第3話 クッキーさん、その甘味はほろと溶けて。 あと儀式

 午前の授業が終わり、私達は静かに食堂へ向かった。

 石造りの建物は靴音をよく響かせ、静かな雰囲気も相まってどこか寂しげな雰囲気を感じさせる。


「どうしたの?」

「ううん、なんでもない」


 遠くで聞こえる音が気になって足を止めてしまった私にモードが声をかけてくれたけど、まあ……きっと気にしすぎ。


 廊下の厳かな雰囲気とは真逆の喧騒が食堂にはあった、食べたい物を頼む声にそれに応える声、色々な人たちが食事をしなが話す声が聞こえる。

 何を頼んでも問題ないって事みたいなので、「一番多く食べられてるメニュー!」といって注文した。

 幾つかの皿がのせられたトレーを受け取って皆と一緒に座り、出された料理を確認する。


「……なんだろう、これ。 スープ?」

「スープ? んーまあそうかな、ミルクのスープ」

「うえ……ミルク、なんかやだな」

「そんなこと無いって! 食べてみてよ、それでおいしかったらこのパンにつけて食べてみて」


 ちょっと気が進まないけどモードがそこまで推すなら美味しいのかな……?

 スプーンを差し込んで白いドロリとした液体と人参の塊をすくって口にはこぶと、想像とは違う味が広がった。


「ふあ……おいしい、とろとろで甘いんだけどしっかり味がついてて」

「でっしょー」


 白い歯を見せて笑うモードに笑顔で応えてからこのシチューに夢中になっていた。

 濃厚な分舌に飽きは来るけど、付け合わせられていたサラダを少したべ、口の中をさっぱりとさせるとまたあの美味しさがもどってくる。

 パンをちぎって浸けてたべても凄く美味しい、すごいな。

 うちの宿でもだ……すのは無理か、ミルクをこんなに贅沢には使えないもんね。


 はぁ……。 ため息がでちゃうね。


「ため息、どうしたの?」

「ああううん、なんでもないよ」


 とっくに食べ終わっていたココが心配してくれたけど、なんでもないってごまかしちゃった。


「うーん、よかったよかった」


 完食して満足感に浸っていると、午後の開始を告げる鐘が響いてくる。


「いくぜー」


 ご飯を食べて元気になったルカが皆を促し、食器を返却してから教室に戻った。


「ふぁ……」

「俺もねみぃ……」


 教室に入るなり私はあくびをしてしまい、それをきいたルカも眠気を訴えた。

 席について程なく、優しそうなお爺さんの先生が現れた。


「魔法担当のササンドです、よろしくー」


 軽い挨拶だけど、色々やりやすそうな感じ……ねむ。

 もう一度あくびが出そうになって思わず口を押さえた、危ない危ない……ってルカ机に突っ伏して寝てるんだけど。


 おじいさん先生は楽しそうに笑うと左手を自分の目の前にかざし、そのまま上に引き上げた。

 その瞬間眠気が無くなり、頭がすぅっと冴え渡った。 ルカも飛び起きてきょろきょろしてる。


「ふふふ、では始めましょうか」


 ササンド先生は教卓にのせられた模型をいじりながら説明をはじめた。


「魔法は、空気や地面に含まれている魔力を使うことで効果を発生させることができます、皆さんが魔力を取り込んで自由に使うことができるんです。属性という物もありますが、それは向き不向きというだけで完全な優劣をつけるものではありません。 性格みたいなものですね」


