器用と不器用


ある日のおやつの時間。


いつもの様にホットケーキを

各自で作っている最中さいちゅうに、

私はある事を口にした。


「やっぱり、つるぎさんって器用ですね。」


「ん?」


いつもの調子で餡子あんこと生クリーム、

それに今日は抹茶まっちゃアイスを乗せ、

和カフェのメニューの様に

ホットケーキをかざり付けるつるぎさんに言う。


「そうか?

これくらい普通にできんだろ?」


不思議そうな顔をする彼に、

私はそっと自分のホットケーキを見せる。


「これを見ても、そう言えますか?」


・・悪ぃ。


いいえ。


「俺のダチもみんな、

このくらいなら出来るからなぁ。

自分が特別、器用きようだとは思わねぇな。」


見てみろよ。


つるぎさんにうながされ、

私は彼の友人が集まっている所を見た。


そこにいる全員のホットケーキが

大きい事にもおどろいたが、

それぞれの皿の上が、カフェメニューみたいに

輝いている事にさらおどろく。


「皆さんすごいですね。

・・1つ、気になるんですが。」


「なんだ?」


私が特に気になったのは

そらさんの分だ。


今日買って来たのはいつもの

材料のはずなのだが。


「どうしてそらさんの分は、

ウエディングケーキみたいに

なってるんでしょうか。」


「材料持ち込んだんだろ。」


あのクリームの量を、

1人で食べるのか。


・・あ、いつもの事だった。


機嫌きげん良くデコレーションを続ける

つるぎさんから離れ、

私はいかずちさんの元へ行く。


「ケーキのチェックにきました。」


「なんだ、それは?」


疑問符ぎもんふを飛ばすいかずちさんの周りには、

すでに彼の友人が集まり、

静かに食べ始めていた。


食べている最中さいちゅうの皿を見ると、

めずらしく今日は全員甘くしていたのだが。


「シンプルですね。」


「これが1番美味いからな。」


いかずちさんを始めとする彼らは、

バターにメイプルシロップと、

基本の食べ方をしている。


余りにシンプル過ぎて、

口に合う物が無かったのかと

心配になった。


「他にも、何か用意しますか?」


「いや。

これで十分楽しんでいる。

心配しなくても大丈夫だ。」


全員が楽しそうに笑っているから、

本当に大丈夫なのだろう。


安心した私は、

次にこおりさんの所へ行こうとして


「・・・・。」


驚愕きょうがくの光景に、足を止めた。




「あ~!美味かった!」


「そんじゃ、片付けするか!」


全員が食べ終わり飲み物片手に談笑だんしょうする中、

気付いた誰かが言う。


「あれ?あいつは?」


「さっき、

ケーキのかざり付け見て回ってたぞ?」


「どこいったんだ?」


辺りを見回していると、

自分達より小さいのと、赤い長髪が2人で

何かしているのを見つけた。


何してんだ?


全員が疑問符ぎもんふを浮かべながら、

2人の背中に近づいて行く。



「何してんだよ?」


「あ、つるぎさん!

手伝って下さい!」


後ろから現れた救世主に、

私は思わず頼み込んだ。


この事態を解決できるのは、

もう、彼しかいない。


つるぎさんに釣られ、

私達の手元をのぞき込んだ

全員の空気が固まった。


「・・この大量の炭は何だ。」


皿の上に置かれた物を見て、

こおりさんが私にく。


「ホットケーキの進化後です。」


げてんじゃねぇーか!」


「食べ物で遊ぶな!」


私に向かいつるぎさんといかずちさんが怒鳴どなるが


「・・もうわけりません。」


と、

側にいるせきさんが項垂うなだれながらあやまった。


「え?これ作ったのお前?」


「はい・・。」


そらさんの質問に答える声も、

すっかり元気を無くしている。


何人かはおどろいていたが、

別の何人かは


『あぁ・・。』


と、納得なっとくしていた。



私がさっきこおりさんの所に行こうとした時、

せきさんが1人で作っているのが

目に入ったのだが。


その時にはすでに、

この進化後の山が出来でき上がっていた。


「で、放っておけなくて、

一緒に作っていたんですが。」


結果は、量産体制になりました。


威張いばるな。


私がこおりさんにデコピンされている側で、

いかずちさんが溜息をつく。


「苦手なら、苦手と言わないか。


ヒトには出来る事と、

出来ない事が必ずある。


そういう事を正直に言って、

助けを求める事はけっしてはじではない。」


「むしろ、

出来ない事を無理してやって、

怪我けがでもしたらどうすんだ!


今回は

菓子作りだから大した事にはならねぇが、

戦いの中では命取りになる事もあるんだぞ!」


つるぎさんがそう言って、

せきさんに拳骨げんこつを落とした。


更に落ち込むせきさんの背を、

そらさんがバシバシたたく。


「苦手なら、練習すればいいんだって!

一生懸命いっしょうけんめいやってダメなら、仕方しかたねーさ!

それに、得意な奴に教わるのもだぜ!」


って、事で!


「それじゃ、

美味いホットケーキの作り方、

みんなで勉強するぞ!」


そらさんが

ホットケーキミックス片手に、

楽しそうに笑った。




その後、夜まで

『美味しい焼き方講座こうざ

開催かいさいされ。


何とかせきさんは

上手に作れるようになった。


彼が成功した瞬間、

全員が笑顔で拍手喝采はくしゅかっさいを送ると。


「・・有難ありがと御座ございました。」


そう言って、

せきさんは照れ臭そうに笑った。

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