雷さんと野球


いかずちさんはスポーツ観戦が好きだ。


特に野球を観ていると

楽しそうにしている。


なので我が家では、

野球のシーズンはみんなで

テレビ観戦をする。


最近では興味の無かったヒトまで

飲み物(麦茶)片手に

真剣に見ている。



しかし、私自身はそこまで

野球は好きではなかった。


むしろ、

小さい頃から最近まで嫌いだった。


夏の特撮番組は、

野球で中止される事が多い。


小さい頃、

ワクワクしながらテレビを点けると、

中止のお知らせが画面にでっかく映り、

それを観て駄々をこねては怒られていたのだ。


なので、いかずちさんにもそれを伝え、

野球は詳しくないし嫌いだとも伝えた。


すると、彼は


「そうか。」


とだけ言って、

さびしそうに微笑ほほえんだ。


その笑みに罪悪感で

つぶされそうになった私は


「野球の楽しさを教えて下さい。」


と、反射的に白旗しろはたを上げた。


降参した私は悪くない。


あの時のいかずちさんにはわんこが

乗り移っていたのだから。


犬派には、

あの目に勝てる者はいない。


すると、いかずちさんは早速さっそく


「スポーツは、

実際にやってみた方が面白い。」


と、私にキャッチボールを教えてくれた。


でも。


「・・・・。」


10分後。


私の体が地面に転がっていた。


「だ、大丈夫か?」


いかずちさんが心配して声を掛けてくれるが

返事が出来ない。


余りの嬉しさにいかずちさんは、

私の残念な運動神経の事をすっかり忘れ、

のキャッチボールの練習を

してしまったのだ。


「おいおい。

大丈夫かよ、これ。」


つるぎさんに突つかれても、

指を振り払えない。


「す、すまない。

これ位なら大丈夫だと思ったのだが・・。」


すみません。

運動神経が生まれた時から家出中なんで。


「キャッチボールなんて

無理に決まってんだろ!

こいつに運動させるなんて、

ありにエベレスト登れって言ってる様なもんだ!

ありが、エベレストや富士山を

登れると思ってんのかよ!」


「すまない。」


悲痛な表情で

納得されてしまった。


その後、つるぎさんは

おやつ抜きにしておいた。



それ以来、

いかずちさんはテレビを観ながらの

解説に切り替えてくれた。


いかずちさんの解説は初心者でも解りやすく、

同じ事を何度聞いても馬鹿にせず、

丁寧ていねいに教えてくれる。


おかげで私は、

少しだけ野球を楽しんで観られるようになった。


でも、1番楽しいのは、

仲間と話しながら観ている事だったりする。




今日も我が家では

テレビに野球の試合が映り、

それを観る賑やかな仲間の声が響いている。

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