 性格ねぇ……、ルカは火、クライドは地……モードは水にココは風ってとこなのかな。

 配られた紙にかかれている5種類の属性の特徴を見ながらなんとなくそう考えていた。


「まあ複数の適正ある人もいますし、無い人もいます。それは生まれ持った才能です」

「その才能はどうやればわかるんですか?」

「良い質問だ、えーと……クライド君」


 ふん、という感じで鼻をならしたクライドを無視してササンド先生が説明を続けた。

 っていうかクライドは態度よくないよね。


「そうですね、儀式の後に皆さんの適正を見るのでその時のお楽しみにしましょうか」


 ふあ……難しい話はわかんないや、さっきのスッキリするやつもう一回やってくんないかな。


―――


 授業が終わってココ、モードと三人部屋に戻ると、モードが自分の荷物の中から金属でできた箱を取り出してきた。


「それは?」

「ふっふー、見て驚け!」


 カパという小さな音を立てて開いた金属の箱の中には小さな板が詰まっていた。


「これな……」

「うわ……すごい! これクッキーだよね?」

「そう!」


 ココがこれだけ食いつくってことはそうとうイイモノなのかな。


「一つとって食べてみてよ」

「あ、うん」


 一枚摘んで口に放り込むと、一瞬で甘さと香りに支配された。

 あまりの衝撃に意識を失いそうになったけど、なんとか持ち直して味わい尽くす。


「ど、どうしたの?」

「なにこれどういうことなの?」


 モードもココも何のことだかわかっていないようだった。


「こんなに美味し物があるなんて思わなかった……さっきのシチューもそうだけど都会ってすごいね! 幸せ!」


 私の言葉を口を開けて聞いていた二人だったけど、突然笑いだした。


「あははははっ、クッキーでそんな事言う人はじめてみた」


 私の言葉にモードは大笑い、ココも声を潜めて笑っていた。


「あ……ごめん」

「あははは、いやいやいいのいいの。さっきのシチューをみてクッキーを思い出しただけだからさ。はい、もっとどうぞ」


 クッキーを食べ、皆でお話してたくさん笑い、いつの間にか寝てしまっていた。


――――


 昼とも夜とも言えない空の色、それを見上げていた私は誰かの気配に気づいた。

 見たこともない男の人が私に近づき、会話をすることもなく私を斬る。

 斬られた私は何も言い残すこともなく目を閉じた。

 目を閉じる直前、四人の影が見えた気がした。


――――


 うぇー、変な夢。

 起きるとモードとココももう起きて準備に入っていたので私も同じように部屋を出る準備を初めた。



 今日の朝食はほんのりと焼いたトーストに赤い果物のジャムにカラフルなサラダだ。

 サラダに乗っている甘酸っぱいトマトが眠気から私を救い出してくれた。


 そんなこんなで食べていると、ローレンツさんも朝食を持って私達と同じ机に座り、食事を始めた。


「食べながらで良いから聞いてもらえるかな」


 私たちは食べながら頷いた。


「儀式を行うのは今日です、朝食が終わったら体を湯に浸けて身を清めてください。案内役をつけるので、身を清めた後は案内役についていってくださいね」


 言われたとおりに食後お風呂に案内され、隅々まで丁寧に洗われた。

 見たこともないような液体を体中に塗りたくられて磨かれる、髪にも別の液体を掛けられて丁寧に洗われた。

 その結果、肌の表面はモチモチでしっとりとした感触を得、髪はフワフワとしていた今までと違ってつるつるでサラサラと解け、艶のある美しい青を見せる物へとかわった。


「うわぁ……すごい」


 ココやモードも同じように、いやモードは元から綺麗だったけど、綺麗に磨かれていた。

 特にココはわたしと同じように自分の体の変化に戸惑っているようにも見えた。


「下着はつけずにこちらを身に着けてください」


 光に透かすと向こう側が見えるような薄い一枚布を渡された。


「え?これ一枚ですか?」

「そうです」


 うっそでしょ……殆ど裸じゃない。っていっても逆らえないし、着よう。

 横を見るとココは少し抵抗しているようだったけれど、モードはそれほど気にはしてないようだった。


 三人共に薄布を纏うと、今まで歩いていた廊下とは別の列にある廊下を通り、大広間へと案内された。

 大広間の中心にはすでにルカとクライドがいて、目隠しをされていた。

 私達も同じ場所に連れて行かれて目隠しをされる。


「そろそろ時間だ、準備をしろ」


 ローレンツさんの声が広間へと響く、その声が広がると周りの空気がピリピリとしたものにかわった。


「そのまま立っていてくださいね、ククク」


 女性の笑い声が聞こえたか聞こえなかったか。 私は突然猛烈な眠気のような物に襲われて意識を失った。

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