喧嘩と格闘技


つるぎさんは喧嘩好きだ。


いつも自分より強い存在を求め、

体を鍛え技を磨き、

色んなヒトに勝負を吹っかけては

楽しそうに戦う。


いかずちさんは武術が好きだ。


常に自分をりっし、

体を鍛え技を磨き、

どんな相手にも油断せず

自分より強い相手を求めている。


こうしてみると、

『喧嘩と武術って同じ』

だと思う。


「全然違う(ぞ)。」


2人に感想を伝えると、

同じタイミングで否定された。


「喧嘩ってのは、

楽しくやるもんなんだよ!

自分より強い相手に素手、

1対1が基本だ。

後、終わったら恨みっこ無しな。」


「武術とは、

己の心身を鍛える物だ。

自分より強い者に

正々堂々と1対1で勝つ。

試合が終われば互いに相手を尊敬し、

決して恨む事はしない。」


ほぼ同じじゃないですか。


「いや、

喧嘩にはルールが無いだろう?」


「でも、つるぎさん

『1対1で素手』って

言いましたよね?

これはルールですよね。」


うむ。


「武術は

反則技使っちゃダメだろ?」


「でも、いかずちさん

『生き残る為には不意打ちも

視野に入れねばならない。」って

私に教えてくれましたよ?

時にはそれも戦法の1つだって。」


おう。


「で、

喧嘩と格闘技、どう違うんですか?」


・・・・・・。


あれ?

頭を抱えて黙ってしまった。


「・・大体、

お前がややこしい事教えるからだろ!」


つるぎさんがそう言って、

いかずちさんを睨む。


「戦法は生き残る為に必要だ。

お前こそ、戦いに感情を持ち込むのは

止めろ。」


いかずちさんも、

つるぎさんを睨み返す。


睨み合う2人の間に、

嫌な空気が漂ってきた。


「あ、あの、喧嘩は・・。」


これは、不味い。


この2人は以前、

意見の違いでよく喧嘩をしていたらしい。


でも、

お互いの考え方を尊重そんちょうする様になり、

仲良くなったという話を

別の仲間から聞いた。


それまでは色々な物を壊す

大喧嘩をしていたとも言っていた。


2人が静かに拳を構え、

闘気が家の中を渦巻いていく。


「ここできっちり、

形をつけようじゃねぇか。」


「望むところだ。」


ちょっと!誰か!!


「いくぜ!!」


「こい!!」


わあああ!!


2人が目に見えない程素早く間を詰め、

その拳が互いの顔面に向かって放たれる。


その瞬間、2人の体が吹っ飛んだ。


うるさいぞ、愚民ぐみん共。」


あ、こおりさんだ。


どうやら、間に入ったこおりさんが

2人を蹴り飛ばしたらしい。


「くっ・・!」


「いってぇ~!」


いかずちさんは座り込んで頭を押さえてるが、

逸早いちはやく復活したつるぎさんがこおりさんに

詰め寄った。


「何すんだよ兄貴!」


ちなみに、

こおりさんはつるぎさんの実兄で長兄だ。


なので。


「近寄るな、むさ苦しい。

話は聞くから5m以上離れろ。」


聞く気ねぇじゃん。


「文句があるのか?」


ありませんです、お兄様。


「で、馬鹿共は何故喧嘩になった?」


あ、そこで私に訊くんですね。


私はとりあえず、

今までの経緯いきさつを話した。


ら、額に思いっ切りデコピンされた。


「お前が悪い。」


との溜息付きで。


「気になったんですよ。

一応武術をたしなむ者としては。」


私も一応、空手経験者なので。


「好奇心は身を亡ぼすと

何度も教えた筈だが?」


睨まれた。


部屋の中が、

吹雪が吹き荒れているみたいに寒い。


「で、どう違うんですか?」


りてないな。」


痛い。


「武術とは、精神を鍛える物。


武術家の戦う相手は己自身であり、

怠惰たいだ自己顕示欲じこけんじよく、力への渇望かつぼう

そういう物に打ち勝ち、

正しく昇華しょうかする為にある。


一方喧嘩は、自己を守る為に行う。


意見、プライド、立場や人物、

そういうのを譲れない時にやる物だ。


これだけ見れば、戦う理由が違うのが

決定的な違いだが、

どちらも力の振るい方で

その質が変わるという点については、

同じだな。


武術家が自己満足で力を振るえば、

その辺のゴロツキと変わらん。


喧嘩でも誰かを守る為ならば、

それは戦いと呼ぶ。」


「なるほど。」


「この2人に限って言えば、

行動派な馬鹿か、慎重派な馬鹿かの

違いだけだが。」


こおりさんは鼻で笑って、

2人にそう言った。


ムッとしたいかずちさんが

反論を試みる。


「こいつと一緒にするな。」


「違うとでも?

此奴こいつが居ながら喧嘩をしようとしていたな。

お前たちの喧嘩に巻き込まれれば、

無事では済まないと解っていた筈だが?」


「・・・・。」


返す言葉も無い。


「お前は落ち着け!」


「いってぇ!!」


米神こめかみ蹴るのやめてくれ!


「次、同じ事をする程馬鹿ではないな?

・・もし、同じ事をすれば」


その使えない頭を蹴り飛ばす。


「申し訳ない。」

「すみませんでした!!」


2人はこおりさんに向かって

頭を下げた。


「お前も2人に謝れ。」


「ごめんなさい。」


私は2人に向かって頭を下げる。


「いいな、もう2度とするなよ。」


そう言って、こおりさんは帰って行った。




その1時間後、

あんはこしあんかつぶあんか」で、

めた2人は音速の蹴りを頭に喰らった後、

罰として5時間の正座をさせられ。


その原因を作った私は、

デコピン連打と原稿用紙200枚の

漢字書き取りを命じられた。




1番怖いのは喧嘩する2人ではなく、

罰を言い渡す満面の笑顔のこおりさんだと思う。

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