第5話 化けの皮

芦田は生まれつき不思議な能力を持っていた。

両手を差し出しなりたい自分をイメージする。

すると手には卵膜よりも薄い膜があらわれる。

それを顔に張り付けると、心身からなりたい自分に変身できるのだ。

芦田はそれを化けの皮とよんだ。


窮地に追い込まれた時、芦田は化けの皮を張り付けた。

どうしても叶えたい願望がある時、芦田は化けの皮を張り付けた。

人生で何度も何度も何度も何度も化けの皮を張り付けてきた。


ある日芦田の恋人はこう言い、芦田のもとを去った。

「本当のあなたがわからないわ」


芦田自身も本当の自分というものがわからない。

芦田は化けの皮を一旦剥いでみることにした。

何年も積み重ねられた化けの皮を剥ぎ取り。

芦田は鏡を見た。

そこには何もなかった。

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