影は劣勢れっせいらしく、

息もえに相手に言った。


「くっ!

・・もう少しだったのに!」


忌々いまいまに吐き捨てられた言葉に、

戦っていたりんとした声でこたえる。


「この御方おかたがいする事は、

が命にえてもさせぬ!」


が素早く飛び上がると、

手にしていた白刃はくじんが月光にらされ、

強くきらめいた。


その瞬間、勝負は終結しゅうけつする。


「・・ぐっ!」


ぐわあぁぁぁ!!


断末魔だんまつまの悲鳴を上げた黒い影は、

そのまま月光にけるように消えていった。


「・・せめて、安らかに眠れ。」


白刃はくじんを収めたは一言そう呟き、

こちらを振り返る。


「!!

・・もうわけない。

起こしてしまいましたか。」


勝利を収めたが、

トコトコ器用に歩いて、

私の目の前に姿を現した。


「どこか、

怪我けがをなさってはおりませんか?」


そう、心配そうな声音でたずねる

その顔は。


「・・あ、じ?」


だった。


頭が完全に混乱こんらんし、返事を返せないでいると、

かれあわてた様子で顔を近づけてくる。


「どうなさいましたか?!

もしや、何処どこかお怪我けがでも?!

もうわけありません!

拙者せっしゃの力不足のせいで!!」


切腹せっぷくいたします!!


そう言って刀を取り出そうとした

かれを、私はあわてて止めた。


怪我けがは無いです!

おどろいただけですから!」


「そ、そうなのですか?」


そうです。


すると、かれはホッとした声で言う。


「よかった・・。

拙者せっしゃは、貴方あなたを守れたのですね。」


嬉しそうな声をしているので、

多分、喜んでいるのだと思う。


なにせ、

かれはリアルな魚顔(悪口ではない)なので、

表情がわかりにくいのだ。


それに、目力めぢからり過ぎて、

近づかれると若干じゃっかん怖い。


かれはこちら(?)を見て

ひれでかまの辺りをぺち、と叩いた。


今宵こよいより、

拙者せっしゃ御身おんみをお守りいたします!

安心して眠られよ!」


なぜさむらい言葉?


そう疑問に思ったが、

かれに急かされて再び横になった私は、

眠気に負けてあっさりと眠りにつく。


眠りに落ちる寸前


(あ、アジだからか。)


と、どうでもいい事が頭をよぎった。





それ以来。


夜中に度々たびたび寝室で、

かれによる妖の大捕物とりものが発生する。

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