第9話


「そうだった。俺は先の大戦で負傷して悪い魔法使いであるリィーセに捕まってしまったのだった。

 なので、チィーヤが助けに来てもらうのを待っていたんだった。

 ありがとう。助けに来てくれて…………、」


 明らかな嘘をついて来たチィーヤ。

 すぐに『嘘はやめろ』と言うことは簡単なのだが、すぐにそう言ってしまっても仕方がない。

 リィーセはノリツッコミが得意だと言っていたが、俺はノリツッコミではなく、ノルだけ乗っかってチィーヤが何を狙っているのか真意を引き出してやろう。

 それに対して、チィーヤはジノの手を両手で握り、


「いえいえ、私の主人であるジノ様をお守りするのが私の責務ですので……。

 ここには、悪い魔法使いであるリィーセがおりますので早く私のアジトに行きましょう。

 体調が優れないようですので私の契約精霊であるイースにお乗りください。

 それでは、『我との契りに従い、出でーーーー…………』」


 と、チィーヤが契約精霊を呼び出そうとしている途中で詠唱が止まった。

 いや、止められたと言っていいだろう。

 リィーセがチィーヤの頭に大量の水を落としたのだった。

 それによって、近くにいるジノも自然とかかる。

『なんてことをするんだ』とジノはすぐに言おうとしたが、リィーセが先にチィーヤへ言葉を発する。


「私のお兄様に近づかないでください。

 お兄様が汚れます。汚れます。汚れまぁ〜す」

「あら、リィーセ、あなたはまだここにいたの?

 ここは、私とジノ様の場所なの。早くどっかへ行ってくれないかしら?」


 長いブロンズ色の髪を触りながら言うチィーヤ。

 チィーヤとリィーセからはとても険悪な雰囲気が流れている。

 ジノはその雰囲気から、


(まったく何言ってるんだかわからないんですけど。

 というか、いきなりここに押し入って来てなんでそんなに自分の主張が一番正しいっていうオーラを出しちゃってるの? わかんないんですけど。

 早く落ち着いた、静かな状況になってくれないかな……。

 今の状況がどんな状況なのか誰か俺にていねいに説明して欲しい……)


 と考えているが、どうやら状況はさらに悪化していく一方らしい。

 リィーセはチィーヤの方を睨みつけて、


「ここは大魔法使いである私とお兄様の場所なんです。

 だから、チィーヤは早く出て言ってください。

 これ以上おかしなことばかり言っていると実力で排除しますよ」

「あら、あなたがそんなことをできるならやってみなさい。

 いいわ、受けてあげる。

 先の大戦であなたは私に負け越していたわよね。

『我との契りに従い、出でよ、イース』」

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