奇妙な夢


「うっわあああああああ!!」


始まりがこんな悲鳴で申し訳ない。


しかし、

ただいま手になたを持つ、

人間大の日本人形と

追いかけっこの最中なので、

見逃して頂きたい。


「しつこいなぁ!!」


夢の中なので体力に限界は無いが、

それでも後ろでニヤニヤ笑う人形を

見ていれば、精神力は減っていく。


「あっ!!」


こんな所でも、残念な運動神経は

仕事をしてくれるらしい。


ホラーの定番である

『逃げている最中に転ぶ』を

やってしまった。


これは色んな意味で痛い。


精神的にも、立場的にも。


もちろん、今の状況には一番痛い。


げらげらわらう日本人形が、

手に持ったなたを私目掛けて振り下ろす。


「うっ・・!!」


思わず、

現実逃避で目をつぶってしまった。


バキャ


と音がしただけで、

体に異変は来ない。


「・・?」


恐る恐る目を開けると、

人形は顔面が砕け、床に転がっていた。


「無事か?」


いつの間にか、隣に心配そうな表情の

いかずちさんが立っている。


「助かりました~。」


手を貸してもらい、

その場に立ち上がった。


「また、何かが入り込んだのだな。」


「みたいですね。

手伝ってもらえますか?」


お願いします。


「任せてくれ。」


頼もしい返事を聞いて、

私は目を閉じる。


「・・ふむ。」


目を開けたが、

確かめる様に手を握ったり開いたりした。


「向こうに、強い気配がある。

それを叩けば、終わるだろう。」

(行きましょうか)


ブン


と手にした長い金属の棒を一振りし、

私はそっちに向かって走り出した。


気配に向かって走る中、

フランス人形やマネキンなど、

あらゆる人形が襲ってきたが


「邪魔をするな。」


と一言呟いて、足を止めず

棒の一振りで全て薙ぎ払っていく。


「世の中には、

色々な人形があるのだな。」

(それ、デッサン人形です。

絵を描く時、体の動きの見本にします。)


砕けて、使えなくなりましたけど。


走り続け、壁を飛び越え、

木々の枝から枝へ飛び移って進んだ先、

小さいお堂があった。


お堂はボロボロで

異様な気配を放っている。


でも、私には

その前にいる女の子の方が

ずっと異様に見えた。


優しく微笑んではいるが、

これは敵だ。


だってその目は、

『白目が黒で、黒目が真っ赤』

なのだから。


「遊びましょ?」


女の子が微笑みながら

こっちに向かって手を伸ばす。


「断る。」


ははっきり拒絶し、

攻撃のため身構えた。


僅かに驚いた表情をする

女の子に向かって、は最終通告をする。


「このまま手を引けば良し。

引かぬのならば・・。」


女の子は、

黙ってにっこり、笑った。


「そうか。」


次の瞬間

は女の子の横を走り抜け、

手にした棒でお堂をたて真っ二つに壊す。


「これ以上、

人に手出しはさせん。」


女の子が隠し持っていたなたが、

地面にガランと音を立てて落ちた。


可愛かった女の子の姿は崩れ去り、

その姿は角の生えた老人に変わる。


目を見開いて驚いた表情をしていた老人は、

そのまま黒いきりになって消えてしまった。


ガラスが割れるような音を立て、

たてに割れたお堂も同じ様に黒いきりになり、

消えてしまう。


(本体は、お堂だったんですね。)


だまされました。


(すいません。まだまだ未熟者で。)

「慣れていけば大丈夫だ。

あせれば、更に危険な事になる。」


はい。


「これで終わったぞ。

まだ夜は開けていない。ゆっくり休め。」


は目を閉じ、私に語り掛ける。




そこで、目が覚めた。


「・・・・。」


ありがとう、ございました。


そう呟いて、私はまた目を閉じた。


(朝になったら、もう一度お礼を言おう。)


眠りに落ちる寸前、そう考える。




朝まで、夢は見なかった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る