仲間と昔話


今日、

小さい頃に読んでいた本が、

急に読みたくなった。


「あ、あった。」


本棚から大きい本を引っ張り出し、

リビングに持ってくる。


ソファーに座り、

1人で適当な話を読んでいると、

仕事が終わったらしい仲間達が

リビングに入ってきた。


「なに読んでんだ?」


「小さい頃読んでた本です。

色んな昔話がってて面白いんですよ。」


「へ~。」


それぞれ適当に散らばり、

お茶やお菓子を持ち出して談笑を始める。


私も本を読む手を止め、

お茶を飲みながらそれに加わった。


いかずちさんは、

昔話の中でどの話が好きですか?」


何となく気になって、

側にいたいかずちさんに

訊いてみる。


「俺か?そうだな・・。」


お茶を飲むのを止め、

彼は少し考えた後、私を見ながら告げる。


「色々覚えている物はあるが・・。

1番印象に残ったのは、

かも捕りの男の話』だな。」


「ああ、あれですか。」


たくさん捕ろうと欲張って、

起きたかもと空を飛んじゃう話。


「それだ。

幼い頃は鳥と空を飛ぶ事に憧れたが、

大きくなって

『欲を制御できねば身を滅ぼす』

という事を悟った。」


「そうですか。」


いかずちさんらしい答えだなぁ。


つるぎさんは?」


「ん?」


団子を食べていたつるぎさんに訊くと、

お茶と一緒に飲み込み、一息ついて言った。


「桃太郎だな!」


「どうしてですか?」


すると彼は、

自信に満ち溢れた表情で断言する。


「鬼と戦いてぇから!

後、それを倒した桃太郎ともな!

俺なら、お供連れずに正面から攻撃する!」


力強く言い切るその言葉に、

積み重なった鬼の上で勝ち誇る

つるぎさんの幻覚が見えた。


つるぎさんなら、鬼は楽勝ですね。」


「おう!」


彼は楽しそうに返事をすると、

今度は柏餅かしわもちを食べ出す。


こおりさんは?」


「俺か?」


私の言葉に少し考えた後、

彼は眉間みけんしわを寄せて告げた。


「・・カチカチ山だな。」


なんでそんなに不機嫌なんですか。


「好きというより、

に落ちず覚えていたんでな。」


に落ちない?」


柏餅かしわもちをもごもご食べながら、

つるぎさんが明るい声で言う。


「カチカチ山ってあの話だろ?

ウサギがばぁさんのかたき打つやつ。

あれ、最近のだと表現柔らかくしてあるけど、

ホントはタヌキが」


先を話そうとしたつるぎさんの口に、

ドーナツを放り込み強制終了させた。


「それ以上はダメです。」


少し大きくなり、図書館で借りた

『完全版の昔話集』


あれは、好奇心で読むもんじゃない。


くれぐれも、

調べたり、検索けんさくしないで下さい。


責任は取れません。


「それだ。

どうしても、に落ちずにいた。」


「何がに落ちないんですか?」


「あれは、復讐の話なのだろう?ならば」


あの程度は甘い。


「・・・・は?」


「あの程度の復讐、甘いと言ったんだ。

俺ならばもっと、徹底的にやる。


それに、仕掛けた罠も下らん物ばかりだ。

どろの船など、気付かれれば不利になる。」


・・。


「そっちですか。」


「それ以外の感想があるか?」


他のが圧倒的あっとうてきだと思います。


「大体・・。」


それから、こおりさんによる

『素人でも失敗しないわな講座』

急遽きゅうきょ開催かいさいされた。


私は不参加を決め込み

お菓子を食べていたが、

他のみんなは真剣に聞いていた。



後日、この講座を開いた弊害へいがい

あちこちで多発する。


カードゲームが

異様に強くなる者が表れたり


食べ物に辛子からしやワサビを入れられ、

水をがぶ飲みする被害者が増えた。


食べ物の件は、

仕掛けた犯人がいかずちさんに捕まったので、

収まるだろう。


1番厄介やっかいだったのは、

つるぎさんの悪戯いたずらがLVアップした事だ。


仕掛けやタイミングが巧妙こうみょうになり、

犠牲者が増えてしまった。


でも、これも直ぐに鎮静ちんせい化するだろう。


さっき、私は見てしまった。


お気に入りの筆をキラキラにデコられ、

こおりさんが笑顔で犯人を捜していたのを。


遠くで誰かの悲鳴が響いたが、

私は何も知らない。




今日も平和だ。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る