第3話 ぬいぐるみ修繕士

僕はぬいぐるみ修繕士という職業に就いている。


地球に生きる人間は2種類のものがいる。

ひとつは血肉でできた生物。

もうひとつは綿が詰まったぬいぐるみの自動人形だ。


生物の人間はぬいぐるみの人間の存在を知っているが、

そのことはぬいぐるみの人間には知らされておらず、

ぬいぐるみの人間はこの世には生物の人間しか存在しないと思っている。

それが社会のルールなのである。


ぬいぐるみの人間はたまに壊れる。

それを直すのがぬいぐるみ修繕士の仕事である。


今日も心療病院という名のぬいぐるみ修繕所には多くのぬいぐるみがやってくる。


「心に穴が開いたような…」

「毎日が無気力で…」

「何も手につかなくて…」


それは当然である。なぜなら彼らの体は心の代わりに綿が詰まっているのだ。

生物の人間が持つような本物の情熱の心を持ち得るはずがない。

僕はそれを感知できるようになったぬいぐるみの感覚を鈍らせ、

人間社会に適合できるように日々直している。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る